21a 万葉歌、萌芽期から終焉までの秀歌百五十選
[第二期/万葉歌成熟の時代]
天皇、吉野宮に幸イデマす時の御製歌
27 よき人のよしとよく見てよしと言ひし 吉野よく見よゆき人ゆく見(巻一・雑歌)
天皇の御製歌
28 春過ぎて夏来キタるらし白たへの 衣干したり天アメの香具山(巻一・雑歌)
大津皇子オホツノミコ、石川郎女イシカハノイラツメに贈る御歌ミウタ一首
107 あしひきの山のしづくに妹待つと 我立ち濡れぬ山のしづくに(巻二・相聞)
石川郎女の和コタへ奉マツる歌一首
108 我アを待つと君が濡れけむあしひきの 山のしづくにならましものを(巻二・相聞)
大津皇子、竊ヒソかに石川郎女に婚アふ時に、津守連通ツモリノムラジトホル、その事を
占ウラへ露アラはすに、皇子の作らす歌一首
109 大舟オホブネの津守が占に告ノらむとは まさしに知りて我が二人フタリ寝し(巻二・相聞)
日並皇子尊ヒナミノミコノミコト、石川郎女に贈り賜タマふ御歌一首
110 大名児オホナコを彼方ヲチカタ野辺に刈る草カヤの 束の間アヒダも我忘れめや(巻二・相聞)
大津皇子、死を被タマハりし時に、磐余イハレの池の堤ツツミにして涙を流して作らす
歌一首
416 ももづたふ磐余の池に鳴く鴨を 今日のみ見てや雲隠りなむ(巻三・挽歌)
大津皇子の屍カバネを葛城カヅラキの二見山フタガミヤマに遷し葬ハフる時に、大伯皇女
オホクノヒメミコの哀しび傷みて作らす歌二首
165 うつそみの人なる我や明日よりは 二上山を弟イロセと我アが見む(巻二・相聞)
但馬皇女アヂマノヒメミコ、高市皇子タケチノミコの宮に在イマす時に、竊かに穂積皇子ホヅミ
ノミコに接アひ、事既に形アラはれて作らす歌一首
116 人言ヒトゴトを繁み言痛コウタみ己オノが世に いまだ渡らぬ朝川渡る(巻二・相聞)
十市皇女トヲチノヒメミコのこうぜし時に、高市皇子尊の作らす歌三首
158 山吹の立ちよそひたる山清水 汲みに行かめど道の知らなく(巻二・挽歌)
但馬皇女のこうじて後に、穂積皇子、冬の日雪の降るに、御墓ミハカを遥かに望
み、悲傷流涕して作らす歌一首
203 降る雪はあはにな降りそ吉隠ヨナバリの 猪養イカヒの岡の寒からまくに(巻二・挽歌)
穂積親王ミコの御歌一首
3816 家にある櫃ヒツの鎖カギ刺し蔵ヲサめてし 恋の奴ヤツコがつかみかかりて(巻十六・雑歌)
近江の荒れたる都に過ヨギる時に、柿本朝臣人麻呂の作る歌(の反歌)
30 楽浪ササナミの志賀の唐崎幸サキくあれど 大宮人の舟待ちかねつ(巻一・雑歌)
柿本朝臣人麻呂カキノモトノアソミヒトマロ、妻の死にし後に、泣血哀慟キフケツアイドウして作
る歌二首
208 秋山の黄葉を繁み惑ひぬる 妹を求めむ山道ヤマヂ知らずも(巻二・挽歌)
柿本朝臣人麻呂、石見国イハミノクニより妻を別れて上り来る時の歌
133 笹の葉はみ山もさやにさやげども 我は妹思ふ別れ来ぬれば(巻二・挽歌)
266 近江の海夕波千鳥汝ナが鳴けば 心もしのに古イニシヘ思ほゆ(巻三・雑歌)
1088 あしひきの山川ヤマガハの瀬に鳴るなへに 弓月ユツキが岳に雲立ち渡る(巻七・雑歌)
1285 春日すら 田に立ち疲ツカる 君は哀しも 若草の 妻なき君は 田に立ち疲る
(巻七・雑歌)
高市連タケチノムラジ、黒人クロヒトの羇旅タビの歌
271 桜田へ鶴タヅ鳴き渡る年魚市潟アユチガタ 潮干にけらし鶴鳴き渡る(巻三・雑歌)
志貴皇子の御歌一首
267 むささびは木末コヌレ求むとあしひきの 山さつをにあひにけるかも
1418 石走イハバシる垂水タルミの上のさわらびの 萌え出づる春になりにけるかも
(巻八・春の雑歌)
長忌寸意吉麻呂ナガノイミキオキマロの蓮葉を詠む歌
3826 蓮葉ハチスバはかくこそあるもの意吉麻呂が 家なるものは芋ウモの葉にあらし
(巻十六・有由縁)
[次へ進んで下さい]