13a 太古の面影探索への誘い〈化石の探し方〉
 
 △沢
 日本のように,厚い表土がどこにでも発達しており地表は普通多くの樹木で覆われて
いるところでは,西部劇でお馴染みのアメリカのように,大陸の大露頭がむき出しに広
がっているのとは事情が異なります。たいていの化石探しは,川沿いの崖や切り割り,
川床などを目標にして行われます。露頭が比較的よく連続して観察されるのは大きな本
流沿いのことが多く,小沢に入ると露出はしばしば途切れていますし,専ら転石を追う
ようなことが多いです。沢のようなところでは,まず転石中に化石を発見してそれの由
来した母岩を追求するとよいでしょう。地層の走行方向に沢が延びている場合には,同
一層準の化石産地を次々と発見しやすいのです。ただ,最近は道路工事などのために,
かなり遠方から砂利や砕石が運ばれるようですので,転石の出所については十分慎重に
検討してみなければなりません。河原の石は,その付近か,まだもっと上流から流され
てきたものですから,化石探しの要領は,ちょうど鉱山技師が鉱石の露頭とか鉱脈を探
査するのと同じく,川やガレの石に注意するのが第一歩でしょう。化石を含む転石が発
見された位置よりも上流に化石産地を発見する場合は少なくありません。
 △道路の切り割り
 道路や山肌の切り割りの露頭も勿論観察の良い材料です。地方には皿貝板,貝山とか
貝殻山,あるいは貝沢とか貝殻沢と呼ばれるところがあります。そういうところでは,
昔から貝化石が発見されていたのであろうから,土地の小さな名前にも十分気をつける
べきです。例えば,「土目が木」という地名のところに珪化木の化石が多産していたの
かもしれないというふうに勘を働かせるセンスも必要です。地方では,化石同行会がな
くとも,土地の老人や子供達,土地の物知りの人の話を注意して聴いてみると,思わぬ
知識を得ることがありましょう。道路の切り割りに注意すると同時に,運ばれたのズリ
とか,村の石垣や石段に使われている石とか,庭の置石にも注意しておくのもよいでし
ょう。そういう場合は,持ち主にその石をどこから運んできたのか,一応は聴いておく
ものです。
 △工事現場
 前述のように採石所などの工事現場からは化石が発見される例がままあります。また,
露天掘りの採石所にとどまらず,炭坑などの地下深くの坑内からも時に大型の動・植物
化石が掘り出されることから,現場の人には関心を持っていただきたいと思います。例
えば,長崎県三菱高島炭坑から草食恐竜トラコドンの仲間が採集されたり,山口県宇部
炭坑からサイ化石が発見されるといった具合のことです。
 さて,以上は,採石所のようにかなり長期間にわたり工事が行われる場所の化石採集
の実例でしたが,極めて短期間の工事現場でも,化石発掘の例がかなりありますので注
意して下さい。
 ここで特に注意しておきたいことは,珍しい大型の動物化石の発見などというような
事件は,古今東西の歴史を通じてみても,ほとんど学者自身によっててはなくて,アマ
チュアの手によってなされていることです。
 もう一つ重要なことは,発見者がすべて,しかるべき学会の機関に通報し,疑問を専
門家に連絡したことです。学問上成果の上がった事例は,すべてこのような手続きを経
ているのです。
 
〈岩石の種類に応じた化石探査のこつ〉
 △礫岩
 普通礫岩中には化石が含まれないことが多いですが,ときによっては,礫同様の大き
さの化石が多く含まれていることがあります。
 ほかに,基底礫岩や角礫岩中に,二枚貝やアンモナイト,哺乳類化石を産したり,基
底礫岩のすぐ上位にくる中礫岩や細礫岩中に二枚貝が産出するような例がよく知られて
います。
 △砂岩
 塊状砂岩には,しばしば層状又はレンズ状に密集した大型化石を産します。特に注目
すべきは,軽微な不整合面のすぐ上の位置とか,厚い砂岩の基底部,礫岩から砂岩に移
り変わる位置などです。厚い殻を持った軟体動物化石やサンゴなどが,礫と同様の淘汰
を受けて礫混じりの砂岩に含まれていることもよくみられるところです。ほかに,ノジ
ュールやコンクリーションなどを含む砂岩中には,二枚貝,アンモナイト,脊椎動物な
どをしばしば含みます。また,チョコレート色に風化するような砂岩の部分に貝化石を
含むことがありますので留意するとよいでしょう。ところが,同じ砂岩でも,ラミナや
斜交層理が発達するところ,すなわち水流の流れの強いと思われる環境で堆積した砂岩
には,化石が少ないです。仮に貝化石などがあっても,その多くが破片となっており,
貝殻質砂岩を形成したりしていて良好な標本は得られません。陸成層の場合,クロスラ
ミナの発達する地層には部分骨しか産出せず,塊状シルト岩からは恐竜骨格を産出する
ように例もあります。また,砂岩と頁岩との細互層にも化石は概して希マレです。しかし,
砂岩・泥岩の互層でも,いくらか厚いものでは,砂岩の下面に生痕がついており,泥岩
中には貝化石を産するというようなこともありますので注意を要します。石灰質の砂岩
では,貝殻化石などが機械的な風化作用に対し,母岩よりも強い抵抗を示し,海岸では
基質が先に洗い出されて,風化面に化石が突出していることもあります。しかし,普通
の場合,石灰質の殻は陸水により母岩よりも先に溶解し,化石の部分は空隙となって残
りやすいです。この場合には,砂岩の風化面に注意して化石の発見につとめるのがよい
でしょう。
 △泥岩・頁岩
 ノジュールやコンクリーションを含む泥岩中には,アンモナイト・二枚貝・甲殻類・
脊椎動物・植物などを含むことが多いです。無層理で貝殻状に風化する泥岩にも化石を
産しますが,一般に風化面では化石の存在が分かりにくいです。砂岩と異なり風化面が
崩れやすいことや,細粒岩には概して薄殻の種類が多いため大きな空隙ができないこと,
殻が溶解後に地層が押しつぶされて空隙がなくなりやすいことによります。日本の中生
界に多い海成の黒色泥岩又は砂質泥岩では,大型の化石を含む地層は極めて多くの場合
に炭化した植物破片を持ちますので,その存在に注意することにより化石発見の糸口を
つかむことが多いです。ほかに,黄鉄鉱で黄色の汚点の付いた泥岩に軟体動物化石を含
むことがあります。また炭層の上下にある泥岩には植物化石などが含むことが多いです。
層灰岩にはしばしば植物や魚の化石を含みます。
 △泥灰岩
 外国では,厚い泥灰岩中には保存のよい化石を含むことが多いですが,わが国では頁
岩と石灰岩の移り変わりに小規模に発達するぐらいで,石灰質の頁岩はあっても泥灰岩
といえるほどのものは少ないです。だが既述したように,細粒岩中にはしばしば泥灰質
ノジュールが発達し,特に北海道その他の上部白亜系中のノジュールは豊富です。した
がって,化石探査の場合,泥灰質ノジュールは一応徹底的にたたくというのが鉄則です。
ノジュール中の大型化石は不規則にいろんな方向を向いて入っていることが多いですか
ら,現地で化石が入っていることを確認しましてら無理をして取り出さず,そのまま持
ち帰って室内で整形することにしましょう。
 △石灰岩
 石灰岩は非結晶質の場合,変形の少ない,細部のよく保存された化石を含むことが多
いです。わが国の古生層は固結・変質が著しいので,化石採集はほとんど石灰岩を対象
としてなされてきました。無論例外もあって,古生界でも例えば泥岩や砂岩中に化石を
産することもあります。珪化作用の影響で,二枚貝・巻貝・腕足貝・サンゴなどの大型
化石が石灰岩の風化面上に突出している例もあります。
 
                   参考 「化石鑑定のガイド」朝倉書店発行

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