05 道教
 
                  道教
 
                   参考:三笠書房社発行「『宗教』がわかる」
 
〈道教の歴史〉
 道教ドウキョウは,中国で誕生した多神教です。中国では今日,儒教が宗教とみなされな
くなったため,道教は中国生まれの唯一の民族宗教とも云えます。道教は,中国民族(
漢民族)の間で自然発生的に継承された民族固有の信仰に端を発する,とされています。
教祖が誰であるか,何時成立したかということは分かりません。現在,中国以外では台
湾と香港などの華僑カキョウ社会で信奉されています。
 道教には,民衆道教と成立道教(道観ドウカン道教)があります。民衆道教とは,古来民
衆の間で信奉されていた善行・悪行についての道教的解釈を中心とする信仰や習俗を云
います。成立道教とは,古くからの民間信仰に基づきながら,神仙説・祈祷儀礼・養生
術・道徳・占術などを加味して,成立させた教派のことです。
 道教の歴史は,2世紀中頃までに成立した太平道タイヘイドウと五斗米道ゴトベイドウ(天師
道)に始まります。この二派は今日,原始道教と呼ばれていますが,その教えは治病の
ための呪術が中心でした。太平道派は,後に信徒が中核となって黄巾コウキンの乱(184)を
起こしたため断絶しましたが,五斗米道派は一時(約20年間)四川省方面で宗教王国を
形成し,後に天師道と改称して,現在まで存続しています。
 この2派は,共通した教えの説き方がみられ,両道とも人々の行為を監視する神の存
在(太平道は天神に依頼された鬼神,五斗米道は天・地・水を司る神々)を説き,治病
のためには,その神に悪行の反省をしなければならないと教えています。
 道教は,南北朝時代に寇謙之コウケンシが開いた新天師道によって大成されました。寇は北
朝の魏の王室と結び付き,一時道教が国教となるまでに発展しました。この時代,道教
は神仙思想(人間の肉体を良好な状態で不老長生せしめうる根本原理)を中心として,
神仙術・儀礼・天界・神々などの教えを整え,国家の儀礼を執行し,教典(『道蔵ドウ
ゾウ』)も多く作られました。その後も道教は,南北朝から唐・宋時代を通して国から特
別の保護を受けていたため,導士(仏教の僧に当たる)の堕落が民衆から指摘されるよ
うになりました。
 唐時代には,道教に採り入れられた道家ドウカ思想(『道徳経』)を説いたと伝えられ
る老子が,王室と同じ姓であったことから,道教は特別扱いを受け,そのことが後代,
道教の教祖は老子であると思わせる原因となりました。
 宋の後の金朝時代(12世紀)に入って,社会が貧困から混乱期を迎え,内部から革新
の気運が生じて,全真ゼンシン教・真大教・太一タイイツ教の3教派(教団)が誕生しました。
前2派は儒教・仏教・道家三教思想と同源論に立ち,特に禅思想に強く影響されていま
す。太一教は旧道教的改革派と云えます。明・清時代の道教は,国家の統制下にあって
伝統を維持するだけとなり,今日に至っています。
 
〈道教の教え〉
 道教の教えを記した書籍を『道蔵』と云い,道教教典の集成本です。この『道蔵』は
11世紀の初めに編集され,以後数回手直しされていますが,現在用いられているのは明
代に編集された『道蔵』の複製本です。
 『道蔵』は三洞(洞真ドウシン・洞玄ドウゲン・洞神ドウシンの3品)と四輔シホ(前者を補充
する太玄・太平・太清・正一ショウイツの4部)の7部によって構成されています。これらの
教典は,主要な教派の教えを集録したものです。
 道教の教えの内容は,四つに大別できます。
 第一は,天地の成立や天界の様子,多くの神々や万物の根元などを説いた道教の中核
的教えの部分です。この部分では,万物の起こりから天界の有り様,神々の配置などが
示され,仏教や中国封建社会の支配形態,アニミズム(精霊崇拝)の影響が反映されて
います。
 また,神々については多種多様の神々が存在していますが,最高神としては元始天尊
や玉皇上帝,高位の神々としては太上老君(老子のことで,道徳天尊とも称する)・玄
天上帝(北極星)・北斗神君(北斗星)・雷神などの神々が崇拝されています。巷間コウ
カンの人気が高い神々としては,媽祖マソ(天妃)・関帝などが挙げられます。
 道教の根本聖典の一つである老子の『道徳経』では,人間の作為の放棄,自然本位,
清浄無垢の大切さが説かれており,その心掛けによって生活を貫き通せば,宇宙万物の
根本である道に帰一することができると教えています。この『道徳経』が提示した「道
」の権威付けが,道教の思想的側面に採り入れられています。
 第二は,祈祷の儀式や護符,占術や仙術などの方術的教えです。祈祷の儀式では,様
式がきちんと整っており,呪術的歩行など様々な事柄に及んでいます。また護符は,目
的に応じてあらゆる種類が揃っています。仙術としては,道教の重要な教典の一つ『抱
朴子ホウボクシ』(葛洪カッコウ著)の雨乞いの法・空中歩行の法・鬼神を使う法などの仙術の
具体的な方法が説かれています。
 第三は養生法です。道教の主目的の一つが不老長生に置かれていることから,この分
野は取り分け重視されています。そのため,食物のことから調息・房中術(性に関する
術)などが説かれ,仙術の根本として,金丹(錬金術によって金属から作られた薬で,
不老長生の妙薬)の作り方が示されました。これらの神仙術を集大成した書物が『抱朴
子』であったため,同書が道教の重要教典の一つとされているのです。第四は倫理・戒
律的分野です。人倫(道義)や国法に従うことを説き,儒教の影響を強く反映していま
す。
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