29 イスラム教
イスラム教
参考:三笠書房社発行「『宗教』がわかる」
〈イスラムとは〉
「イスラム」とはアラビア語で,平和,従順,純粋,服従などの意味を持ちますが,
宗教的には「アッラーへの帰依」を表します。
ムスリム(イスラム教徒)は,宇宙の創造主である唯一無二の真実の神アッラーだけ
を崇拝し,その預言者たちと諸経典を信じ,アッラーの創られた天使たちの存在,定め
られた運命,審判の日,死後の生命などを信じる者です。
イスラムにおけるアッラーの概念は,多神教での神々の概念とは全く異なり,通俗的
に云われる山の神とか開運の神などの限られた性質のものではありません。アッラーは
宇宙創造の本源,あらゆる活動の原動力,そして宇宙に遍在する法則を支配する超自然
的な存在であります。わたくしたち人間の生命はもちろん,極微の世界から極大の世界
の一切に通ずる無限の実在を意味するもので,今日人類が月に到達することができるの
も,この一貫した宇宙の法則が厳存するからで,もし宇宙に二つも三つもの神が存在し
て,それぞれに異なった原則をもって宇宙を支配しているとしたら,科学も宗教も全く
異なったものとなり,人類の存在さえも想像をこえるものとなるでしょう(イスラミッ
クジャパンのパンフレットより)」。
イスラムは,民族宗教のユダヤ教,世界宗教のキリスト教と並んで,神の啓示によっ
て成立した宗教です。そして,この三つの宗教は,共に聖典(旧約聖書)を根底にし,
唯一の神を主張する"一神教"という点で共通性があります。しかし,同じ一神教と云っ
ても,三つの宗教における神の説かれ方には大きな相違点が見られます。イスラムの神
はアッラーと称され,全知全能で万物に存在の理由を与え,世界の創造者として世界を
その支配下に置いています。そして,「唯一無二の卓越した」偉大なる存在でありなが
ら,信徒にとっては,「頚の血管よりもなお近い」存在にあります。
〈イスラムの信仰告白〉
イスラムでは,「私はアッラー以外に神はないことを証言します。ムハンマドがアッ
ラーの御使いであることを証言します」との信仰告白が,最も根本的で重要とされます。
イスラムの概論書は,次のような見解を示しています。
「この信仰告白(信仰箇条とも)を信ずるものは,狭量で萎縮した見解を持つことが
ない。
この信仰告白は,人間に最高の自尊心と自重心を植えつける。
この信仰告白による確信は,人間に謙虚で慎み深い心を植えつける。
この信心は,人間を高潔で公明正大なものにする。
神を信ずる人は,いかなる苦境やみじめな環境におかれても,失望や落胆に陥ること
がない。
この信心は,人間に強い使命と忍耐,神への信頼感を植えつける。
この信仰告白は,人間の勇気を鼓舞する。
この神への信心は,平和と満足を創り出し,正しい努力を促して,成功を得るために
不正な手段を用いようとする考えを近寄らせない。
この信仰告白の最も重要な効果は,人間を神の統御力にしたがわせ,法を遵守させる
ことである」。
このようにイスラムでは,神の唯一性を信ずることによって,俗なる生活と聖なるも
のが連結し,神の前に全ての信徒の平等性が保たれているのです。
〈最後の預言者〉
イスラムでは,神の啓示を伝えたムハンマドを「神の御使い」としています。このよ
うに,神の声を人々に伝える者を預言者と呼んでいますが,イスラムにおいては,神が
この世に遣わした預言者は12万4000人おり,その中でアダムを始めとして,ノア,アブ
ラハム,モーセ,イエスという,聖書に記されている人々と,ムハンマドの6人を最も
重要な預言者としています。
従ってイスラムでも「聖書」を,神の神聖な言葉を記すものとして崇めますが,預言
者の系列としてはムハンマドが人類最後の預言者であり,神はムハンマドの出現によっ
て預言者の系列を封印したとしています。
ムハンマドは,西暦紀元570年代にサウジアラビアのメッカを支配していた名門の部族
クライシュ族の一員として生まれました。同610年頃,即ち四十歳を迎えた頃から思索に
耽るようになり,ある日ヒラリー山で瞑想していると突如,天使ガブリエルの声に接し
て,神からの啓示を受けました。
天使ガブリエルの声を聞いたムハンマドは,初め大いに狼狽したと伝えられますが,
それはこの声が神の啓示を伝えるものと信じられず,良からぬものに憑かれたのではな
いかと思ったからです。一時は死をも考えるまでに悩みましたが,天使ガブリエルが再
び出現して,ムハンマドが神の使徒であることを伝えたため,漸く神の使徒としての自
覚が生じました。この出来事が,イスラムの出発点となりました。
ムハンマドは最初,メッカにおいて神の言葉を宣べ伝えました。ところが当時のメッ
カはアラブ社会の伝統的多神教が民衆の信仰を集め,現在のイスラムの聖殿であるカー
バ神殿には300以上の神像が安置されている状態でした。そのため,大商人達の迫害が激
しく,ムハンマドはメディナに移住して二つの部族の対立を調停し,ここでイスラム共
同体を形成しました。その後,メッカの旧勢力との戦いにも勝利を収めて,アラビア半
島全域にイスラムの教えを浸透させました。同632年,ムハンマドはその使命を果たして
生涯を閉じました。
[次へ進んで下さい]