神様の戸籍調べ
四十二 天照大御神アマテラスオホミカミ
戸籍簿
御本籍地 三重県度会郡宇治山田市 皇太神宮
伊邪那岐命第二十五番ノ御子
天照大御神 ― 正哉吾勝勝速日天之忍穂耳命
天之菩卑能命 亦名武比良鳥命
天津日子根命
活津日子根命
熊野久須毘命
天照大御神アマテラスオホミカミは、日本で一番大切な神様であると倶に、世界で一番尊い神様
で、申すも恐れ多い義ではあるが、吾々日本国民は、この神の御末の統シラべさせ給ふ処
であって、実に吾々に取り此上もない、尊むべく親むべき神であらせられる。
初め、伊邪那岐大神イザナギノオホカミが、黄泉国ヨモツクニにて、妃キサキ伊邪那美大神イザナミノオホカミ
を見給ひ、その穢ケガれを洗ひ清めむと、日向国ヒフガノクニ阿波岐アハギが原の浜辺で全身を
清められた最後に、御左の眼を洗はれると、美しき光りと共に気高き女神が御生れにな
った、その時、天地一杯に日の光照り輝きし故、天照大御神と名づけられた。
父伊邪那岐大神の嬉びは譬タトふるに物なく、其御頚に、御自分の御頚にかけ給ひし珠
の緒ヲを飾りかけて、そしてユラユラと音さして御命令になったのは、
「汝は是れから、高天原を支配するがよい」
と、そこで天照大御神は、天に昇り、高天原を御支配遊ばさるゝことゝなった。
高天原に於ける天照大御神は、先づ田地を開拓し、畑を耕し、養蚕をなして製絹セイケン
の方法から、織物の法迄も授けなされ、沢山の神々を鎮めて、非常によく治めてゐられ
たので、悪い神々は一人も出ることが出来なかった。然るにある時、高天原には大騒動
が起こった。それは須佐之男命スサノヲノミコトが、天地も動かむばかりの音を立て、昇天して
来られたことであった。何しろ名代の悪神であるから他の神々は閉口してゐたが、姉に
あたらるゝ日の大御神は、男装勇々しく弓矢を帯びて、庭もとゞろに踏みしめて、若し、
弟神にして不邁フマイの事あらんか一撃の下に打捨てんとの意気で御出かけになった。
流石高天原の御神程あらせられ、女にあらせらるれど、男々しき其勇姿に、須佐之男
命は大層驚ろかれ、
「別に悪き心あるにあらず、父の国を追はれしまゝに、母の国に参ゐる故、久振にて
姉様に御面会せん為に!」
と仰せられたが、大御神は仲々御承引なさらぬ故、
「然らば、身の潔白を証する為、子生みを競ふではないか」
と仰せになった故、御姉弟が天の安河原ヤスノカハラで子生み競争をせらるゝことになった。
先づ大御神は弟神の佩ハかせられてゐた十挙ツカの剣をとって、三段に折り、ガラガラと音
させ乍ら井戸水で振り滌ススいでから口に含むで、プッと御吹きになると狭霧の中から、
三人の神様が出られた、多妃理比売タキリヒメ、市寸島比売イチキシマヒメ、多岐都比売タギツヒメの三
女神であった。処が、弟神は今度は自分の番であると、先づ天照大御神の左の耳にあっ
た八咫ヤサカの勾瓊マガタマの上等をとって、ガラガラと音をさせて、井戸水で滌ススぎ、それ
から噛むでプッと吹かれると、其狭霧の中から、天の忍穂耳命オシホミミノミコトが生れられ、右
耳の珠からは天の菩卑能命ボヒノミコト、それから御鬘オンカツラにあった珠を噛むで吹かれると
天津日子根命アマツヒコネノミコトが生れられ、左の手にあった珠からは、活津日子根命イケツヒコネノ
ミコト、右手の珠からは熊野久須毘命クマノクスビノミコトと云ふ五人の男神が出来た。
大御神は、弟神に向かって、
「この五人の男の子は、私の品物から出来た子であるから、私の子で、先きの三人の
女の子は、御前の物から成った子であるから、御前の子である」
と仰せになったので、つまり、この子生みは大御神が負けられたことになったから、弟
神は嬉しくて嬉しくて堪らない。
「私は勝ったので、私の心は正しいのだ」
と嬉びの余り、又もや乱暴を始め、天照大御神の営むでゐられた田の溝を埋めたり、新
穀を召し上がる御殿に、屎糞ネウフン(糞尿)を垂れ散らし給ふたが、大御神は別段御とが
めもなく、
「余り酔って、尿も糞も出たのであらう。溝を埋めるのも田を埴さむ為になさるので
あらう」
と御打捨て給ふと、段々図に乗り給ふた須佐之男命は、一日大御神が織物場で、神様の
御衣料を織らんものと、沢山の織女を使ってセッセと仕事してゐられると、その織物場
の棟を破って、奇怪なる大怪物が飛び込んだ。余りの怪物の恐ろしさに、一人の織女は
驚ろきの余り、織梭オリヲサに上に顛コロガった拍子に、陰部を衝いてそのまゝ死むで終った。
大御神は何ものぞと見れば、天の斑駒ブチコマの丸皮剥マルカハムキであった、勿論須佐之男命の
悪戯であったのである。
[次へ進んで下さい]