02 国家の宗祀(歴史/戦前の例)
 
                   参考:神社新報社発行「新編神社実務提要」
 
 この編においては、現行の神社制度について記述するのであるが、現在を理解するた
めには何よりも過去の事実についても知る必要があると思ふ。併し、ここでは歴史の領
域に深く立ち入ることは本意とするところではないので、限られた範囲内にいくつかの
事項について触れることゝする。
 神社の本質は、神祇に対する信仰崇敬にある。そしてその神社の本質若しくは実体は
千古不変で、我が民族が祖宗から相受継ぎ伝へ来たものである。それは法令によって初
めて定められものではなく、法令以前から存在したものである。併し、現在では社会生
活上の必要から信仰、習慣等の規模によっては、関係法令が定められ、或種の社会制度
となってゐる。
 
 一般に先づ事実が存在する。社会は日々活動し繞まず進展してゐる。その進展に伴っ
ていろいろの制度も常に推移を続け、幾多の変遷を重ねるのである。神社制度の来歴も
この例に漏れない。就中、戦後の神社制度は、未曽有の激変を受けたのである。
 昭和二十一年二月二日緊急勅令をもって、神社に関する国家管理の一切が廃止され、
それ以後の神社は、私法人たる宗教法人として自主的に存続することとなり、現在の制
度に移行する端緒となった。翌三日から神宮を始め全国の神社は、予て用意されたとこ
ろに従ひ神社本庁を包括団体とする自主団体として存続することとなった。
 
〈神社〉
 国家管理のもとでの神社を定義付けるとすれば、神社は帝国の神祇を奉斎し、公私の
祭祀を執行し、公衆の自由礼拝の用に供する施設であるといへる。
 ここに帝国の神祇とは、概ね皇祖皇宗、国家鎮護の神、氏族の祖宗、国家公共の功労
のあった者の神霊などを指し、公の祭祀は公務として取扱はれ、その種類及び祭式など
については法令をもって定められてゐた。従前の神社は、国法上、宗教としての取扱い
を受けず、公法人として取扱はれ、国の公簿である神社明細帳に登録された。
 神社の本質が宗教であるか否かの論議は、古くから学者間に行はれて来た。併し遂に
結論を得ずに終戦となったが、非宗教の立場において見ても神社の一面は、私人の宗教
的信仰、その礼拝の対象として祭祀を行ふことについては私人の自由にまかされい居た。
神社の歴史的徳性に鑑み、その公共性の一面を専ら「国家の宗祀」と称したのである。
 維持運営の経済的根幹は、神社自体の収入及び氏子崇敬者の献金を主としたものであ
ったが、官国幣社二百余社に対しては国庫供進金の制度があり、その金額は昭和十六年
以降年額百三万円であった。また、府県社以下の諸社に対しては地方公共団体からの供
進又は補助があった。
 
〈神社の社格〉
 国家が神社を「国家の宗祀」として待遇する程度を表示したものを社格といひ、その
社格は次の通りの段階があった。
 
 官幣大社 同中社 同小社 別格官幣社
 国幣大社 同中社 同小社
 府県社 郷社 村社 無格社
 
 以上のうち官国幣社を官社、府県社以下を諸社と略称した。無格社とは社格の名称で
はなく、本来は、いまだ社格の定まってゐない神社といふ謂で、この段階の神社には社
格をつけなかった。即ち社格のない神社を仮称したのである。伊勢の神宮も社格はなか
ったが、この場合は事情を異にし、尊貴無上であるので社格を上らなかったのである。
 昭和十六年現在で、神社の数は十一万余社といはれてゐたが、そのうち二百五社は官
幣社及び国幣社であった。
 
〈神職〉
 神職の使命は、神人の仲介者として公私の祭祀に従事し、且つ神社の事務を管掌し、
その維持運営に当るにあった。神宮に奉仕するものを神官といひ、官社及び諸社に奉仕
するものを神職といひ、官吏(公務員)、もしくは官吏待遇であった。
 神職の内でも官社の神職に対しては、その身分に応じて官等を配し、位階、勲等を付
与し、退職後の恩給制度が適用された。諸社の神職に対しては極く少数の者が奏任官の
待遇を受け、叙位の恩典に浴することができたに止まり、その余の者は判任待遇といふ
身分であった。一社の長職を神宮にあっては大宮司といひ、官社にあっては宮司といひ、
諸社の内郷社以下並びに指定護国神社にあっては社司といひ、村社、無格社及び未指定
護国神社にあっては社掌と称した。
 
〈所管官庁〉
 神宮、神社並びに神官、神職に関する行政は、以前は内務省神社局の所管であったが、
昭和十五年十一月以降は内務省の外局である神祇院において掌り、神祇院総裁の下で地
方長官(府県知事)が第一次の監督をした。朝鮮、関東州、台湾、樺太、南洋等の地域
に在る神社については、大東亜局が所管し、現地の総督などが内地における地方長官と
同様な立場に立った。唯一の例であるが、別格官幣社靖国神社は陸軍省と海軍省との共
同管理であった。
[次へ進む] [バック]