11b 日本の神々と易・五行〈その10〉1
 
5 「三才」と八卦及び六十四卦
 以上の変化の根源をなすものが実は,天人地の「三才」です。三才の「才」とは「は
じめ」,或いは「はたらき」のことで,天人地の三つの働きによって,天地間の万物万
象が生み出されるという考え方です。
 太極から陰陽の二気が派生され,この両儀は陽が・,陰が・・の記号で表されますが,
次にこれを重ねて,
  老陽
  少陰
  少陽
  老陰
とし,これが四象です。
 更に宇宙構成要素は天人地の三才と考えられていますので,この記号は三つに重ねら
れ,3画(爻コウ)となって,一卦となる訳です。これが「小成の卦」で,ここで初めて,
天人地の備わったことになります。この小成の卦を重ねたのが,「大成の卦」で「爻」
は六つとなります。
 小成卦と大成卦における天人地を「乾」卦の例で示しますと次の通りです。
 
  ・   天
  ・   人
  ・   地
 
  ・
    > 天
  ・
 
  ・
    > 人
  ・
 
  ・
    > 地
  ・
 
 「一,2を生じ,二,3を生じ,三,万物を生ず(淮南子)」
といいますが,その三はこの意味であって,天人地の三才が万物を生み出すのです。
 こうして生み出された万物万象は八卦(小成卦)に還元されますが,換言しますと,
万物万象は八卦によって象徴される訳です。
 
6 「八卦象徴事物一覧表」
 
          八卦象徴事物一覧表
 
    自然 性状 人間 方位(先天) 方位(後天)  五気 陰陽
 乾ケン 天  剛  父   南      西北     金気 老陽
 兌ダ 沢  説  少女  東南     西      金気 少陰
 離リ  火  麗  中女  東      南      火気 少陰
 震シン  雷  動  長男  東北     東      木気 少陽
 巽ソン 風  入  長女  西南     東南     木気 少陰
 坎カン 水  陥  中男  西      北      水気 少陽
 艮ゴン 山  止  少男  西北     東北(丑寅) 土気 少陽
 坤コン 地  柔  母   北      西南     土気 老陰
 
(1) 八卦と自然及びその性状
 八卦が象徴する自然は,天・沢・火・雷・風・水・山・地の八つです。これらは自然
界の中で最も著明なものですが,「説卦伝」はその効用を簡潔に次ぎにように述べます。
  「雷は以てこれを動かし,風は以てこれを散らし,雨は以てこれを潤し,日は以て
  これをかわかし,艮は以てこれを止トドめ,兌は以てこれを説ヨロコばし,乾は以てこ
    れに君たり,坤は以てこれを蔵オサむ。」
更にこれを敷衍して自然の諸相,その均衡,転生輪廻とその生成等を讃えて,
  「・・・・・・万物を動かすものは雷より疾トきはなく,万物を撓タワむるものは風より疾き
  はなく,万物を燥カワかすものは火より燥けるはなく,万物を説ヨロコばすものは沢より
  説ばすものはなく,万物を潤すものは水より潤すはなく,万物を終え万物を始むる
  ものは,艮より盛なるはなし。故に水火相い及び,雷風相い悖モトらず,山沢気を通
  じ,然る後よく変化して,ことごとく万物を成すなり」
というのです。
 勿論これは概要でして,八卦の性状は複雑多岐に亘ります。例えば風は,どのような
隙間にも入って行きますので「入」という象もあり,また天地間の何処にも「到達」す
ることから「長さ」の象にもなり,その結果「往来」とか,「髪」「布」「蛇」等を象
カタドることにもなります。或いは「乾」は「天」で,「天行健」ですから,「堅」に通
じ,「剛」であり,「坤」(地)の「柔」はこの天象に対応する訳です。
 
(2) 易と家族構成
 易の八卦は,上の八卦象徴事物一覧表にみられますように家族構成を示すものでもあ
ります。「説卦伝」に,
  「乾は天なり。故に父と称す」
  「坤は地なり。故に母と称す」
とありますように,乾坤・天地を人間関係に置き換えて,これを父母とします。この父
母の間には「乾坤に六子あり」です。
  男
  長男(震) 木気 雷 30〜40歳
  中男(坎) 水気 水 15〜30歳
  少男(艮) 土気 山  5〜15歳
  女
  長女(巽) 木気 風 30〜40歳
  中女(離) 火気 火 15〜30歳
  少女(兌) 金気 沢  5〜15歳
 このことから末娘の「兌」は,父の「乾」と同気の金気でよく気が合い,父の側に寄
り添い,末男の「艮」は,母の「坤」と同気の土気でこれも同様に母の側に着いていま
す。父と末娘,母と末男の間柄は多くの場合,相性でこの間の事情を易はよく映し出し
ているとされます。
[次へ進んで下さい]