17 神職
 
[神職]
神職とは、其の社に承事する職にして、神饌を奉じ、幣帛を供し、社殿に宿直し、社の
内外を清潔にし、常に修理を加えて傾覆の患なからしめ、祭祀祈祷に従事するものにて、
其の職名頗る多し。
祭主は、祭祀の主たるものにして、伊勢神宮に限りて之を置き、諸の神職の上に位し、
多くは神祇大副を以て之を兼ねたり。
国造は、往古は一国の庶政を掌りしものなり。孝徳天皇の朝に、初めて国郡司を置きし
より、国造は主として祭祀をのみ掌りしが、漸々に廃絶し、出雲杵築紀伊日前の二社に
のみ、此称存して近代に至れり。此二国司は固より其の社の長官にして、昔時に在りて
は、其の補任は朝廷にて別に其の式を設けて之を行へり(猶ほ国造の事は、杵築日前の
二社篇、及び官位部に在り)。
 
宮司は、主として神社の営造収税等の事を掌るものなり。
神主は、神に承事する者の中に於て其の主たるものなり。後にはまた営造等の事に関せ
るものあり。凡て神主の名は、或は禰宜祝をも併称し、或は神職をも総称せり。
禰宜ネギ祝ハフリは、並に専ら祭祀に従事するものなり。而して祝はまた神主禰宜をも併称
する事あり。
後世には禰宜も或は神職の総称となる。然れども区別なきにあらず、故に其の地位を云
へば、禰宜は祝の上に在り、神主は禰宜の上に在り。而して神主は、宮司の命を受けて
禰宜祝に令するものなり。また旧制神主禰宜祝は、八位以上及び六十以上の人を用ゐる。
そは此三職は、八位及び六十五以上の人と同じく、課役を免ぜられ、六十以上六十四以
下の人は半輸なれば(六十五以上を耆とし、六十以上六十四以下を老とするは、天平宝
字二年の制なり)、此類の人を用ゐる時は官に於て費す所少き故なり。女禰宜を用ゐる
も其の意同じ、女も又不課なればなり。
 
其の職掌に就きては、三職共に祈年月次新嘗の祭には、其の社より使として神祇官に造
り、官幣を受けて其の社に献ずる等の事あり。
内人ウチビトは伊勢神宮等の神職なり。其の中にて大内人は後に外考に預る事となれり。禰
宜の下にありて、物忌、父小内人等を率ゐて宿直し、或は神饌を調ふる等の事を掌る。
物忌は童男女を用ゐる。其の父を物忌父と称し、物忌を佐けて宮守地祭塩焼酒造等の事
に従事す。
 
神職には種々の名あれども、其の社に限れるあり。年代に因りて沿革あるあり。職は同
じくして名を異なするあり。名は同じくして職を異にするあり。今は唯一偏に就きて言
へるに過ぎず。此余預、行事、検校、神殿守、棚守等の名あれども、また一々之を弁ぜ
ず。
宮司神主の補任せらるゝや、往古は、太政官より符を発し、式部省神祇官国司に下し、
既に途に上れば糧食及び馬を給し、また秩限あり。解由を交付すること概ね国司に同じ、
禰宜の如きは秩限なしと雖もまた外考に預る。而して春日梅宮の社司の如きは、氏上即
ち藤原氏橘氏の長者の選挙する所とす。また宮司神主の喪に遭ふ時は、通常官吏の如く
解任するの制なれども、其の闕ケツを補はずして、喪癸(門構+癸)ヲハれば復任するを例
とす。
凡そ神職の罪を犯すや、国司の輙タヤスく科決するを聴さず。多くは祓を科せ、或は解任に
止むと雖も、其の重きは或は流死に至るものあり。
神職には両社を兼ぬるものあり。また国司守護衛府等の職を帯ぶるのみならず、或は高
位高官降りしもの多し。大中臣意美麻呂が中納言と為り、清麻呂が右大臣と為り、輔親
が正三位と為り、能隆が従二位と為りしが如きは、並に祭主なり。
近世に至りては、神職は二三位に登りしもの益々多かれども、昇殿するを得ず。然れど
も其の高卑を択ばず、総て姓若くは苗氏を称して、一般人民の上に立ち、其の服には束
帯衣冠布衣等の類を用ゐたりき。
 
神職は概ね祭神の神孫若くは祭神に縁由ある一氏族中にて択ぶを例とす。伊勢神宮の祭
主宮司は大中臣氏、宇佐神宮は大神宇佐の二氏、賀茂陣は鴨氏なるが如き是なり。而し
て其の中には父子世襲なるもありて、後世は此類を最多しとす。
          注:本稿「神職」の制は、現在は大幅に変わっています。SYSOP
 
祝
味酒ウマサケを三輪の祝ハフリが忌イハふ杉 手触れし罪か君に遇アひ難き(萬葉集 四)
 
さりともとたのみぞかくるゆふだすき わが片岡の神とおもへば
                      (千載和歌集 二十神祇 賀茂政平)
 
しなのぢや風のはふりこ心せよ しらゆふ花のにほふ神がき
                        (夫木和歌抄 四春 家長朝臣)
 
しなのなるきそぢのさくらさきにけり かぜのはふりにすきまあらすな
                             (袋創始 三 俊頼)
 
しなの道や風のはふりこ心せよ しらゆふ花のにほふ神垣(倭訓栞 前編六加)
 
幾禰キネ
しもやたびおけどかれせぬさかきばの たちさかゆべきかみのきねかも
                          (古今和歌集 二十大歌所)
 
神まつるう月にさける卯の花は しろくもきねがしらげたるかな(拾遺和歌集 二夏)
 
足曳の山のさか木葉ときはなる かげにさかゆる神のきねかな
                      (拾遺和歌集 十神楽歌 つらゆき)
 
きねがとるそのくましねに思事 みつてふかずをたのむばかりぞ(権中納言俊忠卿集)
 
たらちねの親を守りの神なれば 此手向をば受る物かは(太平記 三十三)
 
棚守
遠島の下津岩根の宮ばしら 波の上より立かとぞみる(九州道の記 玄旨法印)
 
世襲
さかづきにさやけき影のみえぬれば ちりのおそりはあらじとをしれ
御和奉りける
おほぢちゝむまごすけちかみよまでに いたゞきまつるすべらおほんがみ(祭主輔親)
                          (後拾遺和歌集 二十神祇)
 
桜花ちりなむ後のかたみには 松にかゝれる藤をたのまむ(玉葉和歌集 二十神祇)
 
位階
位山こえてもさらに思ひしれ 神も光をそふる世ぞとは
                     (新葉和歌集 九神祇 後村上院御製)

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