02b 乃木神社
〈遺言条々〉
第一 自分此度御跡ヲ追ヒ奉り自殺候段恐入候儀其罪ハ不軽存候然ル処明治十年ノ役ニ
於テ軍旗ヲ失ヒ其後死処得度心掛候も其機ヲ得ズ
皇恩ノ厚ニ浴シ今日迄過分ノ御優遇ヲ蒙追々老衰最早御役ニ立候時も無余日候折柄
此度ノ御大変何共恐入候次第茲ニ覚悟相定候事ニ候
第二 両典戦死ノ後は先輩諸氏親友諸彦よりも毎々懇論有之候得共養子ノ弊害ハ古来ノ
議論有之目前乃木大見ノ如キ例ニも不尠特ニ華族ノ御優遇相蒙り居実子ナラバ致
方も無之候得共却テ汚名ヲ残ス様ノ憂ヘ無之為メ天理ニ背キタル事ハ致ス間敷事
ニ候
守護ハ血縁ノ有之候祖先ノ墳墓ノ気ヲ付可申事ニ候限リハ其者共乃チ新阪邸ハ其
為メ区又ハ市ニ寄付シ可然方法頼度候
第三 資財分与ノ儀ハ別紙之通り相認置候其他ハ静子より相談可仕候
第四 遺物分配ノ儀ハ自分軍職上ノ副官タリシ諸氏ヘハ時計メートル眼鏡馬具刀剣等軍
人用品ノ内ニテ見計ヒノ儀塚田大佐ニ御依頼申置候大佐ハ前後両度ノ戦役ニも尽
力不少静子承知ノ次第御相談可被致候其他ハ皆々ノ相談ニ任セ申候
第五 御下賜品(各殿下ヨリノ分も)
御紋付ノ諸品は悉皆取纏メ学習院ヘ寄付可致此儀ハ松井猪谷両氏へも御頼仕置候
第六 書籍類ハ学習院ヘ採用相成候分ハ可成寄付其余ハ長府図書館江同断不用ノ分ハ兎
も角もニ候
第七 父君祖父曾祖父君ノ遺書類ハ乃木家ノ歴史トモ言フベキモノナル故厳ニ取纏メ真
ニ不用ノ分ヲ除キ佐々木公爵家又ハ佐々木神社ヘ永久無限ニ御預ケ申度候
第八 遊就館ヘ出品は其侭寄付致シ可申乃木ノ家ノ紀念ニハ保存無此上良法ニ候
第九 静子儀追々老境ニ入石林ハ不便ノ地病気等節心細クトノ儀尤モ存候右ハ集作ニ譲
リ中野ノ家ニ住居可然同意候中野ノ地所家屋ハ静子其時ノ考ニ任セ候
第十 此方屍骸ノ儀は石黒男爵ヘ相願置候間可然医学校ヘ寄付可致墓下ニハ毛髪爪歯(
義歯共)ヲ入レテ充分ニ候(静子承知)
○恩賜ヲ頒ツト書キタル金時計ハ玉正之ニ遺ハシ候筈ナリ軍服以外ノ服装ニテ持ツ
ヲ禁ジ度候
右ノ外細事ハ静子ヘ申付置候間 御相談被下度候 伯爵乃木家ハ静子生存中ハ名儀可
有之候得共呉々も斷絶ノ目的ヲ遂ゲ候儀大切ナリ右遺言如此候也
大正元年九月十二日夜
希典(花押)
湯地定基殿
大館集作殿
玉木正之殿
静子との
〈社宝〉
御殉死の刀
勲一等旭日桐花大授章
功一級金鵄勲章
グランドクロスオブバス勲章(イギリス)
「頒恩賜第三軍記念」の金時計
ご愛用の片眼の双眼鏡
ご祭神収集されし各地の石
静子夫人愛用の品々
〈遺墨〉
略(勅語ほか)
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