29a イスラム教
〈イスラムの聖典〉
イスラムの基本聖典は「コーラン(正しい発音はクルアーン)」と云います。コーランは,
イスラムの神アッラーが,預言者ムハンマドが最初ヒラリー山の洞窟で天使ガブリエル
を通して神の啓示を受けた紀元610年頃から,同632年に死を迎えるまでの二十数年間に,
事あるごとに神から下された啓示を集録した書とされています。その中で繰り返し強調
されているのは,「汝らの神は唯一なる神」ということです。そしてコーランは,人間
の生なる世界における神の恩恵のみならず,この世界そのものの終末についても詳しく
説いています。そこでは,死者も全て神の前に再び呼び出され,改めて神の審判を受け
ることが記されていますが,この審判では,各自の信仰と行為だけが問題となることを
明記しています。
「ハディース」とは,預言者ムハンマドの言行(教示)に関する伝承のことです。ム
スリムは,生きるための全ての指針である基本的原理・原則をコーランに求めますが,
その具体的行動指針は預言者ムハンマドに仰ぎました。つまりコーランを誤りなく生活
の諸領域に当てはめて,問題解決や実践に役立てるためには,先達となる仲介者(指導
者の導き)が求められるのです。そのために集大成された言行録(伝承)がハディース
です。
ムスリムが信仰者として守るべき規範を定めた聖法を「シャリーア」と呼びます。シ
ャリーアとは,水場への道,或いは従うべき純正な道を意味し,これは遊牧民にとって
水が生命をも意味することから,人間を導く正しい道の語意として用いられるようにな
ったものです。ムスリムは,このシャリーアによって信仰的生活のみならず,世俗的(
現世的)生活のあらゆる側面を具体的に規定されています。
ムスリムの生活規範は,次のような義務を含む権利から成り立っています。
神より与えられたすべての義務を果たす権利
人間が自分自身に対して真実である権利
万人に幸福が得られるよう務める自分に対する他者の権利
神から与えられたあらゆる資源や能力を活用する権利
このようなイスラムの礎石をなす生活規範に基づいて,シャリーアは,人々を神が啓
示した正しい「行動規範」に導くため,ムスリムの全行動を次の五つに分類しています。
義務,怠れば処罰される行為
義務ではないが,奨励される行為
非難も奨励もされない,行っても行わなくてもよい行為
処罰はされないが,芳しくない行為
行えば処罰される禁止された行為
ムスリムが基本的に信ずべき信仰の基モトイを「六信」と云います。即ち,アッラー(神
),天使マラーイカたち,諸啓典クトウブ,預言者ルスル,来世アーヒラ,天命カダル(定命)の六つで
す。
アッラーは世界の創造主であり,唯一無二・絶対者・全知全能の神として存在し,「
慈悲深き者」「至大の王者」「聖なる者」など99の美しい賛辞の呼称があります。
天使とは,預言者と神を繋ぐ役割を果たします。ムスリムは天使の実在を信じなけれ
ばなりません。
諸啓典とは,預言者ムーサー(モーセ)に啓示された「律法(モーセ五書)」,預言
者ダーウード(ダビデ)に啓示された「諸篇」,預言者イーサー(イエス)に啓示され
た「福音書」,最後の預言者ムハンマドに啓示された「コーラン(クルアーン)」の四
つの天啓の書と,アダムからモーセに至る5名の者に啓示された神の百の戒告を云いま
す。この中でコーランが神の言葉を最も粉飾,改変,省略なしに伝えるものとして重視
されています。
預言者とは,アッラーの啓示を受け,それを神の思いの如く人々に知らせる役割を持
つ者のことです。
五つ目の来世とは,最後の審判の日が確実にやってくることを信ずることです。審判
の日には生者も一瞬にして死滅し,死者も蘇らせて神の審判を受けます。
最後の天命とは,定められた運命を云います。人間の存在は,その全てが神に委ねら
れています。人々の為すべきこと全て,作られた神の意志を感得して委ねることが肝要
とされています。
ムスリムに課せられた必須の宗教的な実践行,即ち信仰告白シャハーダ,礼拝サラート,喜捨
ザカート,断食サウム,巡礼ハッジを「五行(五柱)」と云い,ムスリムの守るべき義務とされ
ています。
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