09a 日本の神々と易・五行〈その8〉
 
 十二支の「申」は,前述のとおり十干の庚と同様に金気です。即ち申月は旧暦の秋七
月,一年の構造表,構造図に示されているとおり秋の始め,金気の始めです。
 「唐月令」は「礼記(月令)」に倣い,一年十二カ月の星座と気候,その月々に行う
べき行事を記録したものです。為政者の最も心を配るべきことは,自然の順当な推移を
人間の方からも積極的に促すために,その時々に応じ,最も相応しいことをするために
ありました。其処で試みに申月立秋の日の行事をみますと,軍や司法について,
  「天子は親ミズカら公卿諸大夫を率いて,西郊に秋を迎え,還って来ると軍人武将に
  対し,恩賞に与らせる。また将軍に命じ,士官を選んで兵を督励させ,訓練する。
  功あるものはこれを登用し,不義を征し,罪を問い,善悪を判然させて遠方の国ま
  で服させる」
とあり,申月中旬に行うこととしては,
  「有司に命じて法制を修し,牢獄を調えて桎梏シッコクを備え,罪を断ずる」
とみえます。要するにこれらは金気の申月の行事であって,それは木気の寅月の行事,
即ち天子親ら上帝に五穀を祈り,農事・田事を万民に教え奨める態度とは正に雲泥の差
です。これらは全て,
  万物を生じ育む春・寅月の生気
  万物を凋落させる秋・申月の殺気
然らしむるところで「申」の性状をよく窺わせます。
 
 「庚申」の干支は60年に一度,60日に一度巡り来る干支で,常に秋とは限りません。
しかし「庚」と「申」の性状でみたとおり,問題はそれらに内包されている金気,即ち
殺気であって,秋とはたまたま大自然におけるその気の具象化に過ぎないものですので,
庚申の年や日が人間に影響し,作用する力も,大自然の秋におけるそれと変わりはない
訳です。
 従って庚申説,或いは庚申行事の由来は,この殺気を防ぐことを目的とするもの以外
には考えられません。このことから,庚申の行事が「守庚申」の名で呼ばれているので
はないでしょうか。
 
3 守庚申の意義
 「守庚申」の「守」には,「守る」と同時に「防ぐ」という意もあります。
 「防ぐ」に重きを置きますと,単に三尸の上天の天帝への告口を阻止するためにその
脱出を見守るとか,庚申行事を堅持するという意味より,遥かに大きな意義,即ち宇宙
に充満する金気の身に及ぶのを防ぐ,ということになるのです。
 
(1) 三尸サンシの性状
 もし三尸虫が金気を象徴するに足ものであるならば,金気破砕,阻止を目的とする庚
申行事の主役としてこれに勝るものはありません。この虫の作用ハタラキの封殺は,その実
行者にとって金気のその身に及ぶことを避ける呪術となるからです。
 
(2) 庚申経に説かれる三尸
 「庚申経」は「老子守庚申求長生経」の略称ですが,その中で,
  「人の身体中には生来,三尸がいる。この虫は人に大害をするが,人の罪過を記し,
  庚申の夜ごとに上天して天帝にそれを密告し,人の生籍を絶ち,速やかに死ぬこと
  を願っている。人は死ねばこの世から消えてゆくが,三尸は不滅で鬼としてのこる。
  三尸はそれぞれ名を持ち,人の頭・腹・足に棲み,悪事を働くが,それらはいずれ
  も人を老いと死に誘うものである。・・・・・・」(大意)
と述べ,更に三尸駆除の呪術が述べられ,三尸折伏の呪言として,
  「彭 糸居? 尸。彭祥尸。命児尸。悉入窈冥。去離我身。」
とあります。また三尸の性状として,
  @自身が巣くっている主の罪過を天帝に告発する − 「言」と「断罪」
  Aその主の生命を窺い,その早死をはかる − 「殺気」
  Bその主は消滅しても三尸は不死 − 「永遠性」
と要約されます。
 
(3) 五行配当表による三尸の検証
 
               五行配当表
 
 五行    木     火     土     金     水
 
 五色    青     赤     黄     白     黒
 五方    東     南     中央    西     北
 五時    春     夏     土用    秋     冬
 五事    貌     視     思     言     聴
 五音    呼     笑     歌     哭     呻
 
 五星    歳星(木星) 栄?惑(火星) 填星(土星) 太白(金星) 辰星(水星)
 五天亭   青帝    赤帝    黄帝    白帝    黒帝
 五人帝   大白皐?   炎帝    黄帝    少白皐?   頁?王頁?
 五官神   句芒    祝融    后土    蓐収    玄冥
 五臓    肝     心     脾     肺     腎
 
 五常    仁     礼     信     義     智
 五虫    鱗     羽     イ果?    毛     介
 五味    酸     苦     甘     辛     鹹
 五声    角     徴     宮     商     羽
 十干    甲 乙   丙 丁   戊 己   庚 辛   壬 癸
 
 十二支   寅・卯・辰  巳・午・未  辰・未・   申・酉・戌  亥・子・丑
                   戌・丑
 易卦    震     離           兌     坎
 月(旧)   1・2・3月   4・5・6月         7・8・9月   10・11・12月
 
 上表の金気を縦にみますと,その色は白,方位は西,季は秋,人間に関わる五事にお
いては「言」,十干は「庚辛」,十二支は「申酉戌」です。
 三尸には「告発」即ち「言」が深く関わり,「生を喜ばず死を願う」のは,金気の特
質である「殺気」を示し,その主の人は死んでも「自身に永久に残る」というのは岩や
鉄,天を象徴する金気の永遠性さながらです。三尸は正に金気そのものなので,それ故
にこそ天干地支ともに金気の庚申の夜に蠢動することになります。
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