08b 日本の神々と易・五行〈その7〉
 
3 「兌ダ」の本質
(1) 易にみる「兌」
 兌卦は水の溜まる象(凹),沢・井泉の象徴で口をも象徴します。兌の少女は,神意
をうけて託宣する巫女を意味し,日本祭祀において祭りに参与してきました。兌は,先
天易において,「乾」である天,神,一家の中心たる父に寄り添う少女として,つまり
伊勢大神に,斎内親王より大神に近い距離で奉仕する最高の祭祀者なのです(この聖少
女を「大物忌オオモノイミ」といいます)。
 
(2) 九星・十二支における「兌」
 「兌」は後天易ではその方位は西,十二支では「酉トリ」,九星では「七赤金気」です。
「酉」は「巳・酉・丑」の金気三合の旺に当たりますが,金気は穀物の結実,実りから
財宝に至るまで,全ての富の象徴ですので,その旺気の「酉」,その象徴たる少女の「
兌」は富の中心となり,福神なのです。
 
4 「ウカ」から「オカ」へ
 「綜合日本民俗語彙(平凡社)」によれば,穀倉に祀られる宇迦之魂ウカノミタマ(倉稲魂
)に供するウガノモチはオガノモチに訛ったとされます。
 そうすれば,オカメは東南の象徴として,
  東南 − 兌(先天) − 巽(竜蛇) − 宇賀 − ウカノメ − オカメ
という図式が成立します。
 
5 「沢山咸」
 オカメ・ヒョットコの組合せを易の六十四卦に求めますと,「沢山咸タクザンカン」となり
ます。「咸」は少男が下,少女が上,つまり下の男が求婚し上の少女が悦んでそれに応
ずる象です。その和合は感応の結果ですので,
  「咸カンは亨トオり,貞タダしきによろしく,女を取メトれば吉」
とされ,
  「天地,感じて万物化生し,聖人,人心に感じて天下和平なり」
ということになります。つまり「咸」の卦は,感応の理を示すものですが,これを人生
に採れば若い男女間の感応,天下国家に採れば君臣間の感応で,天下和楽泰平を意味し,
天地間の感応と採れば万物化生を意味する訳です。
 また「兌上艮下」を自然の相においてみますと,「兌」は「沢」,「艮」は「山」な
ので,山上の沢とは,山の上に豊かな水があり,この貯えられた水が山全体を潤し,一
方,この水は,山がある故に涸れることがありません。
 このように,順当で豊かな稲の生育に不可欠な水の呪術として,稲の神祭に奉納され
る里神楽の初端を務めるオカメ・ヒョットコの舞楽が負うものは,易による「咸」の卦
における感応の理の無限の含みがあるのです。

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