11 現御神に坐す天皇
 
 本居宣長は『古事記伝』三之巻において、
 「さて人の中の神は、先づかけまくもかしこき天皇は、御世々々みな神に坐すこと、
申すもさらなり。其は遠つ神ミカミとも申して、凡人タダビトとは遥に遠く、尊くかしこく坐
しますが故なり」
と述べている。
 
 事実、古典に拠る限り、すでに白猪(既述)も神であり、『日本書紀』宝剣出現章第
二の一書には、素戔嗚尊が八岐大蛇に対して「汝イマシは是れ、かしこき神なり」と申され
た伝承がある。人間については、神話に現れる最も具体的な名を持つ存在、脚摩乳アシナツチ
・手摩乳テナツチが国津神の名で呼ばれている。また人皇の代ミヨでも、日本武尊は「神人カミ
」、蝦夷の賊首さえ「島津神」の名で呼ばれているのである。
 宣長が「尋常ならずすぐれたる徳のありてかしこきもの」としたのは、決して誤りで
はない。
 
 天皇は文字通り、民族国家の理想を体現なさる御存在であり、常にわが国の歴史を負
って、私なく、国の政事マツリゴトを知らし、祭祀マツリに仕え奉られる御存在なので、現御神
アキツミカミにあられずして、他にいかなる申し上げようがあるだろうか。
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