02 神とは − 神理解
 
                    本稿は、神社新報社発行上田賢治氏著「神
                   道神学」を参考にさせていただきました。
                    この「神道神学」は、神職研修の基礎的教
                   材としてまとめられたものです。
                    自分の理解できる範囲で、必要により転記
                   又は要約させていただきました。
                    わが日本の文化の根底をなす神道、その神
                   について、読者の方々に広くご紹介したいと
                   思って掲載させていただきました。 SYSOP
 
〈神とは − 神理解〉
 
 「神とは何か」を理解するための前提として、二つのことが考えられる。
 
 第一は、「かみ」は大和言葉、即ち本来の日本語である、と云う事実である。
 
 ところが、最古の文献である『古事記』(712成立)や『日本書紀』(720成立)には、
これを「神」の字で書き表している。
 「神シン」は本来は表意文字で、陰陽(中国の易学)では説明することの出来ない、つ
まり人間の理性によって推し量ることの不可能な存在を示していた。従って儒教の祖で
ある孔子(前551〜前479)は、神を礼拝することはしたが、神について語ることは一切
しなかったと云われている。
 神シンが果たして、我々日本人が、祖先以来信じてきた神カミと同質のものかどうか、十
分見極める必要がある。
 記紀の成立に関与した当時の知識人は、儒教や漢籍一般についての知識だけでなく、
仏教についての教養も既に豊かであったのであり、しかも漢字のみを用いて、記紀(=
神道古典)の編纂に携わっていたのである。
 
 一方キリスト教の伝来(1549)の頃、来日したザビエル等は、キリスト教の神を「ゼ
ウス」の名で呼んでいたとされる。またその後イエス・キリストを「イエズス」と呼んで
いたが、これらの神は、日本の神と混同するすることは考えられない。
 幕末の頃、中国語訳により、キリスト教の神を「天主」と呼んでいたので、これも日
本の神との混同は考えられない。
 明治になってキリスト教が公認されたとき、プロテスタントは、その信仰対象を「神
」の字に翻訳したとされる。このとき、日本の「神」と、キリスト教の「神」とが混同
され、信仰上の大きな混乱が生じたのではないかと考えられる。更に第二次世界大戦終
戦によって、日本人の魂は失われ、西洋に傾倒した形で、神と云えば、キリスト教の神
が第一義となる状況が生み出されたのではないだろうか、と考えられるのである。日本
の神と、キリスト教の神との区別を認識していない人々が、多数存在していることは事
実である。
 
 第二は、神を論ずる前提として、信仰を持つ者と、持たない者とに違いのあることで
ある。何故なら、如何に神学が冷静な理性に基づくものであっても、神の全てを明らか
になし得るものでない、と云うことである。
 
 呪術と宗教の違いについて考えてみたい。
 呪術者は普通、一定の儀礼手続きを踏むが、その中で特定な「霊的対象の名」を呼ん
でこれを招き寄せ、呪文(呪言)を唱えて信者の願いを告げる。このとき招き寄せられ
る霊の名は、呪術者のみしか分からない。つまり呪術者は、「名」によって霊的対象の
実体(或いは本体)を捉えるのであり、それ故に霊的対象は、呪術者の呪文の如何によ
って決まるのである。換言すれば、呪術者と霊的対象との関係は、呪術者が優位の位置
に立っているのである。
 
 これに対して宗教においては、専従宗教家と雖も、神との関係では、常に神が優位の
立場を保持していることを基本としている。従って信仰者の願いは、要求とか取引では
なく、常に誓願や祈りの形となる。その願いや祈りも、必ず聴き届けられるとは限らな
いのである。
 言い換えれば、宗教的な営みにあっては、信仰者は、決して信仰対象の本体(或いは
実体)を把握しているのではない、と云うことである。信仰者の知り得るのは、信仰者
が受け止めることが出来た限りでの、神からの働きかけだけである。
 
 名が本体を示すとする信仰は世界的な広がりを持っているが、それ故に、信仰対象の
名は、常にその属性を示すに留まっているのである。神道の場合もその例外ではなく、
神名は、人間の受け止めることが出来た神の御働きを表し、人間の側から奉られたもの
に外ならない。例えば大国主神のように沢山の名を持つ神や、古典所出の神々に「亦の
御名」も合わせて伝えられのは、我々は神の御本体を捉えることが不可能であると云う
理解、即ちこれが人間と神々との関係であると云うことである。
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