07a こんにちは昆虫たちよ〈衛生害虫〉
 
〈カ類〉
 衛生害虫となるものは双翅目,カ科,カ亜科に属し,1500種か知られており,わが国
には約60種が分かっています。雌が吸血してマラリア,黄熱,デング熱,フィラリア症,
脳炎などの媒介をする重要な衛生害虫です。
 アカイエカはアジアの温帯に広く分布する最も普通の種で,雌はどぶ,用水だめのよ
うなやや汚い水域に舟形の卵塊を産みます。
 チカイエカはヨーロッパ,中近東,北米,日本に分布し,雌は無吸血でも産卵が可能
(無吸血産卵)です。カは一般に広い空間で飛翔しながら交尾しますが,本種は雄が静
止している雌をとらえて交尾(狭所交尾種)します。低温にも強く,休眠をせずビルの
地下の溜まり水,水洗便所の浄化槽でも繁殖し,冬でも被害があります。
 コガタアカイエカはアカイエカよりやや小型で黒色で,吻の中央に白斑を持っていま
す。日本脳炎の媒介をします。幼虫は水田に発生し,日本全土,東南アジア,中近東に
分布します。
 ヒトスジシマカは胸背の中央に白色の1本の縦すじが通っているのが特徴です。東洋,
オーストラリアに分布し,昼間吸血性で,切り株,空缶詰の溜まりに発生します。デン
グ病の媒介者です。
 トウゴウヤブカは東アジアから日本にかけて分布し,幼虫は用水桶などに発生します
が,塩分にも強く,海岸の潮だまりにも発生します。昼間のみならず夜間も吸血活動し,
フィラリアの媒介をします。
 シナハマダラカは,アジア東部,東南部に分布し,翅に黒白の斑があり,静止すると,
尾端を上げ頭部を低くかまえた独特の姿勢をとります。夜間活動性で水田,池沼などの
清澄で草が多い広い水面に発生します。三日熱マラリアを媒介します。
 成虫に対しては防虫網,殺虫剤のエアゾール散布,残留噴霧や蚊取線香の使用,屋外
ではスプレーやクリーム状の忌避剤の使用が有効です。発生源の対策として幼虫の発生
地への薬剤散布,幼虫の発生源の除去,天敵魚類の放飼などがあります。
〈ハエ類〉
 双翅目に属し,3齢幼虫の皮膚がそのまま残り,囲蛹となるのが特徴です。衛生害虫
としては主として,イエバエ科,ヒメイエバエ科,クロバエ科,ニクバエ科です。口器
は吸収式で,種により舐食性のものと吸血性(サシバエ類)のものとがあります。ハエ
の体表,嘔吐物,糞のなかには各種の病原体がいて,病原体の運搬者あるいはニューサ
ンスとして重要です。ハエの発生源は種によって異なり,イエバエは畜舎,堆肥,厨芥
などで,サシバエは畜舎,ヒメイエバエは便池,漬物桶,クロバエ類は便池,水産加工
場,キンバエは水産加工場,動物死体,ニクバエ類は便池,動物死体などです。
 イエバエは全世界に棲み,運搬者と不快昆虫双方の要素を持っている。実験室で累代
飼育され,実験昆虫として有用です。
 サシバエは成・幼虫ともイエバエに似ていますが,成虫の口吻は針状に尖っており家
畜を刺し吸血します。
 ヒメイエバエはイエバエと並んで家屋内にみられる普通の小型のハエです。屋内を輪
舞し,静止したときは翅を重ねてたたむこと,幼虫は扁平,褐色でトゲがあり,イエバ
エとは異なります。
 クロバエ類は大型で黒褐色で腐肉などに集まります。キンバエ類,オビキンバエ類は
クロバエ科に属し,成虫は金緑色又は青藍色に輝くが不潔で動物屍や野糞に集合します。
小児麻痺ビールスの運搬者として重要です。
 ニクバエ類は大型で灰色の体に黒い縦縞があります。大部分は卵胎生で,卵は雌の体
内で孵化し,いきなり幼虫が生まれてきます。
 ハエは,伝染病を媒介する衛生害虫として駆除の対象になっていましたが,今日では
不快昆虫あるいは公害昆虫として問題となっています。防除対策として,@発生源対策
(ごみ処理,畜舎の清掃など),A成虫対策(殺虫剤処理,誘殺など)があります。
〈ゴキブリ類〉
 ゴキブリ目に属し,全世界から28科,4000種が知られ,大部分は森林などの野外に生
息しています。ゴキブリの害としては,不快感,悪臭,病原菌(消化器系伝染病細菌や
小児麻痺ウイルス)の運搬,食品・書籍の食害などがあります。
 ヤマトゴキブリは体長25〜35mm,黒褐色,雌は翅が短く腹部の中央までしかありませ
ん。日本土着種で屋内害虫ですが,屋外にも生活し,短日で休眠します。
 クロゴキブリは体長30〜40mm,黒褐色で翅は雌雄とも腹端よく長く,日本式家屋,浄
化槽,下水に生息しています。
 ワモンゴキブリは日本における屋内性ゴキブリの最大のもので体長30〜45mm,褐色で
前胸背板に黄白色の輪紋ワモンがあります。実験用昆虫としてよく使用されます。
 チャバネゴキブリは体長11〜15mm,黄褐色,前胸背面に一対の細長い黒斑があります。
小型で世代経過が早いです。交尾後,雌は腹端に卵鞘ができはじめ,約20日腹端に卵鞘
を保持し,これが産み落とされると1日で孵化します。時には尾端についたまま孵化す
ることもあります。
〈ノミ類〉
 隠翅目に属し,世界から1300種,日本では80種が知られています。成虫は雌雄とも吸
血し,幼虫は乾燥した動植物性のみのを食べます。
 ケオプズネズミノミはペストを媒介するネズミノミの一種です。人間にはヒトノミ,
犬にはイヌノミ,猫にはネコノミがつきます。発生源となるゴミの清掃と殺虫剤散布で
防除効果があります。
〈シラミ類〉
 吸血性のシラミ目と羽毛を食害するハジラミ目とがあります。人体に寄生するコロモ
ジラミは発疹チフスを媒介します。アタマジラミ,ケジラミも人体に寄生します。コロ
モジラミは衣服に産卵するので熱湯処理が有効です。
〈その他〉
 吸血性害虫として,トコジラミ(南京虫,夜間活動性),ブユがあり,ダニ類(イエ
ダニ,ツツガムシ類)も重要です。このほかに有毒物質によって皮膚を害するアオバア
リガタハネカクシ,ドクガ,アリ,ハチ,ムカデ,ヤスデがあります。
 
               引用 「新応用昆虫学 -改定版-」 朝倉書店発行

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