08d 風変わりな植物
 
〈植物にできる虫えいチュウエイ〉
 植物と動物の最も風変わりな関係の一つに,虫えいの形式があります。この異常生長
は,虫えいを作る昆虫が葉や枝に卵を産み付けるとできるもので,屡々ピンポン玉程の
大きさに発達することがあります。例えば,虫えいを作るキバチがカシの芽の先を削り
取って,その切り口に卵を産み付けると,カシの細胞は卵の周りに生長を始めます。そ
して遂にはカシの木の他の部分とは全く異なった非常に複雑な構造を作ります。
 この異常な生長は,明らかに幼虫によって分泌された生長促進物質によって引き起こ
され,植物の細胞をあらゆる方向に生長させます。虫えいを作る昆虫の様々な種は更に
異なった構造の生長を引き起こし,各々の種は異なった生長促進物質を作るに違いあり
ません。ある型の幼虫が完全に成長すると,羽化するため虫えいの表面に出ようとして
トンネルを掘ります。しかし,他の虫えいでは外側の組織が堅過ぎて,幼虫では突き破
ることができません。この場合には虫えいに栓が作られ,適当な時期にそれが取れて,
幼虫は自由に外へ出られます。また,カビの一種が内側に生えてできる虫えいがありま
す。このカビは,親の昆虫が卵を産んだときに残されたものです。この場合,幼虫はカ
ビを食べて成長します。
 
〈食虫植物の生態〉
 植物にはまた,マダガスカル島の人食い木や,その他の恐ろしい植物があります。
 肉食性植物や食虫植物に関する書物の古典の一つに,チャールズ・ダーウィンのもの
があります。小さな葉の上にねばねばした触毛を持つモウセンゴケが,ハエを取るハエ
取り紙のように小さな昆虫を捕らえる様子を書き留めています。葉の上に粘着した昆虫
を,周りの触毛がその上に曲がり込んで更に押さえ付け,動けなくします。その生贄イケ
ニエはモウセンゴケの酵素によって分解されてしまいます。ダーウィンは,どんな小さな
肉や卵白の欠片カケラも,モウセンゴケの葉に係ると昆虫を消化するのと同じ方法で分解さ
れることを発見しました。
 食虫性の植物はこの他にも沢山あります。その殆どは,モウセンゴケのように養分の
乏しい沼沢地で見られます。ピングイキュラはモウセンゴケに非常によく似ているが,
モウセンゴケ程複雑ではありません。この植物は昆虫をねばねばした葉の腺で擒トリコに
し,葉の端を生贄の上に巻き込んでしまうに過ぎません。
 ノースカロライナからフロリダ,ミシシッピの各州にかけて,風変わりな水差しの形
をした葉が,その基部に水のような液を入れて立っているのがよく見られます。これが
ヘイシソウで,その内側には普通アリやガのような昆虫が,下向きに並んで生えた毛に
捕らえられ,外に這い出ることができないでいるのが見付かります。その虫はやがて葉
の基部に溜まった水の中に含まれているバクテリアや酵素によって分解され,消化され
る運命を辿ります。
 更に,もっと精巧な罠ワナを持っているのは,熱帯アジアの蔓植物であるウツボカズラ
(ネペンセス)属のものです。美しく彫刻された水差しが長い葉柄の先に下がり,葉柄
は壺を支えるため木の枝に巻き付いています。その姿は昆虫にとって魅惑的です。昆虫
はまず一種独特の臭いに惹き付けられ,罠の入口に近付き,蜜を分泌する腺を見付けま
す。その腺に辿り着くためには葉の縁を攀じ登らなければならないが,これが水差しの
中に落ち込む結果を招きます。水差しの底にはゆっくり消化する恐ろしい液が溜まって
います。昆虫が這い出るためには,まず消化腺の部分を通り,次いで非常に磨かれてす
べすべした部分を通らなければならないので,殆どの昆虫は脱出できません。例え通過
できても,釘の突き出たように縁に張り出しに直面します。
 最もよく知られた食虫植物の一つは,ノースカロライナ州に生えるビーナスハエトリ
ソウ,一名ダイオネアです。これはモウセンゴケと近縁のものですが,餌を捕らえる方
法は全く異なっています。その葉はロゼット状に平たく地面に横たわり,葉の両端にま
るで鉄の罠のように見え,事実罠のような役目もします。葉の2等分された一つは,1
円硬貨位の大きさで,真ん中に蝶番チョウツガイを付けています。昆虫が葉の表面を歩くと,
葉は急速にパチンと閉じ,歯のような葉縁が噛み合います。ビーナスハエトリソウには,
各葉の半分に3本の敏感な毛が生え,それが生きものと死んだものを区別します。従っ
て,小さな棒切れや小石などにはそのままでは反応しません。葉の2本の毛が続けて触
れたり,同じ毛が2回触れたりしないと閉じません。一度閉じると,罠を段々堅く締め,
葉の表面の消化腺を餌に押し付けると,餌は容易に消化されてしまいます。
 罠作りの複雑さと巧妙さにかけては,文句無しにタヌキモ,一名ウルティキュラリア
が筆頭に挙げられます。美しい青や黄色の花を付けたこの水生植物は,池や溝で見られ
ます。水中に沈んだ糸状の茎には多くの気泡の一端に罠の扉があり,罠の直ぐ外側の触
毛に触ると,扉は急にパチンと開きます。小さな生贄は非常な速さで吸い込まれ,扉が
閉じて余計な水が内側からポンプで押し出されます。生贄の吸い込まれる様子は肉眼や
シネカメラても捉えられない程速い。こうしてタヌキモは他の餌を捕らえるために,再
び罠を仕掛けるのです。日本に産する食虫植物はタヌキモ科の15種とイシモチソウ科の
6種で,次のものはその主なものです。
 
タヌキモ科 − タヌキモ,コタヌキモ,ヒメタヌキモ,ミミカキグサ,ムラサキミミ
 カキグサ,ホザキノミミカキグサ(以上何れも山野の湿地,池沼に生える),ムシト
 リスミレ,コウシンソウ(これらの2種は高山の湿った岩上に生育)
イシモチソウ科 − モウセンゴケ,コモウセンゴケ,ナガバノモウセンゴケ,イシモ
 チソウ,ナガバノイシモチソウ(何れも山野の湿原),ムジナモ(沼や水田に稀に産
 する)

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