03 森林の思考・砂漠の思考〈砂漠の成因〉
 
             参考:日本放送出版協会発行「森林の思考・砂漠の思考」
 
 [変化する森林と砂漠]
 
〈砂漠の成因〉
  
 「上から下を観る」と云う砂漠的視点については,前項において述べました。ここで
は,森林地帯と砂漠地帯が,人間の歴史の間だけでも − と云うより,正に人間の歴史
の時代に特に − 激しく交代して来たと云う自然科学的な知識を述べてみたい。
 
△砂漠は動く
 (最近の)報告によりますと,世界の砂漠が急速に拡大していると云います。人間が
多量の牛や羊を飼って,砂漠の縁辺部の草を破壊したり,地力が自然に回復する速度よ
りも早いテンポで耕作を行うことなどによって砂漠が拡大すると云うことは,確かにあ
るようです。しかし,筆者も,直接に調べてみましたが,先年(昭和53年より以前のあ
る年)起こった西アフリカの旱魃カンバツでは,明らかに雨量の減少があるなど,自然の災
害でもあったことは間違いありません。そして,そういう数年間に及ぶ雨量の減少と云
うのは,ずっと以前から,何回も起こっているのであって,最近の世界の工業化に伴う
炭酸ガスの増加とかなどを通して起こった「異常気象」ではなく,自然の現象です。「
異常気象」と云う言葉に惑わされやすいが,それは大体人間の一世代の間に起こるか起
こらないかと云う基準で「異常」を定義しているので,人類史の長さから見れば異常で
ないものが大部分です。
 西アフリカの旱魃もその一つで,それに伴って砂漠は前進したが,それこそ人類史の
タイムスケジュールで見ると,今回の前進は微々たるもので,サハラ砂漠全体に草木が
生えたり,ナイジェリアのジャングルの下に砂丘が隠れていたり,実に大規模な森林と
砂漠の交代が繰り返されて来ています。砂漠は常に動いているものなのです。
 
△砂漠の成因
 砂漠が動いていると云うことは,その地球上に,雨の降る範囲が動いていると云うこ
とを示しています。尤も,必ずしもそれだけではありません。ある土地が砂漠になるか
ならないかは,地表に水分があるかないかであって,それには,上から降る雨雪と,下
から上る蒸発と,横から来る流水乃至地下水の,三つが関係しています。
 
 南米チリのアタカマ砂漠の中央の一画に森林地帯がありますが,これは,アンデス山
脈の上の方で降った雨水が斜面を流れ下り,平野に入って地下水となって伏流し,その
地下水の一部が恐らく地質構造の関係で表面付近まで上がって来るために,森林が出来
ています。確か植林の結果であったと思いますが,それでも森林地帯と云う表現を使っ
ても良いような範囲まで,立派な樹木が育っています。
 
 しかしこれは,アタカマ砂漠の中でも例外であり,勿論世界的に見れば,横からの水
で草木の繁っている処の面積は,数うるに足りない。
 これに対し,下からの蒸発と云う水の移動は,なかなか重要なもので,氷河時代と云
うような低温の時代になると,蒸発量は減って,湖になってしまう処が出来る程です。
その湖も,世界地図の上では,殆ど斑点で示される程度の大きさのものであって,蒸発
と云っても,蒸発する水がまず先になくてはならないのであるから,雨雪の有る無しが,
矢張り砂漠と森林を分ける最大の要因であることは,勿論です。ただ砂漠の縁辺部で,
気温の変化に伴う蒸発量の変化が砂漠域の若干の進出・後退に関係している程度です。
 
△雨雪の原因
 それでは,砂漠の成因である無降水状態と云うのは,どうして出現するかと云うこと
になりますが,その裏返しとして,どうして雨が降るかと云うことを見てみたい。どう
して雨が降るかと云う「問い」は可成り初歩的な問いのように聞こえます。確かに,水
蒸気が上昇をして冷却し雲となり,と云う意味で雨が降ることは誰でも知っています。
しかし,どうして或る処で雨が降り,或る処で雨が降らないかと云う意味での問いは,
必ずしも単純ではありません。その両者の中間の意味においてですが,例えば東アフリ
カでどうして雨が降るかと云うことはなかなか難しい問題で,現地では,気象学者の数
だけ説があると云います。
 
 東アフリカのような程度の,局所的には降水の原因が分からない処もありますが,世
界地図的な大きさで,降水に関係している要素は,大体分かっています。そのうち最大
の要素が前線帯と呼ばれるものです。その次に,大陸の東岸と西岸で違うと云う大気の
安定度と云う要素があります。本稿では,ユーラシア大陸からアフリカの北半にかけて
の地域に係わる前線帯と云うものについて説明することにします。
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