07 日本の神々と易・五行〈その6〉
 
            日本の神々と易・五行〈その6〉
 
                       参考:岩波書店発行「神々の誕生」
 
X 箒神・厠神・井戸神の誕生
 
 産の神とは箒ホウキ神,厠カワヤ神,井戸神などのことです。
 箒神は出産に必ず立ち会われ,厠神などへは生誕後の新生児が参らなければならない
とされています。
 
1 箒神
 「箒神様が来なければお産は始まらない」とか,「子供は生まれない」という箒神の
信仰は全国的にみられ,箒と,人の誕生との間には切っても切れない程の深い関係があ
ります。
 「古事記」上巻では天稚彦アマワカヒコ命の葬儀のところで,
 「乃スナワち其処の喪屋モヤを作りて,河雁カワカリをキサリモチとし,鷺をハハキモチ(掃持
)とし,翠鳥ソニドリをミケビトとし・・・・・・日八日ヒヤカ夜八夜ヨヤヨを遊びき」
とあります。地上討伐の命を帯びて天上から派遣された天稚彦命は,大国主命の美しい
娘下照姫と結ばれてしまって久しく復命せず,その結果天上から放たれた矢に当たって
亡くなります。その葬儀の描写に,ハハキ即ち箒が登場しますが,この風習は現存して
おり,ところにより葬列の先頭に立つのが箒です。
 このように生死の両場面に箒が登場する訳は,箒が塵を掃き出し,四辺を清める具で
あるとされているからです。
 しかし箒の訓みは元来「ハハキ」で,「ホウキ」はその転訛である以上,まずこの「
ハハキ」の原義を探り,また「ハハキ神」と名告る神の由緒を推理する必要があります。
 
(1) 伊勢神宮の「ハハキ神」
 「祈年祭祝詞」「建久年中行事」等に「矢乃波波木神ヤノハハキカミ」という神がみえます。
この神は伊勢内宮の板垣外の東南隅に鎮座され,御ミ敷地の守護霊,即ちハハキ神は伊勢
神宮の中で最も神聖な天照大神の宮地の守護神です。
 なお,通常個人の家屋敷の主は,守護神とか祖先神として畏怖の対象となっています
が,その主は多くは蛇です。
 
(2) 蛇の古名「ハハ」と「カカ」
 「古語拾遺」(807)に,
 「古語に大蛇を羽羽ハハといふ」
と記され,「和名抄ワミョウショウ」では「蟒蛇ウワバミ」を「夜万加加智ヤマカカチ」と訓み,「重修
本草綱目啓蒙」にも「ウハバミは一名ヤマカガチ・オホヘビ。本邦の大蛇の名」とあり
ます。
 「カカ」も「ハハ」も大蛇の名称で,子音転換によって「カカ」から「ハハ」へ,或
いは「ハハ」から「カカ」へと移行したものと推測されます。
 田圃の守護神「案山子カカシ」も一本足の蛇こと「蛇子カカシ」に還元され,田畑を荒らす
鼠の天敵としての蛇は,案山子の形で稲の守護神となったと思われます。
 しかし蛇が案山子としての稲田の神,或いは倉稲魂神ウカノミタマノカミ(宇迦之魂神)として
倉に祀られるようになったのは,稲作の盛んになった弥生時代に入ってからのことで,
それ以前の祖先神はどうであったでしょうか。
 
(3) 人間と蛇
 一般に爬虫類の頭部,取り分け頭部から尾部まで一本棒の蛇は,そのまま男根の様相
を呈しており,其処に古代人は生命の根源を感じ,祖霊として蛇を信仰するようになり
まし。
 然も蛇は四肢なしで地上や水上を進むことができ,狭い穴で冬眠して生理を調節し,
全身の脱皮によって生命の更新を図り,また毒を以て強大な敵を仆すことができるなど,
人間には為すことのできない能力を備えているからです。
 
(4) 蛇に見立てられる樹木
 下枝が分枝せず,幹が直立で木肌の風合いも生々しい亜熱帯のシュロ科の植物「蒲葵
ビロウ」(古名はアヂマサ,沖縄ではクバ)は,最も祖神の姿に近いものとして神聖視さ
れました。本土ではこの樹や葉の入手が困難なため,この葉の模造として桧扇が作られ,
紙扇となって祭具などに用いられました。
 蒲葵の葉は利用度が高く,乾燥して繊維化して箒,蓑,笠などが作られたが,その後
菅や藁などの代用品でも作られるようになりました。これらは日用品でありながらその
神聖性を保持し,祭具として用いられています。
 このように箒の遠祖は祖神の蛇に擬かれた蒲葵で,出産の場にはこの祖神の象徴とし
てのハハキ神(箒神)の来臨が必要不可欠のものとされたのです。
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