02a 千字文(抄)
 
知過必改 チクワヒッカイ  あやまちをしれば かならずあらたむ
     人は誰も過ちなきを保しがたければ、若し過ちありと知るときは必ず速かに
     改めずばならぬこと。
 
得能莫忘 トクノウバクマウ  のうをえて わするなかれ
     能とは、人の必ず行ふべき道にして、此道を知り得たらば、必ず忘るゝこと
     なかれとのこと。
 
罔談彼短 バウタンヒタン  かれのあやまちを かたるなかれ
     彼とは、自分の他の人すべてを云ふ。他人の短所を知りたればとて必ず口外
     するなとのこと。
 
靡恃已長 ヒジキチャウ  おのれがたけたるを たのむなかれ
     己れの長けたることを心にたのみて、人に自慢をするなよ、得意として誇る
     なよと戒しめしなり。
 
信使可覆 シンシカフク  まことは くつがへすべからしめ
     信は眞實にて、一旦約束したることをいふ。此約束したることは、必で實行
     すべきを期せよとの意。
 
器欲難量 キヨクナンリャウ  うつはは はかりがたきをほっす
     器とは器量なり。己の器量を他人に量りがたくせよ。器量をかくして居れよ
     といふことなり。
 
墨悲絲染 ボクヒシセン  ぼくは いとのそまるをかなしみ
     昔し墨子とい賢人は、白絲の色々に染まるを悲しみたり。これは人の惡友に
     染まるを歎きしなり。
 
詩讃羔羊 シサンカウヨウ  しには かうようをほめたり
     詩經の羔羊篇は、周の文王の徳が南國に及びたることを子羊の皮を衣服せし
     ことに作り讃めたり。
 
景行維賢 ケイカウヰケン  おほいなるおこなひは これけん
     景は大なり。又、明らかなり。大きに明かなる行ひある人は、必ずこれ賢人
     であるとのことなり。
 
克念作聖 コクネンサクセイ  よくおもへば せいとなる
     よく古昔の聖人の言行を思ひ、それに倣ひて修養すれば、其人もまた聖人と
     なるとの意なり。
 
徳建名立 トクケンメイリツ  とくたちて なたち
     人に徳行ありて、其徳が世に建てば、其行ひが世にあらはれ、隨って其名も
     あらはるとのことなり。
 
形端表正 ケイタンハウセイ  かたちをただしくして おもてただし
     人の形容が端正なるときは、其表とて、影も正しく映る。若し端正ならざれ
     ば、之に反すとのこと。
 
空谷傳聲 クウコクデンセイ  くうこく こえをつたへ
     空谷は谷の中のこと、空谷にて聲を發すれば、こだまとなりて聲に應ずる如
     くなるものにして、
 
虚堂習聽 キョダウシフチャウ  きょだう ちゃうにならふ
     また、何物も無き廣き堂の内にて、音を發すれば、其聲は、滿堂に聞えわた
     るが如しとのこと。
 
禍因惡積 クワインアクセキ  わざわひ あくのつもるにより
     人の禍害を被ることは、己れが惡行の積もりし結果なれば、常に惡行なきや
     う愼まざるべからず。
 
福縁善慶 フクエンゼンケイ  さいはひは ぜんのたまものによる
     又、幸福の來るは、善行ありし賜ものなれば、居常勉めて善行を爲すべしと
     のことなり。
 
尺璧非寳 セキヘキヒホウ  しゃくのたまは たからにあらず
     さしわたし一尺もある玉は世に稀なる寳なれば、決して貴ぶべきものにては
     無しといふこと。
 
寸陰是競 スンインシキャウ  すんのひかげを これきそう
     それよりは寸陰とて、僅の光陰を惜みて勉めはげむこそ、眞實の寳なりとの
     ことを示せり。
 
資父事君 シフジクン  ちゝによりて きみにつかまつる
     我が父母に事ふる道を以て君に事ふべしとのことにて、かくすれば必ず忠臣
     と稱せらるべしとの意。
 
曰嚴與敬 エツゲンヨケイ  いつくしみと うやまふとをいはく
     君に事ふるの道は、如何に心得て可なるかといふに、これは、おごそかにし
     て敬ふにあるなり。
 
孝當竭力 カウタウケツリョク  かうは まさにちからをつくすべし
     孝とはいかなることかといふに、己れの力の及ぶ限り、父母の心を安んじて
     奉養することなり。
 
忠則盡命 チュウソクジンメイ  ちゅうはすなはち いのちをつくす
     忠とは我が身命を抛ナゲウちて、君命を重んじ、忠實に献身的に、其一身一家
     を顧みず奉仕するを云ふ。
 
臨深履薄 リンシンリハク  ふかきにのぞみ うすきをふみ
     忠孝の道をつくすことは、宛も深き淵に臨むがごとく薄き水を履むが如く、
     愼みて行ふべきなり。
 
夙興温青 シュクコウオンセイ  つとにおきて あたゝめすゞし
     朝は早くおきて君父の安否を伺ひ、冬はあたゝかにし、夏は涼しからんこと
     に注意して勉むる(セイは冫偏の青)。
 
似蘭斯馨 ジランシケイ  らんににて これかんばしく
     以上述ぶる如く忠孝の道を盡さんには、たとへば蘭の幽谷に生じて、芳香を
     放つがごとくに。
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