15 太占・亀卜・雑占
[太占]
太占フトマニとは、鹿の肩骨を焼き、卜するものにて、亀卜に対しては、鹿卜とも云へり。
此法は、天地開闢の初に、天神親ら伊弉諾尊、伊弉冉尊の為に、卜し給ひしを以て創始
とす。
爾後書籍上に見ゆるもの極めて希にして、多く亀卜を用ゐたれば、亀卜篇を参看すべし。
武蔵野に うらへかたやき まさでにも のらぬきみがな うらにでにけり
(萬葉集 十四東歌)
卜法
むさし野にうらへかたやきまさでにも のらぬきみがなうらにでにけり(万葉)
かぐ山の葉わかゞしたにうらとけて かたぬくしかのこゑきこゆなり(江都督)
(奥儀抄 下之下)
むさし野にうらへかたやきまさでにも のらぬきみが名うらにでにけり(袖中抄 七)
[亀卜]
亀卜カメノウラ・キボクは、亀甲を灼き其の拆裂の文を視て、吉凶を判ずるなり。
原来支那の卜法の一種にして、我が国にては之を以て太占の法を補ひ、朝廷にては神祇
官に卜部を置きて、此に従事せしめ、陰陽寮の式占等と併せて、疑事を卜決せしめたり。
されど官寮其の判を異にする時は、特に官卜に従ふを以て例とす。
神祇官の卜部は、二十人ありて、伊豆、壱岐、対馬の三国より徴す。而して其の術に於
ては、歴世有名の人に乏しからず、中にも伊豆の人卜部平麻呂は尤も声誉あり、実に吉
田家の祖なり。
後世此術は大に衰へたれども、対馬国にては、別に一種の法を伝へたりと云ふ。
卜法
むさし野にうらへかたやきまさでにも のらぬきみがなうらにでにけり
はゝかびにちかへるかめのうらぐしや ためとはしるはきみがあへるか(仲実朝臣)
おもひかねかめのますらにことゝへば ためあひたりときくぞうれしき(師時卿)
(袖中抄 七)
はゝかびにちかへる亀の占ぐしや 人タメと走は君があへるか(仲実朝臣)
思兼ね亀のますらに事問へば 人タメ相たりと聞ぞうれしき(師時卿)
(塵添埃嚢抄 八)
雑載
わたつみの かしこきみちを やすけくも なくなやみきて いまだにも もなくゆか
むと ゆきのあまの ほつてのうらへを かたやきて ゆかむとするに いめのごと
みちのそらぢに わかれするきみ(萬葉集 十五)
かなふやと亀のますらにとはゞやな 恋しき人を夢にみつるを
(堀河院御時百首和歌 右近権少将師時)
思ひあまりかめのうらへにこととへば いはぬもしるき身の行衛哉
(夫木和歌抄 二十七雑 権僧正公朝)
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