03a 神道
〈神道の教え〉
神道の教典や教義の関しては,「自然発生的な民俗宗教である神道には,いわゆる教
義は存在しない」としています。何故かと云いますとそれは,神道が「神の道」を拠り
所にしているからです。本居宣長は,「そも此の道は,いかなる道ぞと尋ぬるに,天地
のおのづからなる道にもあらず,人の作れる道にもあらず。此の道はしも,可畏きや高
御産巣日神タカミムスビノカミの御霊ミタマによりて,神祖伊邪那岐イザナギ大神,伊邪那美イザナミ大
神の始めたまひて,天照大御神の受けたまひたもちたまひ,伝へ賜ふ道なり,故是以神
の道とは申すぞかし」(『直毘霊ナオビノミタマ』)。
このような意味合いによって,神道者は「教えの形」として神道を捉えることに否定
的考えを表している訳ですが,それは仏教やキリスト教などの教義の在り方との比較に
おいて,「教義は存在しない」と述べられているだけであって,神道としての豊かな教
えの表現は現に保持されているのです。それは,神話や祭祀を通して表現されてきたも
のであり,日本人の態度や慣習の中で主張されてきたものと云うことができます。
この神話を伝承する主要な文献には,『古事記』『日本書紀』を中心として『風土記
』『古語拾遺』などがあります。祭祀について著した文献としては,『大宝令』『養老
令』『延喜式エンギシキ』などが挙げられます。更に『続日本紀ショクニホンギ』の宣明センミョウ(天
皇の詔勅ショウチュク)を通して,「明浄心アカキキヨキココロ」「浄き直き心」「誠の心」という,人
間本来の基本的在り方(神道の倫理観)が説き示されています。
これらの伝統に立脚して昭和31年,神社本庁より神道者の実践心得とも云うべき「敬
神生活の綱領」が発表されました。
一、神の恵みと祖先の恩とに感謝し、明き清きまことを以て祭祀にいそしむこと。
一、世のため人のために奉仕し、神のみこともちとして世をつくり固め成すこと。
一、大御心オオミココロをいただきてむつび和ヤワらぎ、国の隆昌と世界の共存共栄とを祈る
こと。
これには,神道(神の道)の大綱が集大成されていると云っても過言ではありません。
この綱領に示された「明き清きまこと」の意味は,『続日本紀』に教示されている「私
心や邪心のない公平で澄み切った神の心のような心境」のことであり,「神のみことも
ち」という言葉は,「神意(神々の命ずるところ)に従って,それを忠実に果たす者。
神意を伝達する者」と解釈されています。
また,「祭祀」という語に示された意味は,狭義には儀礼などの神事を指しますが,
広義に捉えた場合は常に神々と共にある,神々と共に暮らすという意味に捉えることが
できます。これが神の道の教えの肝心でもあります。
〈神社神道とは〉
「神社神道」という呼称は,神道の長い歴史からしますとかなり新しいものです。つ
まり明治以降台頭してきた神道系独立教団が「神道教派・宗派神道」と称したのに対応
して,内務省神道局に属した国家の宗祀を司る神社の神道(惟神カンナガラの道)をそれら
と区別するため名付けられたのです。第二次世界大戦後,神社も国家の所管を離れ宗教
法人となり,昭和21年2月,全国神社の総意に基づく神宮(伊勢神宮のこと)を本宗ホン
ソウとする宗教法人神社本庁が設立され,神社神道の名称が一般的に用いられるようにな
りました。江戸期以前は特に区別する必要がなかったため,単に神社と称していました。
神社本庁の「庁規」に拠りますと,神社神道に連なる神社の属性は,「神社は,本殿,
拝殿等公衆礼拝の施設を備へ,神社神道に従って,祭祀を行ひ,神徳をひろめ,及び氏
子,崇敬者その他を強化育成することを主たる目的とす」となっています。氏子という
のは本来,氏族の守護神(氏神)とその成員(氏人)との関係を示す用語でしたが,現
在では居住する土地の神社と生活上帰属関係を持つ人を指します。また崇敬者とは,氏
子区域に関係なく,信仰的契機によってその神社を継続的に崇敬し,氏子に準じて神社
の興隆のため尽くす人です。
神社の奉職者は,神宮の場合「神官シンカン」と称し,神宮以外の神社は「神職シンショク」と
総称されています。神宮で「神官」」に包括される職制は,大宮司ダイグウジ・少宮司・
禰宜ネギ・権ゴン禰宜・宮掌クジョウまでです。神宮以外の神社の場合は,宮司・禰宜・権禰
宜を神職とし,名誉宮司・怜人レイジン(雅楽カガクの楽人)・巫女ミコなどは神職と区別され
ています。
神社の祭神は,万物創造に関する神・霊能上の神・人の霊を祀る神・職業上の神・天
象及び地象に関する神・動植物に関する神・食物に関する神などに分類されます。祭神
(神徳)の名によって定められているお社ヤシロの名称を数の多い順に紹介しますと,稲荷
神社(五穀豊穣の守護神)と八幡神社(文化を導く神)が最も多く,次いで神明宮(天
照大御神)・天満宮(学問の神で菅原道真公を祀る)・浅間センゲン神社(農家の守護神)
・天王社(災厄懐除の神。氷川神社・熊野神社・津島神社・八坂神社の系統の神)など
が挙げられます。
神道は「祭祀」が根本と云われますが,祭祀は各神社の祭祀規程に基づいて大祭タイサイ
・中祭チュウサイ・小祭ショウサイ・諸祭ショサイに分けられます。大祭は一般的に例大祭と呼ばれ,
中祭は各神社の由緒ある祭祀などで,小祭は大祭・中祭以外の特殊神事を云います。諸
祭は神社祭祀以外の祭祀を総称し,人生儀礼などの祈願がこれに当たります。
神社の建造物は,概ね本殿・幣殿ヘイデン・祝詞殿ノリトデン・拝殿・神庫シンコ(神宝類を収
容する倉)・神饌所シンセンショ・社務所・祭器庫サイキコ・神厩ミヤマヤ(神馬を入れる殿舎)・神
楽殿カグラデン・祓殿ハライデン・舞殿・儀式殿・末社マッシャ(摂社セッシャとも。神社の由緒に属す
る社)・神輿舎ミコシシャ・手水舎テミズシャ・玉垣タマガキ(瑞垣ミズガキ)・鳥居(神域の入る関
門)などで構成され,神社の大小によって変動があります。
なお「教派神道」とは,幕末から明治にかけての政治的・社会的激動期を背景にして,
民衆の活力によって発生した神道的宗教を基盤にする新宗教に端を発しています。
山岳信仰系 − 実行ジッコウ教・扶桑フソウ教・御岳オンタケ教
純教祖系 − 黒住クロズミ教・金教コンキョウ教・天理テンリ教
禊ミソギ系 − 禊教・神習シンシュウ教
儒教系 − 神道修成シュウセイ派・大成タイセイ教(神道大成教)
復古神道系 − 大社タイシャ教(出雲大社オオヤシロ教)・神理シンリ教・神道本局(神道大教タイキ
ョウ)
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