11a 植物の世界「円い茎と四角い茎」
 
〈隅の脈の組織〉
 ここで,四角形断面の隅の脈の部分に注目してみましょう。
 茎の断面を薄く切ったものを顕微鏡で見ますと,隅の脈の部分が,美しい市松イチマツ模
様をしているものがあります。
 
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        □■□■□■□ 市松模様
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 図の白い部分は空隙クウゲキ部分であり,黒い部分(実際は緑色)は角化した硬い蜜な組
織となっています。この断面組織は,稜の脈となってずっと上下方向に伸びています。
これは蜂の巣や段ボールなどと同様の,いわゆる複合構造で,軽量でかつ強さもあり,
既述しましたように,隅に集まっていることで茎全体の剛性を大きくする役を果たして
います。
 勿論この組織は,四角形断面に限ったことではなく,他の多くの植物の補強組織部分
にもあることでしょう。そして,このような強化組織を集めて,脈として構造を支える
部分を作り,養分などを通す道管の部分と機能上分離した構成は,茎の剛性を高める上
で非常に効果的であると思われます。
 
〈人口の構造物〉
 それでは,ここで,私共の周りにおいて,四角形断面の形状になっている構造物を探
してみましょう。高電圧の送電線の鉄塔,無線アンテナの支柱,クレーンの骨組みブー
ム,一般構造物のトラス柱,箱形断面の柱や梁などがあります。例えば送電線の鉄塔に
おいては,隅の4本の支柱が荷重を支えていて,それらが離れていても,1本の四角形
断面の柱として挙動するように補助部材によって結び付けられて,四角い茎の場合と同
様な力学特性を示すようになっています。
 クレーンのような箱形梁の場合は,茎の形態から考えて,四隅の形が重要です。従っ
て,隅の部分の肉厚を大きくしたり,隅を強固な結合構造にすると効率の良い梁が出来
ることが分かります。
 
〈果たして根は四角か〉
 ここで一つの疑問が浮かびます。それは,茎の断面が四角形の植物の根の断面は,果
たして四角形か,円形かと云うことです。
 シソの根の断面は円形です。一般に多くの植物の根は円形断面で,四角形の例はない
ようです。
 根の場合,茎のように風などの力によって曲げられることは殆どなく,曲げに対する
強さは必要ではありません。そして,根に作用する力は,伸びる方向の引っ張りの力や,
外側面からの土圧や水圧であり,根にとっては,それらに耐える強さが必要です。そこ
で,茎の場合と異なり,根の場合は,外圧に強い円形断面が適当なのです。
 
〈カヤツリグサは三角形〉
 一方,身近な植物に三角形断面の茎を持つものがあります。カヤツリグサの類がそれ
です。ほぼ正三角形の断面は,中心から最も離れている部分にある表皮に,一様な厚さ
の硬い組織があり,それが表皮を固めると共に茎を支えています。
 正三角形の場合も,断面が曲げられているときの剛性には方向性がなく,円形や四角
形同様,どの方向に関しても一定です。そして,断面二次モーメントは,四角形よりも
大きいのです。
 それに加えて,三角形の頂点は茎の周りに120度毎に現れますので,茎から葉を出した
り,枝を分岐したりするのに,それを足がかりにして,比較的バランスよく順々に行う
ことが出来ます。
 道端においてカヤツリグサを見付けたときは,手にして,この不思議な三角形の断面
を持つ茎をよく見てみましょう。
 
〈個性と遺伝〉
 これまで観てきましたように,四角や三角の正多面体の断面を持つ茎の剛性は,円形
の茎と同様に,断面のあらゆる方向に対して一定です。
 そして,4や3と云った数の規則性は,特徴ある植物の形態を作り出します。それら
は,葉の付き方や花弁の数などに現れたりする法則にもなっています。例えばシソ科の
場合,葉は十字形に対生タイセイするものが多いのです。
 このように,植物は多くの生存のための条件や力学的条件も満たしながら,個性的な
特徴を表す他の条件にも従っています。そして,ときには私共に奇異な感じを与えなが
らも,そこには合理的な法則に則った世界が見られるのです。

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