09 日本の神々と易・五行〈その8〉
 
            日本の神々と易・五行〈その8〉
 
                       参考:岩波書店発行「神々の誕生」
 
Z 庚申の誕生
 
1 庚申の由来とその定義
 「庚申」とは「かのえさるの日」の行事を指しますが,それは種々様々の禁忌やきま
りを伴っている信仰に基づくものです。多くの禁忌のうち,その中心をなしているのは,
「守庚申シュコウシン」,つまり夜は眠らずに過ごすというものです。
 平安朝の貴族社会では,庚申を一名「庚申御遊」という程,この夜は詩歌管弦や物語,
遊戯などに興じつつ徹宵しました。
 中世の武家社会では「庚申待コウシンマチ」といって同様に会食談論して夜を眠らずに過ご
し,この風習は次第に広まって,江戸時代には民間階級にも及び,盛行しました。例え
ば「庚申講」を結び,庚申に当たる年には庚申塚や庚申塔を建て,庚申の日に参って神
酒・神饌を供える一方,この日は夜を眠らず過ごすために酒を飲み,炒豆イリマメを食べて
談笑し夜明かしをしました。
 神・儒・仏の何れにも偏することなく,特殊な様相を以て一千年余,日本社会の上下
に亘り広く伝承され展開されてきたこの行事の由来は,何でしょうか。
 「世界大百科事典(平凡社)」による「庚申」の概略は,「人間の身体中には三尸虫
サンシチュウという虫が棲んでいるが,この虫が庚申の日の夜,その主ヌシの睡眠中に窃ヒソカに脱
出して天に至り,天帝にその人の犯した罪過を告口する。天帝はそれを聴き,その罪過
の軽重によって人を断罪し,その寿命を定める。従ってこの夜,徹宵,不寝番をすれば
三尸虫の身体脱出を未然に防止することができ,天帝に罪過を告げられることもなく,
それは結局,延命招福に繋がる」という訳です。そこで「庚申」は,
  @三尸の脱出を防ぐための不眠
  Aそれによる天帝への告口の防止
  B以上の結果,期待される延命招福
に要約されます。その狙いは延命招福にあり,前二者はその手段ということになります。
 
2 庚申という干支エト
 六十花甲子表では,「甲子キノエネ」に始まり,「癸亥ミズノトイ」で終わる中で,「庚申」
は57番目に属し,この干支は年では60年に一度,日では60日に一度巡ってきます。
 「庚」は「金の兄カノエ」で,十干の中で7番目,「申」は十二支の中で9番目です。両者
とも奇数の陽干陽支であり,陽干は陽支と,陰干は陰支と結ぶという法則に従って結合
しています。
 庚申は十干十二支の60種の組合せ中で最強ですが,その理解には「庚」と「申」の性
状を知る必要があります。
 
(1) 庚の性状
 
     十干表
 
 木兄キノエ  (甲) − 大樹
 木弟キノト  (乙) − 潅木
 火兄ヒノエ  (丙) − 太陽の光熱
 火弟ヒノト  (丁) − 提灯・蝋燭の火
 土兄ツチノエ (戊) − 山・丘陵の土
 土弟ツチノト (己) − 田畑の土
 金兄カノエ  (庚) − 剛金
 金弟カノト  (辛) − 柔金
 水兄ミズノエ(壬) − 海洋・大河・洪水の水
 水弟ミズノト(葵) − 水滴・雨露・小流の水
 
 木火土金水の五気のうち,金気の剛強は自明ですが,「十干表」にみるように取り分
け「庚(金の兄)」は,「辛(金の弟)」の柔金に対する剛金で,他の何物にも勝って
剛ツヨいのです。
 甲コウ・乙オツ・丙ヘイ・丁テイ・戊ボ・己キ・庚コウ・辛シン・壬ジン・葵キの十干は,つまり木の兄,木の
弟,火の兄,火の弟,土の兄,土の弟,金の兄,金の弟,水の兄,水の弟ということに
なります。
 十二支同様,十干も植物の栄枯盛衰を象カタドるものですが,「庚」は即ち「更」,「
辛」は即ち「新」で,其処にみられるものは旧から新への革新の勢い,つまり更新です。
新しいものへの変改には,必ず旧いものを断ち切ることが必要とされます。旧を殺ソぎ捨
てたところに初めて新が生まれる訳で,「庚」の基盤にあるものはこの「殺気」です。
 植物が春夏秋冬の四季に沿うように,金気の「庚」及び「辛」が配当されているとこ
ろは,季節では万物蕭殺ショウサツの秋です。この秋はまた陽の気が日毎に殺がれ,陰の気が
それに取って替わって行く季トキ,殺気の季です。
 一日においても,午刻から未刻を経て,申刻(午後3〜5時)に至れば,気温は下がり
湿度も増し,やがて日没となります。申刻は暁の寅刻(午前3〜5時)に相対しますが,
寅刻が夜明けをもたらす生気の刻トキであるのに対し,申刻は夜闇に連なる死気と殺気の
刻です。この寅申の軸は,子午軸に次いで陰陽を分かつ重要な軸なのです。
 
(2) 申の性状
 
    十二支による一年の構造
 
      旧1月 − 寅月 ・・・・ 生
 春(木)  2月 − 卯月 ・・・・ 旺
       3月 − 辰月 ・・・・ 墓
 
       4月 − 巳月 ・・・・ 生
 夏(火)  5月 − 午月 ・・・・ 旺
       6月 − 未月 ・・・・ 墓
 
       7月 − 申月 ・・・・ 生
 秋(金)  8月 − 酉月 ・・・・ 旺
       9月 − 戌月 ・・・・ 墓
 
       10月 − 亥月 ・・・・ 生
 冬(水)  11月 − 子月 ・・・・ 旺
       12月 − 丑月 ・・・・ 墓
 
 
         十二支による一年の構造図
               北                       
               冬(黒)
               水
 
               子                      
            亥  11   丑(土用)                 
             10   12                     
      (土用)戌9       1寅                  
                                       
西 秋(白) 金 酉8         2卯 木 春(青) 東        
                                       
          申7       3辰(土用)              
             6   4                     
        (土用)未  5  巳                    
               午                       
 
               火
               夏(赤)
               南         ※アラビア数字は旧暦の月を示す。
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