06 天つ罪と国つ罪
 
            天つアマツ罪と国つクニツ罪
 
                     参考:大法輪閣発行三橋健氏編「神道」
 
                    本稿は、大法輪閣発行三橋健氏編「神道」
                   を参考にして、一部補足などして記述してみ
                   ました。
                    他の宗教においては、人間は生まれながら
                   して罪や苦を背負っていると考えているよう
                   ですが、神道においては、罪とは、人間が一
                   生涯を生きていく過程において遵守すべき倫
                   理や道徳に背くこととしています。
                    純粋無垢な赤子が、やがて大人へと成長す
                   るに従って、知らず知らずのうちに、罪や穢
                   れに汚れるからなのです。           SYSOP
 
 ▼はじめに
 罪ツミとは神聖な神の掟を破る行為です。また共同体の秩序を乱すような行為も罪とい
われています。罪を侵した者は身に穢れケガレや罰バツを受け、贖いツグナイを必要としまし
た。それ故古くは、罪と罰とは一体のものでしたし、そして「罪」も「罰」も、ともに
「ツミ」と訓んでいました。つまり罪を犯せば、当然のこととして罰が科せられ、祓ハラエ
や贖いをしなければならないと考えられたのでした。
 また、神道シントウの罪の内容は複雑多岐に亙っています。法制上では法律に違反する行
為を犯罪と云っており、それに対する刑罰が科せられます。倫理や道徳の世界(次元)
では、人として守るべき道に反するような行為を罪悪と称しており、罪は屡々シバシバ悪
の問題とされます。仏教では、仏の戒めに背く行為が罪で、これらを罪業ザイゴウ、罪障
及び罪過などと称しています。それでは神道においては罪をどのように考えてきたので
しょうか。神道の罪の観念について述べてみます。
 
 ▼「大祓詞オオハラエノコトバ」にみる様々な罪
 神道では、罪を天津罪アマツツミと国津罪クニツツミに分けて考えてきました。そのことは延長
五年(西暦927)に完成しました「延喜式エンギシキ」の巻八「祝詞ノリト」に収められている
「大祓詞」にみえています。既に千年以上も前のことになりますが、この祝詞は現在も
神社などで奏上されています。
 さて「大祓詞」には、8種の天津罪と13種の国津罪とを列挙してあります。中には罪
の内容を具体的に分別することのできないものも少なくありませんが、取りあえずそれ
らの名称を掲げ、簡単に説明してみましょう。
 
 [天津罪]
 @畔放ちアハナチ:米は、わが国の基本となる食糧ですので、この米を生産する稲作に関
  して、田の畦アゼを壊して、田の水を干し、稲の生長を妨げること。
 A溝埋めミゾウメ:田に水を引くために設けた溝を埋め、田へ水が通わなくすること。
 B樋放ちヒハナチ:田に水を引くために設けた樋トイを壊し、田へ水が通わなくすること。
 C重播きシキマキ:ある人が種を蒔いたところへ、別の人が重ねて種を蒔いて、作物の生
  長を妨害すること。
 D串刺しクシサシ:作物の収穫時に、所有権を示す札を他人の田畑に立て、それが自分の
  ものであるとすることで、所有権の侵害をすること。
 E生き剥ぎイキハギ:生きている馬の皮を剥ぐこと。
 F逆剥ぎサカハギ:馬の皮を尻の方から剥ぐこと。
 G糞戸クソヘ:収穫祭の祭場に汚いものを撒き散らすこと。
 
 [国津罪]
 @生膚断ちイキハダタチ:生きている人の肌ハダに傷をつけること。
 A死膚断ちシニハダタチ:死んだ人の肌に傷をつけること。
 B白人シロビト:肌の色が白くなるなど、治療できない病気になること。
 C胡久美コクミ:瘤コブができるなど、治療できない病気になること。
 Dおのが母犯せる罪:実母との相姦の罪
 Eおのが子犯す罪:実子との相姦の罪
 F母と子と犯せる罪:まずある女と相姦し、後にその女の子と相姦すること。
 G子と母と犯せる罪:まずある女と相姦し、後にその女の母と相姦すること。
 H畜犯せる罪:家畜を相手に性欲を満足させること。
 I昆ふ虫ハウムシの災ワザワイ:地に這う虫(昆虫や蛇など)から蒙るコウムル病気や障害など、
  防ぎようのない有害な動物による災害
 J高つ神の災:雷による災難など、防ぎようのない天災地変災害
 K高つ鳥の災:空を飛ぶ鳥による被害など、防ぎようのない害鳥による被害
 L畜仆しケモノタオシ、蠱物マジモノせる罪:家畜類を殺し、その血で悪神を祭り、人々をのろ
  う呪いマジナイをすること。
 
 このように、天津罪は国家や地域など、社会生活の基盤たる共同体の維持に関する秩
序に対して背くことが罪であるといえます。
 一方国津罪は、地域社会の一員として、遵守すべき倫理や道徳的の基,又は優秀な民
族の維持繁栄(日本人たる種の保存)に関して背くことが罪であるといえようです。
 
 ▼罪の起源
 「古事記」に拠りますと、伊邪那岐命イザナギノミコトは、三貴子が誕生したので大層喜ば
れ、天照大御神アマテラスオオミカミに高天原タカマノハラ(天上界)を、月読命ツクヨミノミコトに夜の国を、
須佐之男命スサノオノミコトに海原ウナハラを、それぞれ統治するように云われました。ところが須
佐之男命は、髭ヒゲが胸の辺りまで伸びる年頃になっても泣き喚いてばかりいました。須
佐之男命はその名前からしても明らかなように、暴風のような荒々しい性格の神です。
その泣き声は激しかったので、青い山が枯れ、多くの国民が若くして死にました。世の
中は乱れてしまいました。伊邪那岐命は「どうしてお前はそんなに泣くのだ」とお訊き
になりますと、「私は妣ハハ(亡母)の居る国へ行きたい」と答えました。伊邪那岐命は
「そんなに言うのだったら、お前の勝手にしなさい」と言われ、好きにさせました。
 そこで須佐之男命は妣、即ち伊邪那美命イザナミノミコトの居られる地下の国へ行くことな
り、天上界の天照大御神のところへお暇乞いに行かれました。ところが天上界へ上って
来る須佐之男命の様子は、恰も台風がやって来たようなすさまじい勢いでありましたの
で、天照大御神は、須佐之男命が自分の国を奪い取りに来たと誤解されました。お暇乞
いに来たと言われましたが、天照大御神は信用なさいませんでした。
 そこで天アメの安ヤスの河カワで「うけひ」を執り行いました。「うけひ」とは誓約の一種
で、あることを予め約束しておき、神意を占うという方法です。天照大御神と須佐之男
命との「うけひ」の場合は、各々が子をもうけるに当たり、その最初の子が男子であれ
ば須佐之男命の勝ち、女子であれば天照大御神の勝ちと約束して、神意を占いました。
 この「うけひ」は、須佐之男命の勝ちとでました。つまり正勝吾勝々速日天之忍穂耳
命マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミノミコトという男子が誕生し、その結果、須佐之男命は国を奪い取
りに来たのではないことが証明されました。
 ところが、須佐之男命は勝ちに乗じて大暴れをし、例えば天照大御神の大切な田圃の
畦を壊したり、溝を埋めたり、また重播きシキマキをするなど、様々な悪事を働きました。
さらに糞戸クソヘをして、祭りの神聖を汚しました。即ちこれらの行為は前掲の天津罪に相
当するもので、何れも農耕妨害の罪でした。

[次へ進む] [バック]