神様の戸籍調べ
四十三 大国主命オホクニヌシノミコト
戸籍簿
御本籍地 島根県簸川郡杵築大社
父須佐之男神 奴神
母木之花散比神 ― 日河比売 ― 父深淵之水夜礼花神
〃 ― 母天立都度閇知泥神 ― 父淤美豆奴神
母布帝耳神 ―
― 父天之冬衣神
母刺国若比売 ― 御子 大国主命
須佐之男命ノ女 正妃須紀理比売
稲羽 妃八上比売
妃神屋楯比売
妃多紀理比売
八島牟遅ノ女 妃女鳥耳
大国主命 御子 木俣神 母八上比売
〃 阿遅且(金+且)高日子根神
〃 高比売命 亦名下照姫命 以上母多紀理姫
〃 事代主命 母神屋楯姫
〃 鳥鳴海神 母女鳥耳
〃 建御名方神 母沼河姫
右は古事記、日本書紀等の御系譜であるが、旧事本紀、出雲風土記によると、次のや
うな系譜になる。
父 素戔嗚尊 ― 思姫命
市杵島姫命
端津島姫命
八鳥士奴美神
五十猛神
大屋律比売
抓津比売神
事八十神
大己貴神 ― 味且(金+且)高日子根神
須勢理姫神 下照姫命 以上母田心姫
大年神 都味歯八重事代主命
倉稲魂神 高照光姫大神命 以上母高津姫命
為木一言主神 御井神 亦名木俣神 母稲羽八上比売
都留支日子神 建御名方神 母高志沼名河姫
国忍別神 賀夜奈流美命
磐坂日子神 山城日子命
衝杵等卒面留比古命 若布都主命
青幡艸日子命
八野若比売命
大国主命はオホクニヌシノミコトは色々申し上げて、大己貴オホナムチ、葦原色許男アシハラノシコヲ、八千
矛ヤチホコ、美国玉ウツクシタマなどと云ふ五つの御名がある。
この神様は普通大国ダイコク(大黒)さんとか、副大黒とも云はれ、須佐之男命の御子孫
とされ、最も名家の御子様でそして出雲の国に御住になってゐられた。御兄弟は非常に
沢山あって、何れも心のよからぬ方々であったので、常に弟になる此大国主命ばかりを
意地目てゐた。
然るに、茲に因幡イナバと云ふ出雲から東の方に国があって、八上比売ヤカミヒメと申す頗る
世に稀なる美人が居られたので、ご兄弟仲間で、この方を御嫁さんに貰い度いと、色々
苦心してゐた。遂にある時、八十神ヤソガミ達が因幡に出かけて、直接談判することにな
り、弟の大国主命は家来同様に、沢山重い荷物を容れた大きな袋を脊負ショワして、実に見
すぼらしい風をさせて御供につれて行かれた、それは、大国主命は御心が従順で慈悲深
くあらせられたから、自然御心の程が顔に表はれ、誠にやさしき方であり、美しい方で
あったから、八上比売がこの方を撰抜しては、よい気持がしないと云ふ心の御兄弟達の
胸にあった。
大国主神は重い荷を背負ってゐるので、御兄弟達とは道がやゝ後れてトボトボと御出
でなさると、丁度八上比売の御住間近き因幡の気多岬に於て、一匹の兎が丸裸になって、
風の吹く所に、オイオイと声を挙げた泣いてゐた、元来慈悲深い大国主命は、可愛層に
思し召し、
「コレコレ兎や、御前は何故、赤膚アカハダになって泣いてゐるのか」
と御尋ねになると、彼兎は泣きの涙の中に物語るやう、
「はい、私は元、海の彼方にある隠岐オキの島にゐましたが是非、本国に渡り度いと思
っても、舟もなし、翼なき身の悲しさ、幾久しい間、どうかして渡り度いものと思案し
てゐましたが、ある日のこと、海岸に出て彼方を見ると、懐かしい本土の山々の景色、
波にそめられ、霧にかすみて見えます、折しも丁度鰐が来りましたので、一つ鰐を欺し
て甘く渡ってやらうと考へました」
そして、私は鰐に向って、「御前の仲間も多い様だが、私共の兎仲間はもっと多いぞ
」と言いますと、馬鹿正直な鰐は、「嘘だよ、私達の仲間は随分多いよ、とても、御前
達の及ぶ処でないさ」と申しますから、「では何方が多いか較べて見やう」と言ふと、
「よしっ」とばかり鰐は、有らん限りの仲間を連れて来て、隠岐の島から因幡イナバのこ
この岬迄一列に並び、「どうだい、多いだらう」と威張りましたから、「成程随分多い
ね、それじゃ何匹居るか解らないから私が渡り乍ら勘定して見やう」とピョンピョンと
数へながら、とうとう因幡迄渡って仕舞ひました。今から考へると、私の出過ぎであり
ました、余り鰐が馬鹿ですから可笑しくてならず、「鰐さん御苦労さん、私は因幡へ渡
らうと思って御前達を仲間較べなどと欺したのさ、此鈍間野郎やーィ」とつい口を滑べ
らしますと、今飛上らうとすると私をピョイと引捉へ、是はしまったと思ふ間もなく、
「此奴根性ドコンジャウ悪る奴」と言い乍ら、ツルリと私の毛皮を剥ぎました、「痛くて痛
くて堪りません」と。
兎は今更乍ら、オイオイと泣き出すので、大国主命の可愛相になり、
「ウンそうか、さぞ痛かったらうね、痛いのに何んだってこんな風の吹く処などに出
てゐるのかい」
と御尋ねになると、振り落つる涙を絞りも敢へず、
「はい、今し方、立派な神様方が大勢此所を御通りになりまして、私に、貴様は可哀
相な奴だから、一番早く医ナホる法を教へてやらうと御仰いまして、先づ潮を浴び、それ
から風の吹く処に出てゐると、段々毛が生えて、元通りになると御仰いましたから、其
通りいたしますと、潮につかると痛さは骨をさすばかり、是れは医る為であらうと我慢
をして、よく海汐にひたり風の吹く処に出ますと、潮の乾くに連れて、ピリピリと膚が
裂けて血が出て痛くて痛くてお堪りこぼしがありません、とてもとても死ぬより苦しい
のです、何卒旦那様御助け下さいまし」
と伏し拝むので、大国主命は、扨ては兄様達が又根性悪るいことをしたのであると御考
へになり、尚ほのこと兎に御同情され、
「それは飛んでもない真似をしたものだ、赤膚にされた上に、潮を浴びて風に吹かれ
るなんて、実に乱暴な療法で、痛いのも無理ない、よしよし私は真固マコトに癒ナホる事を教
へてやらう。それは、先づ川の真水でよく潮を洗ひ落し、川岸に生えている蒲ガマの穂を
とって、沢山敷き並べ、その上に寝て、静かに休んでゐると、立派に元のやうな毛が生
えるよ、早く御しなさい」
と教られたので、兎は喜んで、早速其教へられた通りにすると、今度は痛いこともなく、
美しい毛が生えたので、
「旦那様有難う御座います、此御恩は忘れません」
と伏し拝み、泣いて喜こんだ。大国主命は、思はぬことに途中に時間をつぶし、又もや、
その重き荷を背負いながら、八上比売の邸を差して、八十神達の後を追はれた。
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