23 家庭の祭り
 
                家庭の祭り
 
                     参考:大法輪閣発行三橋健氏編「神道」
 
 ▼はじめに
 神を敬い祖先を崇めるという観念は、祖先から受け継がれてきた日本人としての「道
の心」であり、美しい日本の国風クニブリです。しかし最近、核家族化が進んで、そのよう
な日本古来の伝統が危機に陥りつつあると言われています。このような時機トキにこそ、
あらためて「家庭の祭り」を見直してみることも必要ではないでしょうか。
 我々日本人の家庭(家族)の歴史を振り返ってみますと、その家の代表者を中心とし
て結合した家族(一族)が、主としてその祖先の霊ミタマと一体化した生活を送るという点
に、大きな特徴が見い出せます。その祖先の霊とともにある生活、共に結び合う生活こ
そが、家庭の祭りの本来の姿なのです。
 家庭の祭りといっても、殊更コトサラ難しいものではありません。日頃神社において行わ
れています神祭りをそのまま小型化して行えばよいのですが、いざ実践しようとします
と案外戸惑いも感じられるかも知れません。
 家庭の祭りには、毎日行うものと、臨時に行うものとがあります。
 
 ▼毎日の祭り
 毎日の祭りは、神棚や祖霊の霊舎ミタマヤの拝礼です。
 朝起きて顔や手を洗い口を漱ススぐことは、正に水により心身を浄める禊ミソギに通じる
行為であり、心身ともに浄めた後に神棚や霊舎を拝して一日の生活を開始します。これ
は敬神崇祖の誠の道に叶うもので、一日の出発に当たり意義のある大切なことです。
 日々の家庭の祭りの中心は神棚にありますが、核家族化や住宅事情などに起因して神
棚を奉斎しにくい現状にあります。そのため、日本人としての真の精神ココロが十分に受け
継がれ、育まれる条件が少しずつ失われてきているのです。
 神棚に祀られる神々は、伊勢の神宮に祀られております天照大御神アマテラスオオミカミを中心
として、地域の氏神、またそれぞれの神徳によって家族の人々を守り恵みを与えてくれ
ます神々であり、普通は神札シンサツ(お札)の形式によって祀られます。なお、天照大御
神は日本人の大祖先と考えられます神でして、人々のために衣食の道を定め、世界を明
るい慈愛の光により照らして下さる最も尊い神とされ、また氏神は家庭や地域社会を守
って下さる神でして、産土ウブスナ神とか鎮守チンジュ様などとも呼ばれています。
 神棚は一家の生活の中心となります神聖な存在として、静かな、人々の目線よりも高
い位置に設けます。二階以上の建物では、上階に押入などがあってなるべく人が踏まな
いようなところの、階下に設置することが望ましいですが、適当な場所がないときには、
神棚の上の天井に板を一枚張るなどの配慮が必要でしょう。
 霊舎を併せ設けるときは、神棚よりも少し下げた位置に設けます。このことはつまり、
神棚奉斎の中心となる神であられる天照大御神は、家々の祖先を超越した根元神的存在
であるからです。
 神棚の向きは通常南向きか東向きで、中央に神殿の形を模した宮型ミヤガタを納め、その
内部にご神体の分霊として神札や鏡などを祀ります。中に納めます神札は、中央に神宮
大麻ジングウタイマ(伊勢の神宮の神札)、向かって右側に氏神神社の神札、向かって左側に
崇敬する諸神社の神札となります。宮形によってこのように横並びに納められないとき
は、手前から神宮大麻、氏神神社の神札、崇敬神社の神札の順に重ね合わせます。
 毎年末に神棚を清掃したときは、古い神札は神社に納め、替わって新しく頒布された
神札をお祀りします。このことは心持ちを清々しくし、年々、神々の神徳を新しい気持
ちで仰ぎ
戴くという、古来からの伝統でもあるのです。
 神棚には宮形のほかに、次のように飾り方をしてみましょう。
 @注連縄シメナワ:注連縄は神聖なところを区切るものの象徴で、神棚正面上部に綯ナい始
めの太い方を右にして掛けます(地方によっては左右逆の例もあります)。
 A紙垂シデ(御幣ゴヘイ):紙垂は神前清浄の徴シルシです。
 B鏡カガミ:鏡は浄明の徴で、神明の照鑑と穢ケガれなき誠の心を表します。
 C榊サカキ:榊は栄木サカエギの意で神事に専ら用いられ、神棚には榊立てに挿して飾り、
枯れないうちに新しいものと取り替えます。
 D灯明トウミョウ:灯明は浄火により照らし浄めるものです。
 E御神酒オミキ:御神酒は次項の神饌の一つです。
 F神饌シンセン:神饌は神々のお召し上がる飲酒物の総称で、清浄な心の篭もった新しい
良質の品物を供えます。神社の例祭のときは、米・酒・餅・海魚・川魚・野鳥・水鳥・
海菜(乾物)・野菜・果物・菓子・塩・水などが供えられますが、家庭の神棚ではこれ
らを全て供えるのは不可能に近いですので、日々に米(又は炊いたご飯)・酒・水など
を供えて下さい。
 例えば初物は若々しい生命力が宿っていると考えられ、大切にされてきましたので、
神々にはこうした心の篭もった品物を供え、感謝の誠を捧げて拝み、その撤下テッカ(お下
り)を戴くことにより、神威を受け神徳にあやかることができるのです。
 神棚とともに霊舎にも神棚同様の供え物をし、ときには故人の嗜好品なども供えまし
ょう。
 毎日の神棚の祭りを続けてゆくことはなかなか難しいことではありますが、毎日の朝
食を戴く如く、食事の前にまず神様への拝礼を心掛けたいものです。
 その作法は、朝起きてから顔と手を洗い口を漱ススぐことから始まります。。
 次に神饌を供えます。神饌は、その朝炊いたご飯又は米を中央に、向かって右に塩、
向かって左に水を供えます。より丁寧に供するときは神酒を加え、向かって右側から塩
・ご飯(米)・酒・水の順とします。それぞれ小型の三方サンボウに載せるとよいでしょ
う。
 次に二拝二拍手一拝の拝礼を行います。その際、家の主人が家内安全などの祈願の祝
詞ノリト(これを拝詞ハイシといいます)を奏するときは、一旦二拝をし、その後に拝詞を奏
上し、終わって二拝二拍手一拝を行います。
 最後に一揖(軽い会釈)して退き、続いて霊舎を同様に拝礼します。
 なお家族一同で拝礼するときには、主人が前に立ち家族はその後に並んで、主人の所
作に合わせて拝礼します。
 その後家族一同朝食を済ませ、神棚の神饌を下げることになります。
 
 ▼臨時の祭り
 家庭の祭りには、家人だけでなく神社の神職を自宅に招いて神棚の前において行うこ
ともあります。初宮参り、七五三、入学や卒業・結婚・年祝いなど、家族に特別のこと
があったときなどに行われます。
 そのほか神棚や霊舎の前以外のところにおいて、臨時に祭りを行うこともあります。
例えば住宅建設に当たって地鎮ジチン祭、上棟ジョウトウ祭、竣工祭なとを行って、神様に工
事を奉告し、その無事完成をお祈りします。また震・水・火災などの禍ワザワイに遭わない
よう、家の事業が発展するようにといったお願いをしたり、転宅や自動車購入・新しい
機械設備の導入などのときの清祓キヨハラエを行ったり、霊祭ミタママツリなどが行われます。
 これらの祭りは何れも神恩に感謝し、神徳をいよいよ蒙って正しく明るい人生を送り、
一家の繁栄を祈ることにほかなりません。
 
 家族揃って家庭の祭りを営むことは、日常生活の上にも多くの効果が期待されます。
家庭の祭りの第一の特徴に、家庭内に良い雰囲気ができる点です。家庭内の生活秩序が
培われ、子供等も自然に礼儀作法を習得することができるようになります。
 第二に家庭内が平穏になり、家族間の信頼関係が深まっていき、第三には子供の信仰
心を養い育てることができます。信仰は理屈によって教え込むより、実践生活の中から
自然と身に付けてゆくものではないでしょうか。
 信仰から得られます信念は、他人から強制されるものではありませんから、親が自ら
の信念によって信仰的実践生活を営んでいますと、その後姿を見ている子供等にも自然
に正しい不動の信念が確立されるのではないでしょうか。
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