04b 日本の神々と易・五行〈その3〉
 
4 春日大社と松
(1) 春日本社と若宮の松
 ア 創建
 奈良市春日野町鎮座の春日大社は,社伝によれば神護景雲2年(768)戊申年11月9日戊
申の寅刻に創建され,武甕槌命タケミカヅチノミコト,伊波比主命イハヒヌシノミコト,天児屋根命アメノコヤネノ
ミコト,比売神ヒメガミの四柱を祀っています。
 イ 影向の松
 この春日大社には,本社には影向ヨウゴウの松,若宮にはお旅所の松があります。
 影向の松は昔,「天台座主教円毎日唯識論を暗誦して必ず春日大明神に回向し奉られ
けり。而して或夕に,又回向し奉られける時,住房の松樹の下に老翁一人現じて,万歳
楽を舞ひ給ふ,即ち春日大明神の舞はせ給ひける也。」との伝承があります。
 序でに,祭神或いは本尊が老翁,又は童児の姿を採って顕現することは知られていま
すが,大分県宇佐八幡大明神にも,老翁が顕現したことは有名です。
 ウ 五色の幟
 此処で指摘したいのは,「何故春日大明神が老翁の姿で松樹の下に顕現したか」とい
うことです。
 祭儀などのときに掲げられる「五色」の幟ノボリは,木火土金水の五気を象徴する五行
の「五色」であり,この五色はこの世の全てを表現すること,即ち宇宙の表現に他なり
ません。五色を還元すればそれは宇宙であるということで,この五色を掛け巡らした社
殿や寺院は,其処がこの世ながらの小宇宙であることを象徴しているのです。従ってそ
の社寺の祭神・本尊はその小宇宙における最高の徳の具現者の筈ですので,易における
「乾」「老陽」,九星における「六白金気」ということになります。其処に春日大明神
が顕現したという訳です。
 エ 六白金気の本質(抜粋)
  「西の正当より15度北,北の正当より15度西の天地の間60度を指して,「乾イヌイ」の
  方という」
  「先天乾方の天地の気を八白土気となし」
  「後天乾方の天地の気を六白金気となす」
  「そもそも六白金気とは太陽をいい,古来,人類の天と讃え,神と讃うる所以の本
  体たり」
 オ 祭神の本質・六白金気とその造型としての翁面
 六白金気は,
  方位 − 西北・戌亥イヌイ(乾)
  先天 − 八白(艮ゴン) 少男(少陽)
  後天 − 六白(乾ケン)  父(老陽)
です(下図)。
       先天易図          九星先天図
        北             北
  西・・・・・・・・・・東  西・・・・・・・・・・東
  北・ 山・ 地・ 雷・北  北・八白・二黒・三碧・北
   ・艮 ・坤 ・震 ・    ・  ・  ・  ・
   ・・・・・・・・・・    ・・・・・・・・・・
  西・ 水・  ・ 火・東  西・一白・五黄・九紫・東
   ・坎 ・  ・離 ・    ・  ・  ・  ・
   ・・・・・・・・・・    ・・・・・・・・・・
   ・ 風・ 天・ 沢・    ・四緑・六白・七赤・
  西・巽 ・乾 ・兌 ・東  西・  ・  ・  ・東
  南・・・・・・・・・・南  南・・・・・・・・・・南
        南              南
 
      後天易図         九星後天図
        北             北
  西・・・・・・・・・・東  西・・・・・・・・・・東
  北・ 天・ 水・ 山・北  北・六白・一白・八白・北
   ・乾 ・坎 ・艮 ・    ・  ・  ・  ・
   ・・・・・・・・・・    ・・・・・・・・・・
  西・ 沢・  ・ 雷・東  西・七赤・五黄・三碧・東
   ・兌 ・  ・震 ・    ・  ・  ・  ・
   ・・・・・・・・・・    ・・・・・・・・・・
   ・ 地・ 火・ 風・    ・二黒・九紫・四緑・
  西・坤 ・離 ・巽 ・東  西・  ・  ・  ・東
  南・・・・・・・・・・南  北・・・・・・・・・・南
        南              南
 
 社寺の本尊・祭神の本質は六白金気ですが,その先天は八白です。この六白の前に八
白があることは重要で,六白金気は八白土気から生ぜられる形です。
 八白を象徴するものは人間では童児,植物では松なので,祭神たる老陽,即ち老翁は,
その本来の姿を顕わし給えと熱心に祈求されれば童児の姿で顕現します。勿論老翁のま
ま,或いは松を依代ヨリシロとして示現します。
 天動説では地の「静」に対して,天の本性は「動」です。天は動いて止まないので,
春日明神は老松の下に「舞う」という動の状態で顕現したということになります。
 乾,六白金気は,老陽で最大の陽気です。陽気は「火」で,「火」は五音では「笑う
」に還元されます。能面の翁は殆どが笑いを含み,また翁の面の眉や目は山型が特徴で
す。それは六白の先天であるところの八白が,易では「艮」山なので,その表象と推測
されます。
 カ 「影向の松」と「鏡板の松」
 能舞台の背景は,如何なる場合も鏡板に描かれる松です。「影向の松」は「鏡板の松
」の濫觴ランショウといわれていますが,両者にはその本質において多少の相違があります。
 「鏡板の松」は後天,丑寅の八白,いわば「鬼門の松」です。鬼門は生者と死者を分
かつと同時に結ぶところですので,鬼門の松には死者をこの世に出現させる力がありま
す。「鏡板の松」は異次元の世界をこの世に招ヨび,展開させる媒ナカダチなのです。
 キ 六白金気と八白土気との関係
 前図により,「六白」の祭神は「八白」の松に憑依ヒョウイして顕現することになります。
 この九星の六白と八白の関係は,易の「乾」と「艮」の関係に置き換えられます。
  後天 − 乾 父 =老陽=老翁=祭神(六白)
  先天 − 艮 少男=童男=松(八白)
 春日本社の「影向の松」は,ご祭神とほぼ同等の尊崇を受ける聖物です。その理由は
祭神をして憑依・示現させる程の力を持つことにありますが,憑依させるその力の源泉
は,松に内在する八白土気にあるからです。
 
(2)若宮おん祭りと「お旅所の松」 
 この先天の八白に対し,若宮「お旅所の松」は後天八白の松です。「お旅所」は若宮
おん祭りの期間中,若宮のご祭神がお遷ウツりになる建物です。その仮殿建設地に一辺14
本計52本の若松が根無しで植えられ,お旅所の造営が始められますとその松は取り片づ
けられます。お旅所は本殿と御拝ギョハイよりなりますが,全て赤松の皮付き丸太による素
木造りです。千木チギ,堅魚木カツオギを始め,棟木ムナギ,柱,桁ケタ,梁ハリ,破風ハフ,垂木
タルキは勿論,手摺,欄間,また階段は皮付きの半割材などに至るまで松尽くしです。
 春日若宮は,崇徳天皇時代に飢饉疫病が続いて諸民が難渋するのを憂いて,関白藤原
忠通が五穀豊穣・人民安楽を願って保延2年(1136)造営したと伝えられております。そ
の忠通が自らの摂関家としての「後嗣という身分」「相続という事象」に鑑みて「松」
の呪術を選んだものと推測されます。
 関白忠通にとっては松によって象徴される「八白」の先天・後天の徳は,共に必要不
可欠でした。繰り返しますと八白は相続を意味し,その先天三碧は長男後嗣を意味する
からです。

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