02a 日本の神々と易・五行〈その1〉
2 先天・後天易の乾ケン坤コン・離坎対照図と2神対照表
八卦象徴事物一覧表
自然 性状 人間 方位(先天) 方位(後天) 五気
乾ケン 天 剛 父 南 西北 金気
兌ダ 沢 説 少女 東南 西 金気
離リ 火 麗 中女 東 南 火気
震シン 雷 動 長男 東北 東 木気
巽ソン 風 入 長女 西南 東南 木気
坎カン 水 陥 中男 西 北 水気
艮ゴン 山 止 少男 西北 東北(丑寅) 土気
坤コン 地 柔 母 北 西南 土気
先にアマテラス命・スサノヲ命は,共に子を産む能力のある青年期の神々であるとし
ましたので,上表に対照すると,
アマテラス命 − 離 火 中女
スサノヲ命 − 坎 水 中男
に該当します。
易卦名 先天方位 五行 五常 五臓と五官 後天方位
アマテラス命 中女 離(火) 東 木 仁 肝・目 南(天)
スサノヲ命 中男 坎(水) 西 金 義 肺・鼻 北(地)
アマテラス命の離の中女の方位は東で,その東は五行では木気モクキです。木気は五行の
中で唯一の生命体故に生命を好みます。故にその徳は「仁」です。アマテラス命が父命
のままに素直に天上の支配者になるのは,易の法則に則ってのことですが,その徳が仁
であればこそです。
一方,スサノヲ命は坎の中男で方位は西です。その西は五行では金気,金気は五行の
中で最も剛強です。徳は「義」,義の徳はものの条理を正し,裁断し刑罰を行い,とき
に暴虐でもあります。
先天易では「坤」即ち母の位は北にあるが,後天易ではその北の位にあるものは「坎
」,つまりスサノヲ命です。従ってスサノヲ命が母の国である根の国に赴くことはこの
宇宙の法則の中に予定されていることでもあり,「金生水キンショウスイ」の理からいっても向
かうべき方位なのです。
法則によって義理を貫き,事に当たって裁断し,多分に暴力的でもある金気のスサノ
ヲ命にとって,今更海原を治めよなどという父命には,そう簡単に従えるはずのもので
はありません。スサノヲ命はその金気の「哭」の本性のままに泣き喚き,「金剋木キンコク
モク」の理によって,木気の青山をまず泣き枯らし,海さえも泣き乾すという騒ぎを起こ
し,そこで遂に追放されるという最悪の状態に立ち至りますが,全てはスサノヲ命の本
性の金気の然かしむるところで,何事も易・五行の筋書き通りです。
次にアマテラス命とスサノヲ命の出自ですが,イザナギ命が黄泉ヨミの国から戻って来
てミソギを行った際,
左目からお生まれになったのが − アマテラス命
右目からお生まれになったのが − ツクヨミ命
鼻からお生まれになったのが − スサノヲ命
でした。この「目」及び「鼻」はアマテラス命とスサノヲ命にとって如何なる意味を
持つものでしょうか。
アマテラス命は,先天の東の「離」即ち「火」は,後天では木気となり,その木気は
五臓では肝,肝は目で,然も左目が日であるといっていますので,日神アマテラス命の
誕生はまさに易・五行の法則の総和・結晶の観があります。
次にスサノヲ命と鼻との関係ですが,2神対照表でスサノヲ命の「坎」卦は,先天方
位は西,その西は後天,即ち五行では金気,五臓は肺が配当され,器官は鼻です。ここ
でも坎卦のスサノヲ命と,金気の肺及び鼻との関係の深さがみられます。
一見何事もないようなミソギの場面にもこうした重大な意義が隠されているのです。
3 女神の死因と火卦,及びその復活再生
日本神話において特筆されるものとして,重要な女神たちの死因が常にその陰ホト(火
処)の損傷ということです。前述のように易では,女盛りの女性の象徴は火卦,外が陽
で内が陰,換言すれば外が剛,内が柔の「穴」で象徴されます。それは男盛りの中男の
水卦が外が柔,内が剛の「棒」の象徴であることに対応します。
易において女性を女性たらしめるものがこの穴である以上,その喪失,損傷はそのま
まその主の死に繋がります。例えばイザナミ命は火の神カグツチ命の,あまりにも多量
の火気によって陰を灼かれて亡くなり,箸墓の主ヤマトトトビモモソヒメ命は恋人が蛇
神であったことに驚いて箸で陰を突いて見まかり,アマテラス命は陰を梭ヒで突いて岩戸
隠れすることになりました。
このように女神の死因がその火処ホトの損傷にある以上,火気の補填こそその復活再生
への最重要手段であり呪術なのです。
火を生み出すものは「木生火」の理で木気です。そこでまず木畜の鶏を鳴かせて火
気を招ヨび,アメノウズメ命にはその火処を露わにして踊りを踊らせて更に火気の増幅を
促し,それを見て(見ることも火気),八百万の神々が一斉に哄笑するに及んで,火気
を招ぶ呪術は完成します。五音(下表)の中の「笑」は火気に還元されるからです。
五行配当表(抜粋)
五行 木 火 土 金 水
五音 呼 笑 歌 哭 呻
冬至の頃に日本の各所で笑祭りが行われていますが,これは笑祭り即ち火祭りであっ
て,一陽来復(陰が極まって陽が還って来ること。陰暦11月又は冬至の称)で萌キザした
微かな一陽即ち火気を大切にし,その勢いを増幅させる呪術です。そしてその淵源は,
遠く遥かな岩戸隠れのおけるこの八百万の神々の哄笑に求められるのです。
4 易と天津神・国津神の成立
前述のアマテラス命とスサノヲ命の出自から,自ずから泛ウカび上がってくるものは日
本神統の二大別である天津神・国津神両神統の成立です。即ちそれは,両神の出生の時
点において既に決定されていたのでした。
易の火と水の卦は,自然の中に求められる基本的に陰陽の相対の記号化ですが,更に
アマテラス命とスサノヲ命はその記号の擬人化・神格化とみなされるのです。
先天易において東西に配当されていた火と水は,後天易になると火は南の天に,水は
北の地に配されて,両者で天地軸を形成し,アマテラス命は天津神,スサノヲ命は国津
神の祖となった訳です。換言すれば,
先天易の乾・陽・天・父を継承するものは離・火・中女
先天易の坤・陰・地・母を継承するものは坎・水・中男
ということで,離の中女アマテラス命と,坎の中男スサノヲ命は天地に分かれ,天津神
・国津神の別がここに確立したのです。
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