03a 森林の思考・砂漠の思考〈砂漠の成因〉
 
△前線帯とは
 天気図でお馴染みの前線の発生しやすいところを「前線帯」と云います。毎日の天気
図から前線だけを抜き出して一ケ月重ねて見ますと,前線の多い処と少ない処が可成り
はっきり分かれる場合が多い。前線の集中する処が前線帯です。前線とは温度や湿度な
ど違った性質の空気がぶつかり合う処ですが,地球の上には,数個の大きく性質の違っ
た空気 − これが気団です − がありますので,気団の境の処では,前線が頻発し,従
って前線帯が形成され,その前線帯の数も数本と云うことになります。
 
 前線が集中すると云うことは,梅雨時の日本付近に梅雨前線が,毎日,殆ど同じ処に
あることを想えば理解されるでしょう。梅雨前線の北側には寒帯気団があり,南側には
熱帯気団があります。両者のバランスによって,梅雨前線は毎日,少しずつその位置を
変えますが,一ケ月を通して見ますと,六月は東京の緯度に,八月は北海道の緯度と云
う風に,その位置をほぼ限定して云うことが出来ます。一日一日としては,大きく位置
を変えることはあっても,平均的には或る特定の処に在ると云えます。それが前線帯で
す。
 
△前線帯と砂漠の分布
 前線帯が,あるる処に在ると云うことは,其処に雨又は雪が降ると云うことです。そ
の前線帯は,梅雨前線の例でも分かるように,月位の単位で見ますと,その位置を変え
ています。即ち雨の降る処もまた位置を変えています。
 
 サハラ砂漠(アフリカ大陸北部)にどうして雨が降らないかと云いますと,其処には
どの前線帯も,やって来ることがない地域だからです。同じようにして,アラビアの砂
漠,カラハリ砂漠(アフリカ大陸南西部),オーストラリアの砂漠,アタカマ砂漠(前
掲)なども同様です。これらの地域は何れも,大体大陸の西側にあります。
 それでは,どの前線帯もやって来ない地域が全て砂漠であるかと云うと,必ずしもそ
うではありません。それは,雨雪の第二の原因であるところの,大陸東岸の大気が不安
定である,と云うことが関わっているのです。
 
△風下の砂漠
 抑ソモソも,前線に沿って雨雪があると云うことは,前線のどちらか,或いは両側にある
空気中の水蒸気が,上昇して凝結すると云うことですから,当然のことながら,前線の
有無とは関係なく,水蒸気の少ない処では雨が無い。空気が山を越えると,水蒸気は雨
となって風上斜面に落ちてしまいますので,その風下は乾燥します。
 山脈の風下に当たるために乾燥し,砂漠となっているもう一群の砂漠があります。タ
クラマカン砂漠(中国西部),ゴビ砂漠(中国北部・モンゴル南部),パタゴニア砂漠(
南米南部),アメリカ西部の砂漠などがそれに当たります。これは,中緯度偏西風と呼
ばれる西風に対して,山脈の風下に位置しています。
 
 今,水蒸気の少ない処では雨が無いと述べました。これは当たり前ですが,その反対
は必ずしも当たり前ではありません。即ち,水蒸気の多い処では雨が多いかと云います
と,必ずしもそうではないのです。アデン(アラビア半島南西端)とか,ジッダ(アラ
ビア半島西部)とか云う処は,非常に湿度が高い。でも雨は降りません。それは前線帯
が来ないため,その湿った空気が上昇して凝結することがないからなのです。
 
△赤道西風の発見
 前線或いは前線帯に沿って雨が降るのは,それによって分かたれる二つの空気のうち,
何れかが,前線に沿って上昇し凝結するからですが,雨を起こすためにはその上昇する
空気が湿っていなければなりません。従って,雨の原因が前線帯であると云っても,そ
れはやや一般論で,具体的には,それぞれの場所における空気の湿り具合が問題になり
ます。
 本稿の焦点となる,ユーラシア大陸(アジア・ヨーロッパ)南部とアフリカ大陸北部に
ついて云いますと,赤道西風と云う,非常に湿った空気の存在が極めて重要な意味を持
っています。
 
 赤道西風とは,丁度赤道付近に赤道反流と呼ばれる小さい海流が存在するように,大
気の中にも,昔から貿易風と呼ばれた東寄りの風に挟まれて存在する,小さい西からの
風の流れで,1945年に発見されたものです。
 従来の説明としては,北東貿易風と南東貿易風とが赤道付近でぶつかって,上昇気流
を起こし,雨を降らせると云うことでした。新しい発見は,その両貿易風の間に挟まれ
て細い西風の流れが存在し,ぶつかるのは,貿易風と貿易風ではなく,貿易風とその西
風であると云うことです。この赤道西風は,最も緯度が低い処にあるのに,貿易風より
も気温が低い。従って,貿易風とぶつかると上昇するのは貿易風で,赤道西風はその下
に潜り込んでしまいます。ですから,貿易風の方が乾燥していれば,前線帯(この場合,
正確には収束帯と云う)に沿っても雨は殆ど降りません。しかし,赤道西風は非常に湿
っており,山があって上昇すれば直ぐ雨を降らせ,午後の日差しが強くなって上昇気流
が生じても雨を降らせます。従って,前線帯が来ただけでなく,赤道西風の中に入るこ
とによっても雨季になるのです。
 
 例えば夏,アフリカのサハラ砂漠の南側付近からの赤道西風は,エチオピアを経てイ
ンドに吹き込んで,いわゆる夏モンスーンの雨をもたらせています。インドのモンスー
ンが,これによって説明されるように,赤道西風は,大気全体から見ると比較的小さい
流れですが,低緯度から中緯度の一部の地表にとっては,極めて重要な意味のある風系
なのです。

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