02b 千字文(抄)
 
如松之盛 ヂョショウシセイ  まつの さかんなるがごとし
     又、松の蒼々として青く、丁々として高く、枝葉の繁茂する如く、人に仰慕
     せらるゝこと。
 
川流不息 センリウフソク  かはは ながれをやまず
     以上の善行は一時のほまれのみならず、川の流れて千古久しく息まぬが如く、
     終生怠ることなく。
 
淵澄取映 エンチョウシュエイ  ふちはすみて うつろひをとる
     又、淵の水澄めば、すべての影の映るが如くに、飾りなく眞心を盡して行ふ
     べきをいふ。
 
容止若思 ヨウシジャクシ  かたちは おもふがごとく
     容止はすがた形なり。端正にして、疎暴の擧動なく、静粛にして常に物思ふ
     が如くせよとのこと。
 
言辭安定 ゲンジアンテイ  ことばは やすらかにしづかにす
     又、其ことばつきは、常におちつきて、よく安らかに定まりて、輕躁ならず
     穩かにあるべし。
 
篤初誠美 トクショセイビ  はじめにあつきは まことにうるはしく
     一事一業を爲すに、最も初めに篤く注意を加ふれば、其事業は誠に美しく成
     功するぞとのことなり。
 
愼終宜令 シンシウギレイ  をはりをつゝしみ よろしくいましむべし
     又、其初めのみにて無く、終りを愼みて鄭重にする時は、善良の結果を得る
     故常にこれを戒むべし(ギはワカンムリの宜)。
 
榮業所基 エイゲフショキ  えいげふ ところもとづく
     榮業とは官途に就くことなり。以上述ぶる如く身の行ひを正くするときは、
     其行は立身の基となる。
 
籍甚無竟 セキジンムキャウ  せきじん をはりなし
     さすれば籍甚とて、譽れは限りなく傳へられ、後世までも美名の遺ることに
     てあるとの意なり。
 
學優登仕 ガクイウトシ  がくまさり つかへにのぼり
     學問が衆人にすぐれたる人は、仕官して立身することが容易にてあるとのこ
     となり。勉學すべし。
 
攝職從政 セッショクジュウセイ  しょくをとり まつりごとにしたがう
     すでに官途に就けば、重要の職務を執り行ひ、常に其責任者となりて國政に
     從ふべきなり。
 
存以甘棠 ソンイカンタウ  ながらへるは かんたうをもってし
     周の時代の召公が、在生中に甘棠の下にて政を聽き、萬民其徳恵に浴したる
     が如く頗る公平なこと。
 
去而益詠 キョジエキエイ  さりて しかうしてますますうたはる
     召公が去死して後には、其甘棠を伐るなどの詩を詠じて、枝葉さへも伐らざ
     ることを期したり。
 
樂殊貴賎 ガクシュキセン  がくは たっときといやしきをことにし
     中国の昔、音樂は天子、諸侯、士大夫、庶民と種々の區別あり。各々分によ
     りて樂みたること。
 
禮別尊卑 レイベツソンピ  れいは たかきとひくきをわかつ
     又、冠、婚、喪、祭等の禮式も、貴賎、上下の別ありて、上下整然と調ひ、
     混ぜざりしなり。
 
上和下睦 ジャウワクワボク  かみやわらぎ しもむつび
     天下よく治まりて、人君は臣民をあはれみ、臣民は君主を尊敬して上下和ぎ
     睦じかりしことなり。
 
夫唱婦隨 フシャウフズヰ  をっとみちびき つましたがふ
     又、一家にありても、夫は唱へ、婦は隨ふとて、夫の命令に婦は服從して、
     夫婦和合すること。
 
外受傳訓 グワイジュフクン  そとに かしづきのをしへをうけ
     外に出でゝは家庭教師の如き守り役の訓へを受けてよく之れを守ることを云
     ふ。外とは家の外部也。
 
入奉母儀 ジウホウボギ  いりては はゝののりをうく
     家の内部に入りては、よく母につかへ、母の教を守らざるべからず。儀とは
     範にて、手本のこと。
 
諸姑伯叔 ショコハクシュク  もろもろのをばをぢ
     諸姑とはもろもろのをばにて、父の姉妹なり。伯叔とはをぢにて、父の兄弟
     なり。伯は兄叔は弟。
 
猶子比兒 イウシヒジ  いうしは こにたくらぶ
     猶子とは猶ほ子の如くにして、己れのをい、めいのことなり。比兒とは我が
     子に比するなり。
 
孔懷兄弟 コウクワイケイテイ  はなは けいていをおもひ
     孔は、はなはだにて、兄弟を思は人の至情なり。兄弟は特に親しみ愛すべし。
     下(次)の句に及ぶ語なり。
 
同氣連枝 ドウキレンシ  きをおなじくし えだをつらぬ
     兄弟は同じ一本の幹より出でたる枝葉にて、同じく父母の氣を受け、枝を連
     ぬる如き間柄なり。
 
交友投分 カウイウトウブン  ともにまじはる ぶんにとうじ
     常に交際する友人は、其分に應じて、意氣の合ふものをえらぶべし。これを、
     交友投分といふなり。
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