2306a 祖先のまつり
 
△お盆
 盆は、旧暦七月十五日を中心に行われる祖先を祭る行事で、七月十三日夕方の迎え火
に始まり、七月十六日の送り火に終わります。
 一般に盆とは、孟蘭盆ウラボンの略とされ、孟蘭盆には梵語ボンゴで倒懸サカサヅリになって
いるのを救うという意味があり、あの世で非常な苦しみを受けている死者を供養し救う
仏教行事とされています。
 しかし、供え物を載せる容器をわが国の古語で「ボン」と言ったことから盆になった
という説もあり、盆行事は、わが国に古くからあった祖霊祭の名残であろうと考えられ
ています。
 関東地方では七月十五日に行われることが多いようですが、関西など西日本では月遅
れの八月十五日に行うところが多く、「おがら」と呼ばれる麻の茎や麦藁、松の割り木
などを焼く迎え火・送り火の風習は、江戸時代に盛んになったと言われています。
 また、盆踊りは、本来、祖先の霊を慰め送り出すためのもので、あの有名な阿波踊り
も盆踊りの一つです。
 
▲七夕
 七夕と言えば、笹竹に色紙や願い事を書いた短冊を付けて軒先に立てますが、これは、
盆棚の旗飾りである「タナバタ」からきていると言われています。
 また七夕は、七日盆とか盆始めとも言われ、水浴びの行事が多いことから、祖先の霊
を迎える盆の前に、穢ケガれを祓ハラい清めるための行事であったようです。
 
※因みに、正月や盆など祖先の霊は、年中いく度も子孫の許モトを訪れます。正月棚や盆
棚(祖先棚)はその際に祖先を迎える場所で、神棚や御霊舎ミタマヤの原型とも考えられて
います。
 
〈日本人と葬儀〉
 
△葬儀の歴史
 亡き人を厳かに送る葬送の儀礼 − 葬儀は、わが国ではその多くが仏式で営まれてい
ますが、元々わが国には仏式でない、固有の信仰(神道)に基づく葬儀がありました。
 現存する最古の書である『古事記』には、
「・・・・・・喪屋モヤを作りて、河雁カハカリを岐佐理持キサリモチとし、鷺サギを掃持ハハキモチとし、翠鳥
ソニドリを御食人ミケビトとし、雀スズメを碓女ウスメとし、雉キギシを哭女ナキメとし、如此カク行ひ定
めて、日八日ヒヤカ夜八夜ヨヤヨを遊びき・・・・・・」
とあり、天若日子アメノワカヒコの葬送についての記述や、古墳の出土品からも、古代における
葬儀のあり方をうかがい知ることができます。
 しかし、大宝タイホウ二年(702)に行われた持統ジトウ天皇の大喪タイソウ(天皇の葬儀)から
仏教色が強まり、続く文武モンム天皇・元明ゲンメイ天皇・元正ゲンショウ天皇の大喪もこれに倣
って行われました。また中世以降は、仏教の興隆とともに公家や武士にまで仏葬が広ま
りました。
 さらに、江戸時代に入って徳川幕府がキリスト教禁教令とともに寺請テラウケ制度を実施
して、一般庶民を檀家ダンカとしたために、僧侶が独占的に葬儀を行うようになり、仏式
による葬儀が一般にも定着するようになったのです。
 
 こうした中、わが国古来の葬儀のあり方を見直す動きが起こり、ようやく明治時代に
なって、神道式による葬儀を行うことが一般に認められるようになりました。
 神葬祭シンソウサイとは、神道式で行う葬儀の名称で、わが国固有の葬儀を土台に整えられ
た葬儀式です。厳かで儀式もわかりやすく、しかも質素なことから、今日では神葬祭が
増える傾向にあります。
 
△日本人と死
 私共日本人の伝統的な信仰は、人の犯した過ちは自分たちの慎みと神々の力によって
祓い除かれるという、神々への厚い信頼のもとに培われてきました。お祭りや行事の中
で、さまざまな清めの儀式が行われるのも、神々を恐れ畏カシコみ、神々のご加護をうけ
て、現実のこの世界で自分たちの力が少しでも社会の発展や繁栄に貢献できるようにと
いう祈りがあるからです。
 しかし、この世に生を享ウけた人は、死を免れることはできません。社会の発展のため
に活躍すべき生命力が衰えることは悲しいことで、永久に失われることは痛惜の極みと
言わなければなりません。
 そして日本人は、肉体の死という厳しい現実を前に、生命力が衰弱し、心の安定が乱
れた状態を穢れととらえたのでしょう。とは言え、死をただ単に忌イむべきものとして避
けたのではありません。むしろ、死をきっかけににして生の意味を問い直し、祖先から
享けた生を少しでも発展させて子孫に受け継いでゆくために、一人ひとりが自分の生を
全うすることに大切な務めを見出したのです。
 こうしたことから、死とは生命の継承の節目でもあるのです。
 
〈神葬祭の流れ〉
 
 神葬祭はいくつものお祭りから構成されています。
 地域によって若干異なることもありますが、ここではごく一般的な流れを紹介しまし
ょう。
 
◆帰幽キユウ奉告ホウコク 故人が亡くなった旨を氏神さま、神棚、御霊舎に奉告します。
◆枕マクラ直しの儀 遺体を整えて殯室ヒンシツ(遺体を安置する部屋)に移します。
◆納棺ノウカンの儀 遺体を柩ヒツギに納めます。
◆柩前キュウゼン日供ニックの儀 納棺から発柩(出棺)までの間、毎朝夕常饌ジョウセンをお供え
 します。
◆墓所ボショ地鎮祭ジチンサイ 遺体を納める土地を祓い鎮めるお祭りです。
◆通夜祭ツヤサイ 夜を徹して故人の御霊ミタマを慰めるお祭りです。
 
◆遷霊祭センレイサイ 故人の御霊を霊璽レイジと呼ぶ白木の「みしるし」に遷ウツし留めるお祭
 りです。
◆発柩祭ハッキュウサイ(出棺式) 柩を霊輿レイヨに移して葬列に組み、葬場に向かう際のお祭
 りです。
◆発柩後ハッキュウゴ祓除ハライノゾキの儀 家に残った家族と家をお祓いします。
◆葬場祭ソウジョウサイ(告別式) 故人に最後の別れをするお祭りです。
◆火葬祭カソウサイ 火葬に付す際のお祭りです。
◆埋葬祭マイソウサイ 遺骨(遺体)を埋葬するお祭りです。
◆帰家祭キカサイ 葬儀が滞りなく終了したことを霊前に奉告するお祭りです。
◆霊前祭レイゼンサイ 葬場祭の翌日から、御霊を慰めるお祭りを行います。
◆清祓キヨハライ 五十日祭を終え、家中を祓います。そして、神棚のお祭りを再開します。
◆合祀祭ゴウシサイ 故人の御霊を、仮カリ御霊舎ミタマヤから祖先の霊を祀る御霊舎に遷すお祭
 りです。
 
◆百日祭 亡くなってから百日目に行います。
◆命日 毎月、毎年巡ってくる亡くなった日に故人を追慕します。
◆年祭ネンサイ 満一年、三年、五年、十年、以下十年毎に行います。
◆祭りあげ 亡くなってから五十年目に行います。
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