18 祭りと神輿
 
               祭りと神輿ミコシ
 
                     参考:大法輪閣発行三橋健氏編「神道」
 
 祭りの儀礼の中で最も重要な要素は、神にお供えものを献ずることです。マツリ(祭
)とは、マツル(献)からでたものであると言われています。マツリの語源は、神に物
をお供えするという意のマツリなのです。神に御饌ミケ・御酒ミキをタテマツルことが原義
なのです。即ちマツリの語義は、タテマツルという行為そのものに由来し、お供えもの
を献ずるという儀礼形態に関する言葉でした。
 古来、神は祭りの機会ごとに来臨され、祭りが終わりますと帰って仕舞われると考え
られていました。ですから神は何時も社ヤシロに鎮座していると考えるようになった今日に
おいても、祭りの基本的な儀礼構成は、まず神をお迎えし、御饌・御酒をお供えして仕
え奉り、願いや感謝の祈りを捧げ、時が来ればお送りするという形式を採っています。
そして、神祭りが終わりますと、神にお供えしたもの、又は神にお供えしたものと同じ
ものを人々は飲食します。これを直会ナオライといい、神のお召し上がりものを神と共に頂
く、つまり神と共食するのです。神に供えたものを一同に分配し、それを飲食すること
によって、神の偉大な霊力を自分の身に得ることができると信じるものです。
 古語に恩頼ミタマノフユという語がありますが、ミタマは霊魂、フユは殖える・増やすのこ
とで増殖の意です。神の霊魂を分割して、それを各人の身に着けること、神の霊魂を分
かち与えることです。祭りに参加した人々が、神との共食にあずかり、それによってミ
タマノフユを各々の身に受け、神の恩恵に与ること、これが直会の本来の意味なのです。
 祭りは、それを行う季節があり、季節と祭りとは不可分の関係にあります。このこと
はわが国の祭りの特徴の一つです。換言しますと、祭りが一年の季節を定める根拠にも
なっていたと言ってよいでしょう。春ハル・夏ナツ・秋アキ・冬フユという季節の名称は本来、祭り
の期間をいう語から出たとも言われています。日本古来の,大切な生業は稲作農業です。
わが国の一年は,この稲作を中心とする暦年であり、祭りはこれと深く関わっていまし
た。春耕秋収の稲作は、春には神にその豊穣を祈り、秋には神に収穫の結果を報告し感
謝します。これが春祭りと秋祭りなのです。
 収穫感謝の祭りに新穀を神に供え、また神に差し上げたその新穀を人々も共食するの
です。神と人間共に、飽きるほど食べて、豊穣をもたらしてくれた神に感謝し、また来
年もこのようになりますようにと祈ります。アキという言葉は、アキグイ(飽き食い)
の祭りに由来するといいます。冬は生産活動の間に消費したエネルギーを増殖する期間
です。古来、衰えた霊魂を増殖し強力にする、即ちミタマノフユの祭りを翌春に備えて
行う時季がフユなのです。
 ハルは、ハレ(晴)という語と関係のある言葉で、威力ある霊力を身の着けて完全な
体になって出てきた状態が即ちハレで、つまりフユ祭りを行うことで新しい活力を、新
しい強力な霊魂を身につけて新たな生命体として復活するのです。これがハレの状態で
あり、その時期をハルと言ったのだといわれています。こうして充実した春を迎えて本
年の豊穣を神に祈ります。これが春祭りなのです。
 暦の普及により春夏秋冬に四季が等分され、秋−冬−春の季節が隔たったものに感じ
られますが、古来の考えは秋から冬へ、そして春の祭りは元来一続きのものとして捉え
られていました。秋・冬・春と続く季節は、神祭りの期間なのです。
 夏祭りは、この三つの季節の祭りとは性格が異なっています。晩春から夏にかけては
稲の生育にとって一番大切な期間ですが、一方、稲の生育を脅かす病害虫が発生する時
期でもあります。また人間にとっても疫病の流行しやすい不安な季節です。こうした災
厄サイヤクや不安を追い払う祭りが夏祭りです。ナツは、災厄を物に撫で付けて祓い流す、
ナヅ(撫づ)と関連のある言葉で、各地のナツ祭りはこうした祓ハラえの信仰に基づいた
ものです。夏祭りには、神輿ミコシが川や海に入ったり、また神輿に水を掛ける行事が多く
みられますのも、この祓えの信仰に因るものなのです。
 神輿は、神がお乗りになる輿コシのことです。神が神輿にお乗りになって御旅所オタビショ
に渡御トギョしたり、また氏子区域を巡行したりします。これを神幸ジンコウ・御幸ミユキ・お
旅などといいます。神幸祭に用いられる神の乗り物が神輿なのです。
 神幸の形態も各地において特色がありますが、静かにお渡りになるもの、神の霊感を
象徴するかのように荒々しい担ぎ方、いわゆる神幸震フりをなすものなど多彩です。御旅
所への渡御は、神が旅をなさり、新たな霊力を蘇ヨミガエらせるという信仰でもあり、また
人々にとっては神来臨の形態を実感する機会でもあります。
 また神輿が氏子区域に巡行しますのは、来臨した神が氏子等に神の恩頼ミタマノフユを分か
ち与えることでもあります。それ故に人々は神輿に賽銭を投げ供え、手を合わせて拝む
のです。

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