05 総社・官衙神・第宅神・神棚
 
[総社]
総社とは、数社に一所に総合して之を祀るの謂にして、参拝に便にするより出でたり。
而して一国の総社あり、寺院の総社あり、第内の総社あり。其の間には鎮守を称して総
社とするありて、必しも合祀せざるものあり、或は一宮を以て之に充つるあり。
故に総社には式内大社、式内小社あり、式外の社ありて均一ならず。
総社の最も古きものは、多武峰略記に引ける要記に、延長四年に総社を造ると云ひ、廿
二社本縁に、後一条天皇の朝に、賀茂神社を以て山城の総社と為すとあるを始として、
之に継ぐるは百練抄の久安四年の法成寺の総社、六年の法性寺の総社等是なり。
 
[官衙神]
神祇官の御巫祭神(八神殿と云ふ)、座摩御巫祭神、御門巫祭神、生島御巫祭神、太政
官の厨主神、外記庁の守神、宮内省の園神社、韓神社、縫殿寮の御匣殿神、縫殿神、著
酒神、陰陽寮の守護神、織部司の辰巳隅神、戌亥隅神、大膳職の御食津神社、火雷神社、
高倍神社、大炊寮の大八島竃神、斎火武主比命、庭火皇神、主殿寮の寮家、釜殿、松山、
炭山等の神、内膳司の忌火庭火神、平野竃神造酒司の大宮売神社、酒殿神社、園池司の
御気津神、主水司の鳴雷神社、御井神、氷池神、左馬寮の生馬神、左京職の戌亥隅神、
斎宮寮の大宮売神、御門神、御井神、卜庭神、地主神、鋳銭司の黒山神、火山神、鎮守
府の石手堰神等、都て二官、一省、六寮、六司、二職、一府に祭る所の、諸神の祠宇神
階、及び祭典の如き(就中宮内省の園韓神、二月十一月二祭の如き、歴世の久しき断滅
する事なく、盛儀観るに足るものあり)、載せて此篇に在り。
 
宮内省祭神
ちかきだにきかぬみそぎをなにかその から神までは遠く祈らん
                      (後拾遺和歌集 十六雑 少将内侍)
 
みしまゆふ かたにとりかけ かたにとりかけ 我から神のからをぎせんや からをぎ
せんや
やひらでを 手にとりもちて われから神の からをぎせんや からをぎせんや
                               (神楽歌 採物)
 
[第宅神]
第内社は、第内テイナイ(邸内)に別に社殿を設けて斎ひ祀る所の神を云ふものにして、而
して原より其の地に鎮座せる神を祀りたるものあり。藤原良房が宗像及び石戸開の二神
を東京一条の第に祀り、角振、隼の二神を東三条の第に祀れるが如き即ち是なり。
また己の常に尊信する所の神を迎へて其の第内に祀りたるものあり。平清盛が安芸の厳
島の別宮を建て、絵所行元が丹波の大芋の社を遷せるが如き即ち是なり。
後世に及びては、第内に斎ひ祀る神をば、総て之を鎮守神と称するに至れり。
 
宅神とは、家宅を守護し給ふ神の称にして、旧くは之をヤカツミカミとも、ヤケノミカ
ミとも云ひ、またイヘノカミ、ヤドノカミとも云ふ。祭る神は保食神ウケモチノカミにして、毎
年四月と十一月との二季に於て之が祭祀を行へり。
後世に至りては、家祈祷と称して之を正五九(正月、五月、九月)の三月に祭る。
竈神カマドノカミ・ヘツヒノカミは、竈を守り給ふ神なり、奥津日子、奥津比売の二神を祭る。其の
祭祀は、始は宅神祭と同じく、四月と十一月との二季に於てせしが、後世浮屠フト(仏陀
のこと)の説漸く盛なるに及びて、之を荒神祓と称して、毎月晦日、若くは正五九の三
月に、神職修験の徒をして祭らしむるに至れり。
 
井神ミイノカミ・ミヅヤノカミは、井を守護し給ふ神にして、祭る所は水波能売神、御井神、鳴雷神
等なり。
厠神カハヤノカミ・コウカノカミは、厠を守り給ふ神にして、蓋し埴山毘売命、水波能売命の二神を祭
る。
門神モンノカミ・カドノカミ・カドモリノカミは、門戸を守護し給ふ神にして、其の祭神は豊石窓命、櫛石
窓命なり。
庭神ニハノカミは、祭る所は庭津日神、庭高津日神、阿須波神、波比岐神等の諸神にして、庭
を守護し給ふ。庭とは人家門内の空地を称するなり。
 
第内社
我宿はみやこのみなみしかのすむ 三笠の山のうき雲のみや(春日権現験記 一)
 
宅神
ふかみぐさにはにしげれる花のかを いへよきてへようけもちのかみ
                              (奥儀抄 中之下)
 
宅神祭
みむろ山みねのさかき葉よろづよに をりてまつらんわがやどの神
                     (夫木和歌抄 三十四神祇 能宣朝臣)
 
榊葉の霜うちはらひかれずのみ すめとぞいのる神の御前に
                  (新古今和歌集 十九神祇 大中臣能宣朝臣)
 
年ごとにまつらんかずはきねぞみむ いたゞくかみのしらけゆくまで(忠見集)
 
ときはなる山の榊を折とりて かはらぬ宿のしるしにはさす(経信卿母集)
 
神代よりいはひそめてしあし引の 山のさかきば色もかはらず
ゆふかけてたれかみわかんみてぐらに 咲きみだれたる宿の卯花(源道済集)
 
山がつのかきねにいはふやかつかみ 卯花さけるをかに□るかと(兵庫頭仲正)
あつかたてはざらとりすゑやかつかみ まつるうづきにはや成ぬかと(伊豆守為業)
                        (木工権頭為忠朝臣家百首 雑)
 
かしは木の杜の下ばををりしきて やかつみかみをまつる比かな(土御門院御集)
 
竃神祭
ならがしはそのやひらでをそなへつゝ やどのへつひにたむけつる哉
                (木工権頭為忠朝臣家百首 雑 勘解由次官親隆)
 
庭神祭
にはなかの あすはのかみに こしばさし あれはいはゝむ かへりくまでに
                               (萬葉集 二十)
 
にはなかのあすはの神にこしばさし あれはいはゝむかへりくまでに(万葉)
今さらにいもかへさめやいちじるき あすはの神にこしばさすとも(俊頼朝臣)
                               (袖中抄 十六)
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