19b 神木
 
神代よりかはらぬ松も年ふりて みゆき久しきしがの辛崎(新拾遺和歌集 十六神祇)
 
おのづから千とせもふべしからさきの 松にひかるゝみそぎなりせば(唐崎松乃記)
 
たれをかもしる人にせん高砂の まつも昔のともならなくに
                       (古今和歌集 十七雑 藤原興風)
 
我のみとおもひこしかど高砂の 尾上の松もまだたてにけり(後拾遺集)
いたづらに世にふる物と高砂の 松も我をや友と見るらん(拾遺集)
                       (倭訓栞 前編十四多 後拾遺集)
 
幾世にかかたり伝へんはこざきの 松の千歳のひとつならねば
                         (拾遺和歌集 十神楽 重之)
 
はこ崎の松はまことのみどりにて かしゐの方もつみはきこえず
                            (散木葉謌集 五羇旅)
 
跡たれていく世へぬらん箱崎の しるしの松も神さびにけり
                    (新拾遺和歌集 十六神祇 按察使顕朝)
 
一木にはいかにさだめし箱崎の 松はいづれも神のしるしを(宗祇法師集 雑)
 
槻ツキ
天飛ぶや 軽カルの社ヤシロの 斎槻イハヒツキ 幾世まであらむ 隠妻コモリヅマそも
                               (萬葉集 十一)
 
梛ナギ
みくまのゝなぎの葉しだり降雪は 神のかけたるしでにぞ有らし(金塊和歌集)
 
なぎの葉にみがける露のはや玉を むすぶの宮やひかりそふらん
                    (夫木和歌抄 三十四神祇 検校法親王)
 
ちはやぶるくまのゝ宮のなぎのはを かはらぬちよのためしにぞひく
                   (夫木和歌抄 三十四神祇 前中納言定家)
 
桜
神風にこゝろやすくぞまかせつる さくらの宮の花のさかりを(西行物語 中)
 
あさくまやいはねの桜としふれど はなのかゞみのかげぞくもらぬ(荒木田尚良神主)
名をもおもへさくらの宮にいのりみん 花をちらさぬ神風も哉(皇太后宮大夫俊成)
                          (夫木和歌抄 三十四神祇)
 
桜大刀天の往古を残てや 宮樹の花の雲と見ゆらん(詠大神宮二所神祇百首和歌)
 
梅
こちふかばにほひおこせよ梅のはな あるじなしとて春を忘るな
梅のはなぬしをわすれぬ物ならば 吹らん風ぞことづてもせん
                          (北野縁起 上 太宰権帥)
 
こちふかばにほひおこせよ梅のはな あるじなしとて春なわすれそ
ふるさとの花の物いふ世なりせば いかにむかしのことをとはまし
                           (古今著聞集 十九草木)
 
神垣にむかしわがみし梅の花 ともに老木となりにける哉
                       (金葉和歌集 九雑 大納言経信)
 
鴬のはねをやとひて飛梅の かごにはいかでのらで来にけん(九州道の記 玄旨法印)
 
椿
色かへぬしら玉椿みの山に 神や八千代のたねをうゑけむ
                         (木曽路名所図会 二 利綱)
 
みの山のしら玉椿いつよりか とよのあかりにあひはじめけん
                      (新拾遺和歌集 六冬 従二位行家)
 
藤
今も又咲添藤の花を見よ 末になるともさかへあるとは(鹿島宮社例伝記)
 
雑載
人もみなかづらかざして千早振 神のみあれに「あふひ」成けり(紀貫之集 四)
 
光出る「あふひ」の影をみてしかば 年へにけるも嬉しかりけり(選子内親王)
かへし
諸かづら二葉ながらも君にかく 「あふひ」や神のしるし成らん(入道前太政大臣)
                           (後拾遺和歌集 十九雑)
 
たれしかもまつのおやまの「あふひぐさ」 かづらにちかくちぎりそめけん
                       (夫木和歌抄 七夏 順徳院御製)

[次へ進む] [バック]