20a 日本人の一生と祭事(人生儀礼)
 
(8)長寿祝
 今日まで無事に人生を生き、その長寿を祝う還暦カンレキ、古希コキ、喜寿キジュ、傘寿サン
ジュ、米寿ベイジュ、卒寿ソツジュ、白寿ハクジュなど、人生の節目を寿コトホぎ、これからも健康
で長生きができますようにと祈願し感謝します。
(9)神葬祭
 神葬祭は「神道葬祭」と呼ぶのが適切ですが、神葬祭は、天神アマツカミ地祇クニツカミを祭る
のではなくして、死者を祭る点において他の祭りと趣が異なります。しかし、祖霊は家
の守り神になられるという日本人の伝統的信仰からすれば、特に異とするにあたりませ
ん。
 わが国においては、仏教の渡来以前は、古来の死生観や霊魂観に基づいて葬儀が行わ
れていました。その後仏教が渡来し、奈良時代以降は仏教葬が一般化し、特に江戸時代
には幕府の寺請テラウケ制度により、仏式以外の葬儀が禁止されました。そのため、上古の
葬法の詳細は定かではありません。今日行われています神葬祭の次第は、幕末から明治
期にかけて諸家が行っていましたものを取捨して行っているものです。そのため細部に
ついては地域差もあり、未だ確たる統一をみるに至っていません。
 神葬祭は幾つもの祭りの連続が一つの葬儀を構成しています。一例として神社本庁に
よって制定された神葬祭の次第は次のとおりです。
 @通夜ツヤ祭 − 臨終の後、葬儀を行うまでの間は、近親者が昼夜を分かたず遺体の
傍らに候し、よみがえりを願いながら生前同様の礼を尽くし、葬場祭(告別式)の前夜
に通夜祭を行います。
 A遷霊センレイ祭 − 故人の霊魂を霊璽レイジ(仏式の位牌にあたる)に移す祭儀で、こ
れにより遺体を埋葬する条件が整います。古例のように夜間に葬送が行われることとし
ますと、出棺の直前に遷霊祭を行うのが適当ですが、近時は多く日中に葬儀が行われま
すので、遷霊祭は前夜の通夜祭に併せて行われます。
 B発柩ハッキュウ祭 − 喪家ソウカから葬場への出棺の際の祭儀で、この後直ちに柩ヒツギを
奉じて葬列を組み、葬場へと向かいます。特別に葬場を設けずに喪家において告別式を
行うときは、それに併せて発柩祭を行います。出棺後、喪家内を祓い清めます。
 C葬場祭 − 参列者並びに会葬者が故人の遺体に最後の別れを告げる神葬祭中最大
の重儀で、いわゆる告別式のことです。この後、更に柩を奉じて、土葬の場合は墓所へ、
火葬の場合は火葬場へ向かいます。
 D埋葬祭 − 柩を墓所に埋納してから行う祭儀です(遺体を火葬に付するときは、
この前に火葬祭を行います)。
 E帰家キカ祭 − 埋葬を終えた喪主以下が帰宅し(家に入る際にお祓いを受けます)、
霊前に葬儀終了を奉告する祭儀です。
 以上、実際にはこれらの全てに神職が関与することは稀ですが、葬儀の主体はあくま
でも喪主と遺族ですので、神職の奉仕が得られない儀式については、遺族が心をこめて
行うことになります。
 神葬祭の参列者及び会葬者は、仏式の焼香に代わるものとして玉串を奉って拝礼しま
す。その際の拍手は「忍び手デ」といって、大きな音のしないように打ち合わせるもの
とされています。
(10)地鎮ジチン祭・上棟ジョウトウ祭
 人生の過程においては、ときとして家の新築とか増築という大きな節目に出会うこと
もあります。
 地鎮祭は、「とこしずめのまつり」、又は「地祭ヂマツリ」といい、住宅その他の建物を
建てるに当たって、その敷地を領地するために坐マす神のお許しを得るとともに、土地の
平安堅固をお祈りする祭りです。日本書紀に拠りますと、持統天皇の御代に藤原京造営
に当たり、その地を鎮祭したとされ、これが史料上の初見です。
 祭場の四隅に忌竹イミタケ(葉付きの青竹)を立て、これに注連縄シメナワを廻らし、臨時の
神の依代ヨリシロとして「神籬ヒモロギ」(榊の枝に御幣を着けたもの)を立て、臨時の神とし
て大地を司る大地主神オオトコヌシノカミや、地域の守護神たる産土ウブスナ神等をお招きして祭り
します。
 地鎮祭の一般的な次第は、@まず、神籬、神饌、玉串、用具、参列者をお祓いする修
祓シュバツ、A神籬に祭神の降臨を仰ぐ降神の儀、B神饌を供し、C神職の祝詞奏上、D敷
地の四隅及び中央に切麻キリヌサ(紙を小さく切り刻んだもの)、米、塩を散供サンク、E建築
主が盛砂に三度鍬入れ(設計者が鎌、建築主が鍬、施工者が鋤スキを持つ場合もあります
)し、F参列者が玉串を奉って拝礼、G神饌を徹す、H祭神をお送りする昇神の儀、I
お下がりの神酒を参列者が戴く直会ナオライとなります。祭儀が終わりますと鎮物シズメモノ(
普通は神籬の榊)を敷地中央に埋納し、盛砂は敷地に散布します。
 木造住宅などでは、骨組みが出来上がり棟木ムナギを上げるに当たって上棟祭(棟上げ、
又は建前タテマエとも)を行って、棟木を要とする新屋に長く災いの及ばないことを祈願し
ます。棟上げの祭儀は、平安時代に宮中において始まったとされています。祭神は家屋
に鎮まる神であります屋船久久遅命ヤフネククノチノミコト、屋船豊宇気姫命ヤフネトヨウケヒメノミコトの二柱
を主体に、工匠の神であられる手置帆負命タオキホオイノミコト、彦狭知命ヒコサシリノミコトの二柱を併せ
て祭り、更に産土神も祭ります。
 屋上と地上に祭場を設けます。棟木を上げ終え(本義は実際に棟木を引き上げます)
てから、その真下に神籬を立てて、屋上には五色絹を垂らした幣串と弓矢を立て並べま
す。上棟祭の一般的な次第は、@修祓、A降神の儀、B神饌を供し、C祝詞奏上、D切
麻を以て棟木の両端を祓い(上棟行事)、E玉串を奉って拝礼、F神饌を徹す、G昇神
の儀、I直会となります。別に棟札(剣先形の板に日付・建物名・建築主名・工匠名・
神職名などを記したもので、将来のための記録となります)を用意しておき、祭儀終了
後幣帛とともに棟木に打ち付けます。また、小餅や金銀の穴あき銭(上棟銭)を四方に
散ずる風習もあります。

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