02 神話とは
  
                         参考:堀書店発行「神道辞典」
 
 「神話」とは、ギリシャ語ミュトスmythosから出たmyth(英)、Mythos(独)、mythe
(仏)などの訳語で、神格を中心とした物語を指します。神話の厳密な定義は区々マチマチ
で、広義には伝説や昔話まで含める場合もありますが、普通には、現実の場所・人物・遺
物などについて、その由来を物語る伝説や、興味本位で語られ、信じなくても良い昔話
とは、区別されています。
 神話は、これを生み出す者及び語る者が、まず素朴な心で信じていること、つまり信
仰的であることが前提となります。この世の初め、原古における出来事、殊に人間生活
に執り、本質的な意味を持つ宇宙、人類、文化などの起源を語り、またこの原古の出来
事が後の世、殊に現在の自然・文物ばかりでなく、人間の行動一般に執って大きな規制力
を持ち、その規範となるような信仰的物語なのです。その多くは祭や儀礼と結び付いて
居るか、又はかって結び付いた形跡があります。文化民族の神話には、一般に文筆で記
載されたものが残っていますが、素朴な形のものは原則として口誦されたものであり、
祭の庭などで語られ、一定の形式で語られるのが普通です。またその口誦そのものも、
呪的な儀礼の一部としての機能を持っている場合が多い。素朴な形の神話は、一般に儀
礼と併行していることが多いが、その両者の前後関係はどうかと言うと、一概には決め
られない場合が多い。
 
 神話が原古の行為の叙述であるとしますと、儀礼はその出来事の繰り返しであり、再
現であるとされます。盗火神話とか死の由来を語る神話とかには、原始民族の中では、
この神話の内容をそのままを儀礼的・演劇的に演ずる場合もあり、明らかに神話が儀礼
を生み出している例がありますが、また逆に儀礼の意味が不明となったため、これを説
明するために神話が新しく生み出されると云う形もあります。両者は互いに影響し合い、
補足し合っているものです。
 『古事記』『日本書紀』及びその他の多くの上代古典に記された神話の物語を、「日
本神話」と呼ぶことは近年特に一般化して来ました。記紀の神代の物語は、全体的に政
治的・国家的な色彩が強いので、信仰的な物語である神話ではないとする考え方もありま
したが、古代には、政治は祭事マツリゴトと呼ばれる位、祭政一致の体制が行われていたの
です。これらの物語が政治的でもあった反面、信仰的でもあったことは、認めて良いで
しょう。従ってこれらを「日本神話」と呼ぶことは、一向に差し支えありません。また
記紀や風土記の中には、天石屋戸・天孫降臨・国引きなどの条で、如何にも語部カタリベの口
調らしい律文調の文章が見られますので、これはかって儀礼的に風誦されていた痕跡で
あるとも言えましょう。
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