08 風変わりな植物
風変わりな植物
参考:タイムライフブックス社発行「植物」
(解説者:米人フリッツ・ウェント)
〈植物群落〉
植物は,他の生物と同じように,それが好む処に生育し,群落を作って快適に生活し
ていると言う考えがあります。しかし,この考えには,一つの逆説が含まれているよう
です。つまり,植物は種子を落とし,それを発芽させる処を自分勝手に選択することは
できないのです。種子は,風まかせ鳥まかせ昆虫まかせで運ばれます。ときには水や,
哺乳類の毛の間に入って運ばれ,その分布は運まかせと言う次第です。それでも,ある
植物が一定の処に生えると言うことは疑いのない事実です。例えば,地衣類が岩の上に
まつわり付き,攀じ登る蔓が苦心の末に木の梢を枯らしてしまったり,寄生植物や半寄
生植物に見られるように,それらはその寄主から必要とするものを供給されます。この
ように,生育場所には必ずそれなりの好条件があるのです。
確かに植物は一定の群落を作り,明確な境界を作っています。我々は,森林をどんど
ん突き進むと,突如として草原や牧野に出くわすのを何度も体験しています。キイチゴ
摘みは,特に注意を払わなくてもキイチゴが垣根の側や森の周りに生え,また野生のオ
ランダイチゴならその辺り何処にでも見つけることができることを知っています。もし,
アツモリソウを教材に使いたいと思えば,森の中の極特定の処を捜せばまず大抵は見つ
かります。このように,はっきりと植物がある処を選び出すことができる理由の一つは,
光,温度,湿度,土などの諸条件に対して植物それぞれが特定の要求を持っているとい
う性格によるのです。
しかし,もし植物の分布が単にこれだけの要因に依存しているのであれば,多くの種
は,もっと広い範囲に亘って分布している筈です。事実はそうではなく,例えば松林の
下生えは広葉樹の下生えとは全然異なっています。このような差異を更に詳しく調べて
みると,一定の植物群落の型がいろいろ浮かび上がってきます。
植物群落は植物共同体とも言われ,お互いに近接して生育しながら,しかも全体とし
ては一つの独立性のある植物集団のことを言います。例えば日本では,常緑広葉樹林と
か落葉広葉樹林などは典型的な一つの植物群落です。更に,それらの中のスギ,アカマ
ツ,クリ,ブナなどの森林も,また,一本の幹に着く地衣類,コケ類,藻類などもそれ
ぞれ一つの植物群落と言えます。このように特別な植物群によって特徴付けられる群落
は,それぞれ6種以上の植物が常に一緒に生育しており,それに少ない個体数の他の種
が一緒に生えています。そして,森や野原というように,群落間の境界は普通明確に描
かれているものなのです。
〈植物のならず者と慈善者〉
植物は何故に,群落をなして生育するのでしょうか。残念ながらその理由は部分的に
しか分かっていません。ただ,この問題のある一面に,極めて興味深い事柄が含まれて
います。それは,植物界にも全く反社会的な植物が存在すると言うことです。ある種の
植物は,明らかに他の植物を抑制して生きています。こんな植物のあるものは,ただ一
方的に土中の水や養分を他の植物の分まで取り上げて,周囲のものに取って替わります。
また,あるものは,分泌物質を撒き散らして化学戦争を引き起こし,その物質で他の植
物の生育を阻止してしまったりします。例えば,幾つかの砂漠植物,有名なゴムを作る
メキシコのグアユールなどは,その根から桂皮酸を分泌します。桂皮酸は他の植物にと
っては有害で,従って何時もグアユールだけが単独で生育できます。また,クログルミ
は根の周りに一種の毒を撒き散らし,他の植物を近付けません。こんな植物のならず者
がいる反面,実に愉快で微笑ましい植物もあります。
他の植物がよりよく育つように援助の手を差し伸べる植物があります。最もよく知ら
れているのは,クローバーです。クローバーの根粒コンリュウには生長を促すバクテリアがい
て,それが空気中の窒素を固定して硝酸肥料を作ります。これはクローバーそのものに
とっても有益なだけでなく,近くの他の植物にも有益です。芝生や新しい庭に,クロー
バーや他のマメ科の植物が屡々他の種子とともに播かれたり,農民が貧弱な土を改良す
るため最初の年にクローバーを播く理由はここにあります。
しかしよく考察してみますと,あらゆる種類が一緒に生育している植物園では,どう
いうことが起こるのかという疑問が生じます。植物園では事実,人々は世界のあらゆる
地方の植物を,しかもいろいろな種類に亘って見ることができます。それらの植物はど
ういう訳か異常な生育も示さず,変化に富んだ条件の中で共存共栄しています。どうし
てそれが可能なのでしょうか。
確かに,あらゆる植物を一緒に育てるのは難しい。しかし,植物園の植物は,人間に
よって細心の注意を払った手入れが施されています。そこには沼地,森,草地,池など,
自然におけるよりもっと変化に富んだ植物の生育条件が,狭い処に手際よく造成されて
います。もし管理人の世話が行き届かなければ,直ぐさま自然の手が荒廃を招くでしょ
う。雑草が現れ,自然の競争が起こり,導入された植物の多くは2,3年のうちに全滅
してしまうでしょう。
このように植物園は,植物をその自然の生育範囲の外でも育てることができることを
示すと同時に,むやみな自然競争を抑えることによって,初めて植物の生育が維持でき
ることも教えてくれます。しかし,植物園という恵まれた環境でも,外国の植物は絶え
ず不利な状態に晒され,その生育はずっと遅く,花も少ししか付けず,よい種子も僅か
しかできません。
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