12 巻十三
 
〈雑歌クサグサノウタ・ザフカ〉
 
葦原アシハラの 水穂之国ミヅホノクニに 手向タムケすと 天降アモり坐マしけむ 五百万イホヨロヅ 千
万神チヨロヅカミの 神代カミヨより 云イひ続ツぎ来キタる 甘南備カムナビの 三諸山ミモロノヤマは 春
ハルされば 春霞ハルカスミ立タち 秋アキ往ユけば 紅クレナイにほふ 神嘗備カムナビの 三諸ミモロの神
カミの 帯オビに為セる 明日香之河アスカノカハの 水尾モヲ速ハヤみ 生ムしため難ガタき 石枕イハ
マクラ 蘿コケ生ムすまでに 新夜アラタヨの さきく通カヨはむ 事計コトハカリ 夢イメに見ミせこそ 
剣刀ツルギタチ 斎イハひ祭マツれる 神カミにし坐マせば
 
   反歌カヘシウタ
神名備カムナビの三諸ミモロの山ヤマにいはふ杉スギ 思オモひ過スぎめや蘿コケ生ムすまでに
五十串イグシ立タて神酒ミワ坐スゑ奉マツる神主部カムヌシの うずの玉蔭タマカゲ見ミれば乏トモしも(
巻十三)
 
帛ミテグラを 楢ナラより出イでて 水蓼ミヅタデ 穂積ホヅミに至イタり 鳥網トナミ張ハる 坂手サカテ
を過スぎ 石走イハバシる 甘南備山カムナビヤマに 朝宮アサミヤに 仕ツカへ奉マツりて 吉野ヨシヌへ
と 入イり坐マす見ミれば 古イニシヘ念オモほゆ
 
   反歌カヘシウタ
月日ツキヒは 摂ユキカハれども久ヒサに経フる 三諸ミモロの山ヤマのとつ宮地ミヤドコロ(巻十三)
 
斧ヲノ取トりて 丹生ニフの桧山ヒヤマの 木折キコり来キて 筏(木扁+伐)イカダに作ツクり 二梶
マカヂ貫ヌき 磯イソ漕(手扁+旁)コぎ回タみつつ 島伝シマヅタひ 見ミれども飽アかず み吉
野ヨシヌの 滝タギもとどろに 落オつる白浪シラナミ
 
   反歌カヘシウタ
み吉野ヨシヌの滝タギもとどろに落オつる白浪シラナミ留トドめにし 妹イモに見ミせまく欲ホしき白
浪シラナミ(巻十三)
 
やすみしし わご大皇オホキミ 高タカ照テらす 日之皇子ヒノミコの 聞食キコシヲす 御食ミケつ国クニ
神風カムカゼの 伊勢イセの国クニは 国クニ見ミればしも 山ヤマ見ミれば 高タカく貴タフトし 河カハ
見ミれば さやけく清キヨし 水門ミナトなす 海ウミも広ヒロし 見渡ミワタしの 島シマも名高ナダカ
し ここをしも ま細グハしみかも 掛カけまくも あやに恐カシき 山辺ヤマベの 五十師
イシの原ハラに うち日ヒさす 大宮オホミヤづかへ 朝日アサヒなす 目細マグハしも 暮日ユフヒなす
うら細グハしも 春山ハルヤマの しなひ盛サカえて 秋山アキヤマの 色イロなつかしき 百磯城モモ
シキの 大宮人オホミヤビトは 天地アメツチと 日月ヒツキと共トモに 万代ヨロヅヨにもが
 
   反歌カヘシウタ
山辺ヤマノベの五十師イシの御井ミイは自然オノヅカラ 成ナれる錦ニシキを張ハれる山ヤマかも(巻十三
)
 
空ソラ見ミつ 倭国ヤマトノクニ 青丹吉アヲニヨシ 寧山ナラヤマ越コえて 山代ヤマシロの 管木ツツキの原ハラ
ちはやぶる 于遅ウヂの渡ワタリ 滝屋タギノヤの 阿後尼アゴネの原ハラを 千歳チトセに 闕カくる
事コト無ナく 万歳ヨロヅヨに 有アり通カヨはむと 山科ヤマシナの 石田イハダの森モリの すめ神
ガミに ぬさ取トり向ムけて 吾ワレは越コえ往ユく 相坂山アフサカヤマを
 
   反歌カヘシウタ
相坂アフサカヤマを打ウち出デて見ミれば淡海アフミの海ウミ 白木綿花シラユフバナに浪ナミ立タち渡ワタる(
巻十三)
 
天橋アマハシも 長ナガくもがも 高山タカヤマも 高タカくもがも 月夜見ツクヨミの 持モたるをち
水ミヅ い取トり来キて 公キミに奉マツりて をち得エしむもの
 
   反歌カヘシウタ
天アマなるや月日ツキヒの如ゴトく吾ワが思モへる 公キミが日ヒにけに老オゆらく惜ヲしも(巻十三
)
 
沼名河ヌナカハの 底ソコなる玉タマ 求モトめて 得エし玉タマかも 拾ヒロひて 得エし玉タマかも 
あたらしき 君キミが 老オゆらく惜ヲしも(巻十三)
 
〈相聞シタシミウタ・サウモン〉
 
  柿本朝臣カキノモトノアソミ人麿ヒトマロの歌集ウタブミの歌ウタに曰イハく
葦原アシハラの 水穂国ミヅホノクニは 神在随カムナガラ 事挙コトアゲせぬ国クニ 然シカれども 辞挙
コトアゲぞ吾ワが為スる 言幸コトサキく 真福マサキく坐マせと 恙無ツツミナく 福サキく坐イマせば 荒
磯浪アリソナミ 有アりても見ミむと 百重波モモヘナミ 千重浪チヘナミにしき 言上コトアゲする吾ワレ
 
   反歌カヘシウタ
志貴島シキシマの倭国ヤマトノクニはこと霊ダマの 佐タスくる国クニぞ真福マサキく在アりこそ(巻十三)
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