04 神社有職故実
 
〈神座〉
 
 御霊代を奉安するお構カマエを「神座シンザ」と称えます。由来、神座の形式には種々あり
ますが、本殿の様式によって自ら異なるものです。
 本殿の様式は、時代の変遷、推移、仏教建築の影響などによって様々な変化を辿って
来ましたが、神社建築の立場から大別しますと、(一)神明造シンメイヅクリ、(二)流造ナガ
レヅクリ、(三)権現造ゴンゲンヅクリの三つに分けられます。
 従って神座の構は、神明造には(一)御玉奈井オンタマナイ、流造には(二)御帳台ミチョウ
ダイ、権現造には(三)御賣(木扁+賣)オトクが相応しいと思います。以下三様式の神座
の構について説明します。
 
△御玉奈井(神明造社殿)
 御玉奈井の神座は神明造の社殿に適当であって、玉奈井は「玉居タマナイ」とも書きます。
即ち玉は美称で、「美わしき御座所」の意味です。
 伊勢の皇大神宮・豊受大神宮、愛知県の熱田神宮は神明造で、神座は御玉奈井です。
伊勢の神宮が何時からこの神座を用いられたかは詳かではありませんが、既に延暦儀式
帳に載せてありますので、少なくとも一千百余年前からのことと言えます。熱田神宮の
社殿は、近く神宮に準じて神明造に改築されたので、神座の御玉奈井もそれ以後のこと
です。
 
 皇大神宮儀式解に拠りますと、「玉奈井はその形の木を組んで井字の如くなるよりい
へり。今いふ組天井形なり」と説明してあります。
 玉奈井につき、遷宮記・御餝記ゴショクキなどによって、その大略を述べますと、四隅に
土居ツチイ(土台)を置き、柱四本を立てます(柱の長さ一丈四寸、弘さ五寸、厚さ四寸
)。その上に八尺五寸四方の組入の天井テンジョウを載せます。天井には生絹スズシ(単ヒトエ、
十幅仕立)を張ります。格子コウシの間数マカズは縦横共に十二、格子の小組目毎に花形の釘
を打ちます。 以上が骨組で、その中に御床オンユカ二脚(一脚の長さ八尺一寸、横四尺三
分、高さ一尺)を前後に並べておき、その上に御茵オンシトネを敷きます。御霊代の上から御
衾オンフスマを覆います。而して御玉奈井の全体を白生絹の御蚊屋オンカヤ(御巾(巾+巴)オンオオ
イのこと)二条(一条は前後を一条は左右を)を以て覆い奉ります。こと神秘に属し、寸
尺その他時代による異同はありましょうが、以上で御玉奈井の大体は覆うことが出来ま
しょう。
 神明造は奈良時代以前に出来たものです。宮殿建築としては最古の様式で、特徴は直
線形、切妻キリヅマ、平入ヒライリなどが挙げられます。内部は内陣ナイジン、外陣ゲジン区割はあ
りません。
 一般の神明造の社殿に、この御玉奈井の神座を構えるとしますと、社殿の規模に応じ
てその大きさを考慮しなければなりません。
 
△御帳台(流造社殿)
 御帳台ミチョウダイの神座は、流造ナガレヅクリの社殿に適当です。流造は平安時代に出来た建
築様式で、神明造の前面に向拝コウハイを附けて曲線形の屋根を冠せられます。屋根の前方
が緩やかに流れているので、この名があります。京都の賀茂カモ別雷神社ワケヅチジンジャ(上
賀茂神社)、賀茂御祖神社ミオヤジンジャ(下賀茂神社)の社殿がその典型的のものです。
 御帳台は、平安時代の中期頃に出来た寝殿造シンデンヅクリ(住宅)の広間に設けた構カマエ
で、帳台は「帳内チョウナイ」の転語とも云いますが、つまり帳チョウを張った台のことです。
禁中では清涼殿セイリョウデンと常寧殿ジョウネイデンとにこれを設けられ、初めは高貴の家に限り
ましたが、後には地下ジゲの家まで及んで広く用いられたものです。
 斯く流造の社殿と発生を同うする関係からしても、御帳台を以て流造の神座とするの
が最も適当な訳です。次に御帳台構カマエの大略を述べます。
 
▲御帳台
 本殿(南面)の内陣ナイジン中央に薦コモ又は板鋪イタジキを敷き、その上に御浜床オハマユカ(黒
漆塗)、その上に厚畳アツジョウ(繧繝縁ウンゲンベリ)を敷き、その上に帳骨チョウホネを立てま
す。帳骨は四隅に鍵形の土居ツチイ(土台)を置き、それに各三本の柱を立てて、その柱の
上に井桁イケタの天井を附けたものです。
 その天井の上に各間マを更に小組にした格天井コウテンジョウを置きます。この格天井には白
絹を張ります。その上を被絹オオイギヌで覆い、最上に井桁の押木オサエギを置きます。
 次に五幅の帷カタビラを張骨チョウボネの天井框テンジョウガマチから四方に垂れ、四隅には各二幅
の角帷スミカタビラを垂れます。
 次に帳台の天井框に添って、一続きの帽額モコウを引廻ぐらします(一幅ものを二折、折
目を下にして右。奥の隅から掛け始め隅毎に襞ヒダをとる)。
▲御帳台内外の装飾
 内部では、帳骨の前面左右の柱に懸角カケヅノ(木製で犀角サイカクに象カタドる)を懸け、後
面左右の柱に八稜鏡ハチリョウキョウを懸けます(角は魔除け鏡は邪気除けと云う)。
 外部では、帳台の左右に几帳キチョウを立て後方に屏風一雙ナラビを立てます。前面の左右
に、向かって右に獅子(黄色又は金色、口を開く)、向かって左に狛犬コマイヌ(白色又は
銀色、口を閉じ、有角)を相対して置きます。
▲御帳台の御座
 御帳台の中央に御座を設けます。即ち下から厚畳アツジョウ(最初帳骨の下に敷く)、八
重畳ヤエダタミ(厚畳と八重畳との間に大床子ダイショウジを設けることもある。賀茂神社はこ
れによる)、竜鬢リュウビン、御茵オシトネを順に上に重ねて敷きます。別に御茵の下から内陣
の御扉際ミトビラギワまで褥茵ニクタンを延べ敷きます(平常は巻き置き、遷座又は渡御トギョの
際に延べ敷く)。
 御茵の上に、御霊代辛櫃カラヒツ又は御船代を奉安して、御衾を以て覆い、最後に錦蓋キン
ガイを以て御座を覆います(錦蓋は御帳台の天井、或いは内陣の天井にかける)。
 
 御帳台は、元来六尺七寸の柱を立てた立方形の大きな構ですが、神座としては社殿の
規模に従い適当に斟酌シンシャクすべきです。
 以上の御帳台を神座とする神社は甚だ多く、賀茂上下神社を初め、宇佐ウサ、香椎カシイ、
宮崎、橿原カシハラ、平安ヘイアン、札幌、明治、志波彦シバヒコ、金崎カナガサキ、阿倍野アベノ、藤島
フジシマ、靖国ヤスクニ、霊山リョウゼン、山内ヤマノウチ等の神社は皆これを用いています。
[次へ進んで下さい]