08c 風変わりな植物
 
〈寄生植物による害〉
 有名な寄生植物は,大部分熱帯産のものです。これらはラフレシア科の植物で,世界
で最も大きい花を付けるラフレシア属の名を採っています。極東,マラッカ,スマトラ,
ジャワとボルネオにこの属の種が幾つかあり,特殊なツタのテトラスティグマ属の植物
に寄生します。
 ラフレシアは珍しい植物で,著者の経験から言っても見付けることは難しい。かつて
著者がジャワに居たとき,ラフレシアはヌサ,ケムバンガン(花の鳥という意味)と名
付けられた沖の小島で見られると聞きました。重い刀で小道を開きながら,ジャングル
の奥深く案内人に付いて行くと,遂に木立の間が開けた処にラフレシアを発見しました。
それは直径が60pもある大きな花で,茶と紫色をして地上一杯に広がっていました。更
に其処から2,3m離れた処に,大きな茶色のキャベツ状の塊がありました。2,3日中
に開花すると思われるラフレシアの蕾ツボミでした。開いた花は腐った肉のように見え,
そんな臭気も鼻を突きます。そして何百匹とも知れないハエが花の上一面に群がり,柱
頭に花粉を運んで受精させていました。
 日本にも寄生植物は生育しています。寄生性の被子植物のうち,主なものとしては次
のようなものがあります。
 
ハマウツボ科 − キヨスミウツボ,ナンバンギセル(ススキ,ミョウガなどの根に寄
 生),オオナンバンギセル(ヒカゲスゲの根に寄生),キムラタケ(高山のミヤマハ
 ンノキの根に寄生),ヤマウツボ,ハマウツボ(海辺のカワラヨモギに寄生)
ヒルガオ科 − マメダオシ(畑のダイズの苗に寄生),ネナシカズラ(山野の木や低
 木に寄生),ハマネナシカズラ(海辺のハマゴウの枝に寄生)
ツチトリモチ科 − ツチトリモチ(ハイノキ属の根に寄生),ミヤマツチトリモチ,
 キイレツチトリモチ(トベラ,シャリンバイの根に寄生)
ヤッコソウ科 − ヤッコソウ(シイノキの根に寄生)
 
 また葉緑素を持ち光合成をしながら寄生している半寄生植物には,次のようなものが
あります。
 
ゴマノハグサ科 − クチナシグサ,ヒキヨモギ,コシオガマ,ママコナ,ミヤマママ
 コナ,コゴメグサ
ヤドリギ科 − ヒノキバヤドリギ(ヒサカキ,ツバキ,サザンカ,モチノキなどに寄
 生),ヤドリギ(エノキ,クリ,サクラの枝に寄生),マツグミ(アカマツ,モミに
 寄生),オオバヤドリギ(カシ,シイノキ,ヤブニッケイに寄生)
ビャクダン科 − カナビキソウ,ツクバネ
 
 更に寄生植物ではないが,葉緑素を持たないため光合成ができず,ある種の菌類と共
生して菌根を作って生活している次のような種類の被子植物もあります。
 
イチヤクソウ科 − ギンリョウソウ,ギンリョウソウモドキ,シャクジョウバナ
ラン科 − ショウキラン,キバナノショウキラン,オニノヤガラ,ツチアケビ,ムヨ
 ウラン
ヒナシャクジョウ科 − ヒナシャクジョウ,シロシャクジョウ
ホンゴウソウ科 − ホンゴウソウ
 
 植物界で最も数の多い寄生植物,それはカビです。寄生性のカビは数千種もあり,そ
の数では数百種の寄生性被子植物を圧倒しています。寄生性のカビはあらゆる植物の病
気の最も有害なものを発生させる原因となっています。例えば,1840年に発生したジャ
ガイモの凶作はフィトフトラ・インフェスタンス,別名ジャガイモのベト病の罹病が原
因で,3年間も作物が枯れてしまいました。そのため100万人以上ものアイルランド人が
死に,幾十万の人々がアメリカに逃れました。この移住者の中には故ジョン・F・ケネ
ディ大統領の曾祖父もいました。もう一つ有害なカビの病気はコムギのサビ病です。コ
ムギのサビ病はどの地方でも言い表せない程長い間,常にコムギの収穫を脅かしてきま
した。その感染源がカビのある特殊な生殖世代に因っていることが判明して,初めて効
果的な防除手段が考案されました。この特殊な生殖世代は第二の寄主であるヒロハヘビ
ノボラズで,有性生殖の時代を過ごした直後です。従って,ヒロハヘビノボラズの植物
を根こそぎにすることが,温帯地方でこの病気を抑制するのに最も効果的な手段でした。
しかし,コムギのサビ病は未だ農業上の大問題の一つとして残されています。
 カビによる病気を見付けるのは易しい。罹病した植物体の上に胞子とか糸状の菌糸が
ある期間に発生するからです。例えば,バラのウドン粉病は葉の上に白いクモの巣のよ
うなものが現れます。サビ病は病気に罹った植物の葉や茎に黄色,オレンジ色,又は黒
色の胞子の厚い塊が作られます。また,木材腐朽菌の多くはキノコを生やすので容易に
見付けることができます。
 バクテリアもまた植物の病気の原因となります。例えばジャガイモやタバコの青枯れ
病がそうです。この微小な寄生菌を見付けるには高性能の顕微鏡が必要です。ウイルス
によって引き起こされる植物の病気もあります。例えば,タバコの葉のモザイク病がそ
れで,葉の表は斑になり,商品価値を無くしてしまいます。ウイルスは非常に小さいた
め,電子顕微鏡でしか観察できません。
 
〈植物と動物の相互援助〉
 植物と動物の関係程,変化に富み広範囲に亘る自然の関わり合いは他にみられません。
特に植物と昆虫の関係は,自然界では重要な魅力に富むものです。昆虫の中で最も進歩
的な社会構成を営むミツバチとアリの類は,植物と密接な繋がりを以て発達しています。
ミツバチは優れた花粉媒介者です。一方,多くのアリは偶然に,或いは必然的に植物を
育てます。例えば有名なハキリアリは,地下室に貯えた葉の上に特殊なカビを育ててい
ます。その他,収穫アリが植物に登って種子を摘み,それを集めて巣の中に貯えて置く
例もあります。熱帯には木の枝の上に"アリの庭"を作る種がおります。一般にこの場合,
着生植物が一面に生えた処に巣が作られます。着生植物は全て油を含んだ果実を着け,
アリはこれを食物として集めます。種子はアリの巣の中で発芽し,着生植物の根はアリ
の巣を定着させるのに役立っています。こうしてアリは食物と安全性を授かり,一方植
物はその分布だけでなく,腐植土や養分の供給も受けているのです。
 ある種の熱帯植物では非常に風変わりな結び付きが見られます。それらのあるものは
セクロピア属やトリプラリス属のもので,アリの群れを収容するのに特に適した構造を
しています。これらの植物の茎には空洞があり,それは偶然にできたものではありませ
ん。これらの植物は茎に特別薄い部分が発達し,アリは其処に穴を空けて中の空洞に近
付くことができます。セクロピアのある種はアリの食糧として葉柄の基部に小さな腫瘍
シュヨウさえ発達させています。更に風変わりなものはメキシコ産の低木アカシア・コルニ
ゲラです。この植物の葉の基部にはアリが棲むための大きな中空の棘が発達しています。
また,それぞれの小葉の先には特別な白い歯のような構造があり,脂肪や蛋白質が貯え
られていて,アリに食物を提供します。いわばこの植物は部屋と食物をアリに与えてい
る訳です。この関係は非常に珍しく,この植物にアリ植物という別名,つまりアリを愛
する植物という呼び名が与えられている程です。
 アリにとっては,こうした植物の構造は極めて都合が良いのです。しかし植物が,ア
リからどんな利益を受けているのか,その点はあまり明らかではありません。ただ,ア
リ植物の多くがハキリアリが群がって荒らしていた地域で初めて発見されたことから,
恐らく自己防衛のためだと推測されていました。つまりアリ植物は他の有害なアリを近
付けないため,無害なアリの一種を惹き付けているということです。しかしこの説はあ
まり正しくないことが判明しました。何故なら,ハキリアリが侵入している間,下宿し
ているアリは隠れ場へ慌てて逃げ出してしまいました。ですから下宿しているアリは宿
主の中へ糞と屑を残し,宿主の植物はそれを養分の少ない地域で生きるための糧カテとし
て用いていることが分かりました。
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