19a 神木
 
けふといへば春のしるしをみやがはの 岸の杉むら色かはるなり
                     (夫木和歌抄 二十九杉 後京極摂政)
 
神ぢ山たまがきごしにみわたせば 杉間にたかきちぎのかたそぎ
                     (夫木和歌抄 三十四神祇 僧正行意)
 
神風や五百枝の雪の春に来て 杉のしるしの少しみえつゝ
                         (詠大神宮二所神祇百首和歌)
 
世を守る神のしるしか今も猶 しげる千枝の杉のした陰
            (新続古今和歌集 二十神祇 勝定院贈太政大臣足利義持)
 
夏は早杉の社の木の陰に 咲し樗アフチの花も散けり(詠大神宮二所神祇百首和歌)
 
かしまのやひばらすぎ原ときはなる 君がさかえは神のまにまに(前中納言定家卿)
あさ日さすかしまのすぎにゆふかけて くもらずてらせよをうみのみや(西行上人)
                          (夫木和歌抄 三十四神祇)
 
ときはなるみかみの山の杉むらや 八百万代のしるしなるらん
                      (千載和歌集 十賀 藤原季経朝臣)
 
千早ぶるかしひの宮のあやすぎは 幾代か神のみそぎ成らん(桧垣嫗集)
 
千早振かしひの宮の杉のはを 二度かざす我君ぞきみ(金葉和歌集 神主大膳武忠)
 
五とせはしるしの杉につかへてき 今年は梅の花のみやこへ(玄々集)
 
年毎に匂ひまされる梅花 おなじ色にてすぎをかざゝん
色かへぬときはの杉は我国の ながけき宮のしるしなりける(源道済集)
 
千早振かしひの宮のあや杉は 神のみそぎにたてる成けり(新古今和歌集 読人不知)
 
行末の身を二たびと思はねど 香椎の杉に猶や契らん(筑紫道記 宗祇法師)
 
千磐破香椎の宮のあや杉は 神の御衣木に立てるなりけり
万代を山田の原の文杉に 風敷き立てゝ声よばふなり(鋸屑譚)
 
松
大はらやをしほの松もけふこそは 神代のこともおもひ出らめ(伊勢物語 下)
 
大はらや小塩の山のこ松ばら はや木高かれ千世のかげみん(後撰和歌集 貫之)
 
相生のをしほの山の小松原 いまより千代のかげをまたなん
                          (新古今和歌集 大貳三位)
 
二葉より神をぞ頼むをしほ山我も相生の松の行末(続千載和歌集 狛秀房)
 
神がきのとしふる松にことよせて ひとよにつもる野べの白雪(参議長成り卿)
いのりこふことのしるしと北野なる うへのかきねの松ぞみえける(太宰大貳高遠)
                          (夫木和歌抄 三十四神祇)
 
天降るあら人神の相生を 思へば久し住吉の松(古今神学類編 二十七祭物)
 
われ見ても久しくなりぬ住吉の 岸のひめ松いく世へぬらん
むつまじと君はしら浪みづがきの 久しき代よりいはひ初てき(伊勢物語 下)
 
住吉の岸のひめ松人ならば いく世かへしととはまし物を(古今和歌集 十七雑)
 
いまみてぞ身をばしりぬるすみの江の 松よりさきにわれはへにけり
ちはやぶる神のこゝろのあるゝうみに かゞみをいれてかつみつるかな(土佐日記)
 
住吉のきしもせざらん物故に ねたくや人にまつといはれん
天くだるあら人神のあひおひを おもへば久しすみよしの松(安法法師)
                            (拾遺和歌集 十神楽)
 
君が代の短かるべきためしには 兼てぞ折りし住吉の松(太平記 三十)
 
春をふる百枝の松のいつよりか 子日とて引今日のためしを
                         (詠大神宮二所神祇百首和歌)
 
あとたれし其の神松の風よりや 豊あし原はなびき初けん(蔵人式部大丞清原秀賢)
いつよりや植置松のかげ高く それとはしるし神垣のうち(藤原直元)
神も松を千よのためとやうゑつらん よはひをのぶる松のみやしろ(長岡真人守氏)
                             (熱田神社問答雑録)
 
さゞ波や神代の松のそのまゝに むかしながらのうら風ぞ吹
                    (新後撰和歌集 十神祇 前大納言為氏)
 
いにしへに神の御舟を引き掛けし 梢や今の唐崎の松
                      (続千載和歌集 九神祇 祝部行氏)
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