06 日本の神々と易・五行〈その5〉
日本の神々と易・五行〈その5〉
参考:岩波書店発行「神々の誕生」
W エビスの誕生
エビス神には,蛭児ヒルコ神と事代主コトシロヌシ命の両説があります。
そしてエビス神の特質として,次の諸点が挙げられます。
@足が不自由
A夷三郎エビスサブロウという呼称
Bエビス神像の特色
C海に深い関わりを持つ
D正月と十月に祀られる
Eエビス神は聾という伝承
(1) 足が不自由ということ
ア 蛭児の足
「日本書紀」には,
「イザナギとイザナミの男女両神が天降アモリして八尋殿ヤヒロドノを見立てて,その天の御
柱ミハシラを左右から廻って出会ったとき,いい人に逢えたと先に言挙コトアげしたのは女神で
した。その結果,そのときできたのは蛭児で,この子は3年経っても足が立たなかったの
で海に流してしまいました」
とあります。一方,古人は蛇を暗示するときはまずその足に触れることが多いので,蛇
とも相似します。
イ 事代主命の足
美保神社の氏子の人々は古来,鶏と卵を禁忌として食しません。これは「祭神の事代
主命が揖屋イヤの郷の女神の許に通っていた頃,或る夜鶏が時を間違えて早く鳴いた。そ
こでもう夜が明けたと錯覚した大神が驚き慌てて,櫂カイを忘れて舟に乗ってしまった。
大神は仕方なく足を代わりに使って舟を漕いで行ったところ,その足を鱶フカに喰われて
損傷した。神舟が宮灘ミヤナダに着けば,老巫女は片足を垂らし,片足を折り曲げて負われ
て宮に上がった」とによりますが,老巫女は蛇の擬態をし,その蛇の好物の卵と,鶏は
口にしないという禁忌になったものと思われます。
(2) 「夷三郎」の呼称
「夷」即ち「東方」は「木気」,木気は水・火・木・金・土という五行生成順では第
三番目に当たります。従って「夷」は3番目に化生した三郎神ということになります。
(3) エビス神像の特色
前述「夷」即ち「東方」は「木気」から,木気を生物に配当すれば鱗族,即ち魚類及
び蛇等の爬虫類ということになります。
大黒様は丸いいわゆる大黒帽に対し,エビス神のそれは三角形の竪烏帽子で,恐らく
は蛇の頭部を象ったものでしょう。
(4) 海に深い関わりを持つ
エビス神の執物トリモノは鯛と釣竿です。鯛は古来,日本人にとって最も尊貴な魚とされ,
神事や祝事に常に主役を務める魚で,木気の鱗族の象徴として相応しいものです。また
エビス神像が海から影向ヨウゴウされたとの伝承も多く,また五行の「水生木」の理で,木
気を生ずるものは水気,水気が木気を生み,木気の母は水気なのです。
そしてエビス神を木気の蛇として捉え,この蛇に重点を置いて考察すれば蛇は祖霊,
かつ水神でもありますので,当然にして漁民の篤い信仰対象となる訳です。
(5) 正月と十月に祀られるエビス神
エビス神の祭りの多くは正月と十月で,この二つの月の組合せが一組みとして祭りが
行われます。
旧正月は寅,旧十月は亥でこの組合せは「亥・寅イトラの合ゴウ」といって,此処に木気
が生じます。またこの組合せとなることで木気が強化されます。木気の強化とは福神と
しての蛇の霊力の強化ということです。
蛇は,
「脱皮による生命の更新」
「男性自身に相似の故に,種神としての信仰対象」
「鼠の天敵故に稲の守護神」
の理由によって蛇が祖霊として,また福神として古代日本人によって信仰され続けてき
たものと推測されます。またエビス神の祭りには福笹として竹が登場しますが,これは
竹の異名として「蛇祖」があり,筍は稚竜・竜孫などとも呼ばれるので,竹を執物にし
たと考えられます。
(6) エビス神は聾ツンボという伝承
大坂今宮のエビス神は聾だというので,参詣するものは祠後の板を叩いて「エビスさ
ん頼みます」と唱えます。
聾を解字すれば「龍の耳」,龍つまり蛇の耳とは,「蛇に聴力」がないことを指しま
す。
原始蛇信仰は,6,7世紀以降,中国古代哲学の陰陽五行に習合され,五行の法則によっ
て理論付けられましたが,この場合鱗族の蛇は木気に還元されるので,エビス神の祭り
月,名称,その執物などに木気が頻出されることとなったものと思われます。
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