21 万葉歌、萌芽期から終焉までの秀歌百五十選
 
             参考:福島県神社庁神職養成研修教材「万葉歌百五十選」
 
[はじめに]
 
 本稿は、同神職研修会において用いられたテキストを参考にさせて頂きました。この
テキストは、元高校の先生でいらっしゃった、福島県郡山市在住の八巻和三氏によるも
のです。
 このGLNにおいては、いろいろな角度から萬葉集の歌を採り上げております。従っ
て、重複して登載した歌が沢山あります。と云うことは、それら歌の数々は、後の人々
に「深い感動を与え、読む人々の心を豊かにし、末長く引き継がれゆく秀歌である」と
云えましょう。                             SYSOP
 
[分 類]
 
 時代区分      歌 風               主な作者  都
 
萌芽期       伝誦歌謡の時代
(四七八〜六二二) 伝誦歌を有名人に仮託したものであろう 磐姫皇后
                             雄略天皇
                             聖徳太子
 
第一期       万葉歌誕生の時代           舒明天皇  飛鳥・難
(六二九〜六七二) 和歌の諸歌体が確立し、個人的感情や個 有間皇子  波・大津
          性を表白する創作歌が多くなる     額田王
          清新、素朴でのびやかな歌風      天智天皇
                             鏡王女
                             天武天皇
 
第二期       万葉歌成熟の時代           持統天皇  飛鳥・藤
(六七三〜七〇九) 壬申の乱後、律令国家が確立する    大津皇子  原
          表現が磨かれ重厚・荘重な歌風     柿本人麻呂
                             高市黒人
                             志貴皇子
 
第三期       万葉歌完成の時代           大伴旅人  平城
(七一〇〜七三三) 平城京に遷都し、諸体制が整えられる  山上憶良
          叙景歌や人生を見つめる歌も作られた  山部赤人
                             紀女郎
                             高橋虫麻呂
                             大伴坂上郎女
 
第四期
(七三四〜七五九) 万葉歌終焉の時代           大伴家持  恭仁クニ・
          天平文化最盛期、歌は社交の具ともなる 笠女郎   難波・平
          長歌は衰え、繊細で感傷的な歌風   狭野弟上娘子 城
                             (東歌)
                             (防人の歌)
 
[萌芽期/伝誦歌謡の時代]
 
   天皇の御製歌オホミウタ
1 篭コもよ み篭持ち ふくしもよ みぶくし持ち この岡に 菜摘ます児コ 家聞かな
名告ノらさね そらみつ 大和の国は おしなべて 我こそ居ヲれ しきなべて 我こそ
いませ 我こそば 告らめ 家をも名をも(巻一・雑歌ザフカ)
 
   磐姫皇后イハノヒメノオホキサキ、天皇を思ひて作らす歌四首
85 君が行き日ケ長くなりぬ山尋ね 迎へか行かむ待ちにか待たむ(巻一・相聞ソウモン)
90 君が行き日長くなりぬやまたづの 迎へか行かむ待つには待たじ(衣通王ソトホリノオホキミ)
86 かくばかり恋ひつつあらば高山の 岩根しまきて死なましものを
 
   上宮カミツミヤ聖徳皇子シャウトコノミコ、竹原井に出遊イでます時に、竜田山の死人を見て
   悲傷カナシびて作らす歌一首
415 家ならば妹イモが手まかむ草枕 旅に臥コやせるこの旅人あはれ(巻三・挽歌バンカ)
 
[第一期/万葉歌誕生の時代]
 
   額田王ヌカタノオホキミの歌
熟田津ニキタツに舟乗りせむと月待てば 潮もかなひぬ今は漕コぎ出でな(巻一・雑歌)
 
   中大兄ナカノオホエの三山の歌一首
13 香具山は 畝火ウネビををしと 耳梨と 相争ひき 神代より かくにあるらし いに
しへも 然シカにあれこそ うつせみも 妻を 争ふらしき
14 香具山と耳梨山とあひし時 立ちて見に来コし印南イナミ国原
15 わたつみの豊旗雲に入日イリヒさし 今夜コヨヒの月夜ツクヨさやけかりこそ(巻一・雑歌)
 
   天皇、蒲生野カマフノに遊猟ミカリする時に、額田王の作る歌
20 あかねさす紫野行き標野シメノ行き 野守ノモリは見ずや君が袖振る(巻一・雑歌)
 
21 紫のにほへる妹を憎くあらば 人妻ゆゑに我恋ひめやも
                       (同・皇太子ヒツギノミコの答ふる御歌)
 
   額田王、近江天皇アフミノスメラミコトを思シノひて作る歌一首
488 君待つと我アが恋ひ居ヲれば我ワがやどの 簾スダレ動かし秋の風吹く(巻四・相聞)
 
489 風をだに恋ふるはともし風をだに 来コむとし待たば何か嘆かむ
                        (同・鏡王女オホキミの作る歌一首)
 
   内大臣ウチノオホマヘツキミ藤原卿フヂハラノマヘツギミ、采女ウネメの安見児ヤスミコを娶マく時に作る
   歌一首
95 我はもや安見児得たり皆人の 得かてにすといふ安見児得たり(巻二・相聞)
 
   大伴宿禰オホトモノスクネ田主タヌシの報コタへ贈る歌一首
127 みやびをに我はありけりやど貸さず 帰しし我そもやびをにはある
 
   有間皇子アリマノミコ、自ら傷イタみて松が枝エを結ぶ歌一首
141 磐代イハシロの浜松が枝を引き結び ま幸サキくあらばまたかへりみむ(巻二・挽歌)
142 家にあれば笥ケに盛る飯イヒを草枕 旅にしあれば椎シヒの葉に盛る(同)
 
   岡本天皇ヲカモトノスメラミコトの御製歌オホミウタ
1151 夕されば小倉の山に鳴く鹿は 今夜は鳴かず寝イねにけらしも(巻八・秋の雑歌)
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