11 植物の世界「円い茎と四角い茎」
 
           植物の世界「円い茎と四角い茎」
 
                      参考:朝日新聞社発行「植物の世界」
 
 シソ科植物の茎の断面は,四角形です。実は断面が三角形の茎を持つ植物もあります。
何故,円形でない茎があるのでしょうか。
 
 普通,植物の茎の断面は円い。
 しかし,春先に道端において出会うホトケノザや,刺身の添えられたりするシソの花
穂カスイをよく見ますと,断面は四角です。和風庭園などによく植えられるシホウチクと呼
ばれるタケの幹は,四角い形をしています。
 本稿においては,茎の断面が四角形をしている植物について,構造力学の観点から解
明してみましょう
 
 茎が円形断面の場合は,断面のあらゆる方向に一様な柔らかさを持っているので,曲
げられたときに素直に曲がります。風が吹いたときなども,風の吹く方向に揺れます。
これは,例えば釣竿が糸の引く方向に曲がることと同じであり,釣竿はどの方向に曲げ
られても良いように,円形断面になっています。
 また,円形断面ですと,茎の中の圧力が大気圧より高ければ,一様に膨れる最も安定
した形になりますし,外部環境に対して表面積を小さくするには,円形断面が最も適し
ています。
 それでは,シソのような四角い断面を持つ植物と,どうなっているのでしょうか。
 
〈四角い茎の植物〉
 シソ科の草本はほぼ全てが四角い断面を持ち,例えば,シソ,ホトケノザ,ハッカ,
オドリコソウ,ウツボグサ,タツナミソウ,メハジキなどがあります。アカネ科では,
アカネ,ヤエムグラ,ハナムグラなど,マメ科ではソラマメがあります。
 勿論,四角形断面とか円形断面のほかにも,幾つかの脈や稜リョウが茎の外皮にあって,
タデ科のスイバ,キク科のヒメジョオンのように多稜で多角形の断面を持つものも少な
くありません。カヤツリグサの類のように,正三角形をしているものもあります。
 しかし,大きくなる木の仲間では,ニシキギの類を除いて,枝や幹の断面は,全て円
形です。ニシキギはコルク質から成る4個の翼ヨクを枝の周りに持ち,またマユミの仲間
の枝には4個の稜があって,四角く見えるのです。
 
〈茎に必要なことは〉
 植物の茎の断面に必要な条件とは何かを,検討してみましょう。
 茎は云うまでもなく,大切な養分や水分の輸送路であり,多くの場合,真っ直ぐに立
って上部の葉や花を支えるものです。葉のように,表裏が決まっているものではありま
せん。
 そして,上部の葉や花は,大体四方八方に一様に茂り,或いは咲いています。また,
風による力は,普通,四季を通じてあらゆる方向から作用するものと考えられます。
 そこで,断面の特性としては,方向性が無い方が良いことになります。方向性があり
ますと,何時も特定の弱い方向に曲がってしまうことになったり,変に捻れてしまうこ
とにもなります。その点において最も良いものは,円形断面です。
 
〈茎の強さ〉
 茎が曲げられているときに耐える強さを剛性ゴウセイと云います。剛性は,材料力学から
云いますと,断面二次モーメントと云う,断面の形と寸法によって定まる量に比例しま
す。この量が大きい程,茎は強いことになります。ある方向に関しての断面二次モーメ
ントとは,断面が,その方向に垂直な断面内の中心軸(y軸)の周りを回転しようとする
ことに抵抗する量を表し,中心軸から断面の各部分までの距離の2乗と,その部分の面
積の積の集合によって表されます。
 そこで,中心軸から遠い部分の方が断面二次モーメントの大小に大きく関わり,中心
軸付近の部分は断面二次モーメントの大小にはあまり関係しないことになります。つま
り,直径が同じ鉄棒と鉄パイプを比べますと,曲げられているときに耐える強さには,
それ程大きな差はないのです。タケなどイネ科植物の茎が筒状になっているのは,この
ことにもよります。また,捻られた場合も同様に,筒状の断面は剛性が有効に働き,効
率が良い。円形断面の場合においては,当然この断面二次モーメントの値は,どの方向
でも同じものとなります。
 
〈円形よりも正方形が強い〉
 しかし,実は正方形断面の場合も,その値は,方向によらず同じものになるのです。
しかも,ホトケノザのように,各頂点に脈の部分があっても,断面二次モーメントは全
方向で一定です。つまり,四角い茎の場合も,風が吹けば,その方向に曲がるのです。
なお,四角い茎の断面は,正方形として考えることにします。
 そして,断面積が同じである場合,円形よりも正方形の方が剛性が強い。実際,家屋
など木造建築の柱の断面は正方形ですので,電柱や釣竿を四角形であっても良いことに
なります。
 こうして,四角い茎の場合も,どの方向に曲げられても剛性は変わりませんので,一
様性と云う点においては,四角形の茎を持った植物があってもよいことが分かります。
 更に考えてみますと,四角形の隅にある脈の部分は硬い構造組織になっていて,主に
力を支える部分になっています。そしてこの組織が隅にある場合,中心軸から遠方(離
れた処)にあることになり,同じ断面積のものの中においても,最も断面二次モーメン
トが大きくなることが分かります。
 
 さて,この四隅の脈の部分は硬い組織が集まったものですが,これと同じ断面面積を,
円形断面の外皮に一様の厚さに配置したときの断面二次モーメントを調べますと,四角
形断面の方が断面二次モーメントが大きくなります。つまり,この特性に関して四角形
断面と円形断面を比較しますと,四角形断面の方が効率が良いと云うことになります。
 こうして,茎や枝の強さの点において,前述のニシキギの翼のような形は大変優れた
ものと云えますが,ニシキギの場合は,それが切れ切れになった弱いコルク質であるた
め,剛性を大きくするには効果がありません。
 
〈信頼性と云うこと〉
 次に,植物が風などにより大きな力を受けて傷付くことを考えてみましょう。茎の断
面の何処に最初に傷が生ずるか,植物はそれにどう対処したらよいか,と云う問題です。
 この場合,円形断面においては,あらゆる方向に一様な特性を持つ形状であるため,
どの方向に関しても同じ状況が生じるので,一様性の点からは優れた断面形と云うこと
になります。しかし,これは換言しますと,全方向に関して一様に危険であり,周辺の
あらゆる部分において,傷が生じないかをチェックしなければならないことでもありま
す。それでは四角い断面ではどうでしょうか。
 四角い茎の場合は,形状から特定の極地(この場合は傷が生じやすい位置)となる可
能性がある点は,
 
        ○−○−○
        |   |
        ○ 中心 ○
        |   |
        ○−○−○
 
 ○印図示の8点(茎の中心を加えると9点)に限られます。植物にとっては,これら
の位置についてだけ,強さなどの特性チェックをしておけば良いことになるでしょう。
そして,傷付く部分はその付近であり,補強するのもまた,その付近に限られるでしょ
う。
 これは,機械や構造物の設計における安全のための信頼性検討の問題と同じです。
 そして,このことは,茎から葉や枝を出す場合も,迷わずにそれらの位置を定めるこ
とが出来るようになるでしょうし,葉の付き方も決まった形になりやすいことになると
云えないでしょうか。
[次へ進んで下さい]