神様の戸籍調べ
 
六 思金神オモヒカネノカミ
 
 此の金とは思金の金で、兼に通じ、幾人の思慮分別の大智慧ダイチエを、一人で兼ね備へ
てゐると云ふ兼である。文殊菩薩は三人の智慧を兼ね、聖徳太子は八人の芸能を兼ね給
ひしと聞く、その兼であって、この金カネは思金即ち無尽蔵である。
 この神は高御産巣日神タカミウブスビノカミ・タカミムスビノカミの御子で、高天原に居住し給ひ、天照
大御神に任へてゐられ、かの岩戸隠れのとき此の神は総ての計画をなされて、立派に大
御神を出し奉って、高天原及びわが国の安寧に貢献し給ひ、次で、天孫降臨テンソンコウリンの
ときにも大役を果たし、実に高天原第一の智慧者分別の神様であったのである。
 
 思兼神(紀・古語拾遺)、八意ヤゴコロ思兼神(旧事本紀)とも云う。天照大御神が弟神
速須佐之男命の不法な大御神への非礼を激怒せられて天岩屋戸にこもり給ふた結果、高
天原のみならず、葦原中国まで闇くなった。社会の秩序は失われ、生活の混乱を惹起す
有様で、「萬の妖ワザハイ悉に発りき」(記)。ここに八百万神は天安の河原に集合し、思
金神を中心として、対策を計られた。
 八意ヤゴコロとは、角度をかえ、立場を異にして思ふべきこと、考えの本来的のものと
見、思金オモヒカネとは、種々の思ひの結果を比較し綜合し分析する事を意味する(この稿は
堀書店発行「神道辞典」に拠る)。
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