20 神使
 
[神使]
神使カミノツカヒ・ツカハシメとは諸神の使者の謂にして、多くは其の神に縁故ある鳥獣虫魚の類を
以て之に充てたり。
抑も諸神の鳥獣虫魚等を以て其の使令の用に供し給へることは、神代の時に既に其の例
あれども、未だ神使の称なし。
其のこれあるは景行天皇の朝に、日本武尊が、胆吹山の化神を以て其の神の使ならんと
宣へることの記紀二典に見えたるを以て始とす。
また皇極天皇の時、伊勢大神宮の神猿、夜毎に出でゝ奇異の声を発することあり。当時
以て板蓋宮の墟アトと為るの兆とせり。神使を以て吉凶を示す者と為すこと、また創めて
此に見ゆ。
 
凡そ神使は、一神に一使あるを以て常とす。然れども希には一神にして数使あるあり。
諏訪神が鷺狐等を以て其の使と為し、日吉神が猿を以て其の第一の使者と為し、鹿を以
て第二の使者と為し給へるが如き是なり。
また数神にして同種なるあり。鯉の丹波国鯉明神、江戸佃島住吉社に於る、烏の伊勢、
熊野、日吉、三島、厳島の諸神に於るが如き是なり。
近世に至りては、神使もまた神として祀らるゝものありて、遂に主神神使、人をして殆
んど其の区別を判識すること能はざらしむものあり。
 
称呼
八幡山神やきりけん鳩の杖 老いて栄行道のためとて(鋸屑譚 下)
 
鳩
山鳩はいづくかとぐら石清水 八幡の峯の御榊の枝(八幡愚童訓 上)
 
烏
山がらすかしらもしろく成にけり 我帰るべき時やきぬらん
                      (後拾遺和歌集 十八雑 増基法師)
 
このやまの宮居をさらでいくとせか すめる烏のつかひはなれぬ(中納言輝光)
島めぐる小舟に神や心ひく みやまがらすの波におりくる(宣阿)(厳島図会 四)
 
鹿
三笠山かせぎの島にすまゐして かくめづらしき跡をみる哉(春日権現験記 三)
 
神がきやてがひのしかのなつけより しりぬひじりのあまのは衣
                     (夫木和歌抄 三十四神祇 慈鎮和尚)
 
猿
花のさくかげにはよせじひく猿の 枝をゆふらばちりもこそすれ
                          (三十二番職人歌合 猿牽)
 
すてはてず塵にまじはる影そはゞ 神も旅ねの床や露けき(吾妻鏡 二十五)
 
狐
心から塵にまじはる神なれば 穢る事のいはひしもせじ
長きよの五の雲の晴せぬは 月のさはりをいむとしらずや(稲荷神社記秘訣)
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