08a 風変わりな植物
 
〈着生植物のグループ〉
自然の群落の中に生育する植物は,全て何らかの方法でお互いに利益を分かち合い,あ
る程度までそれは許されています。しかし,一方において,全く強引な結び付きも存在
します。その最も極端な場合は,完全な寄生関係にみられます。この場合,一方の植物
は完全に他の植物を犠牲にして生きています。大抵の場合,植物の相互的な寄り合い関
係はお互いに無害です。しかし,中には寄生者が寄主を死に追い遣る例もあります。比
較的無害な型に,木の攀じ登る植物があります。これらの植物には,熱帯産ツタ類や空
中植物といった誤った名が与えられている,着生植物があり,これら着生植物は背の高
い木の多い環境に生育し,その生育に必要な光を十分得るために,他の植物を踏み台と
して利用しています。
 熱帯産ツタ類は最も高い木にでも登り着いて行くが,その方法は極めて興味深い。あ
る種のものは,その茎をどんな支柱にでも巧みに巻き付け,一巻き毎に高く上がって行
きます。これはインゲンマメやフジと同じ登り方です。これと対照的にキュウリ,トケ
イソウ,エンドウなどは巻き髭を用いて登ります。それらの巻き髭は,茎や葉柄が変化
したもので,どんな支柱にでも丁度サルの尾のように絡み付きます。これらの植物が一
度その支えとなるものを見付けるや,其処にぴったり粘り付き,巻き髭が上に向かって
螺旋状に登り,植物の本体を上に引っ張り上げ,更に新しい巻き髭ができて,どんどん
高い処へ達して行きます。
 熱帯産ツタ類の多くは,棘トゲの助けを借りて木に登ります。この棘は,支柱になるも
のなら簡単にどんなものにでも引っかかります。このようにして登るものにバラやトウ
があります。トウは非常に曲がりやすい茎を持った蔓性のヤシ類で,枝編み細工などに
用いられます。その棘は鞭のように長く伸びた葉柄に生え,曲がっています。もし,こ
の鞭が支えとなるものに連結できないときは,その先が垂れ下がり,尖った棘は森の中
などで不注意な旅行者の皮膚を深く切り裂いたりします。
 トウに絡み付かれ,それを支えている木は遂には枯れてしまいます。勿論纏い付いた
トウも下に落ちるが,非常に柔軟性があるため,大抵の場合は折れて枯れるというよう
なことはなく,秋に新しい芽を出して再び他の木に登り付いて行きます。一方,うまく
木に絡み付けないトウがあります。それらは滑り落ち,その茎は絡み合って曲がったま
ま地上に残ります。熱帯のジャングルを通るとき,それらは大きな障害物となります。
 トウは熱帯植物園の管理人にとって常に頭痛の種です。しかし,トウは森の中の興味
深い人気者でもあり,管理人は若いトウを十分成長した木に絡ませて,得意気に名札を
付けたりします。最初の5年から10年の間は,トウの葉や花は名札の近くに大人しくし
ていますが,遂には数百mも離れ,その茎は木から木へと巻き付き,ときには樹冠の中を
攀じ登り,また地上に落ちて再び登り始めたりします。
 木の上に生活する着生植物の第二のグループは,全然木登りしません。この種の植物
は最初から木の上高くで発芽し,其処で生活します。しかし,それらは前述した寄生植
物のように図々しくその寄主に絡み付いたりはせず,ただひっそり太陽光線を得るため
の処を寄主の木に借りているだけです。殆どの着生植物は,湿潤な熱帯に見られます。
熱帯雨林の木や幹や枝には,コケ,シダ,ラン,その他多くの着生植物が群がって生え
ています。
 1本の小さな熱帯植物が,ある木の枝をその生育場所として利用し,森の深い茂みの
陰から逃れているという単純な現象には,着生植物についての問題が無数に含まれてい
ます。着生植物で土に達するに十分な長い根を持っているものは極めて少ない。その多
くは,高い木の上で見付けることができる水と養分だけに頼って生きています。その分
布の仕方にもいろいろあります。ある場合には鳥がその植物に実った漿果を食べ,消化
しなかった種子を木の枝に落とします。このようにして種子は,鳥を介して分布されま
す。しかし,多くの場合,コケやシダでは非常に軽い胞子を作り,また,ランや熱帯の
アナナス科の植物では非常に軽い種子を作って,それらが風によって分布されます。ラ
ンの一つの果実の中には,何と300万にも上る種子が入っています。少なくともそのうち
幾つかの種子は,うまく木の枝の上に宿り着くチャンスに恵まれると言う訳です。
 着生植物が一度発芽すれば,其処に定着して養分や水を得なければなりません。これ
もまた一つの問題です。着生植物は,その特殊で不安定な生活様式のため,実に様々な
適応の仕方をします。
 
〈着生植物の生活様式〉
 着生植物の多くは多肉性で,水分を貯蔵する器官や組織が発達して植物体中の水分を
できるだけ保てるようになっています。例えば,ランの膨れた茎,即ち偽鱗茎ギリンケイと
かペペロミアの厚い葉などがそれです。その他,パイナップルの近縁であるアナナス科
植物にみられるように,植物体の外部に水を貯えて置く処が発達しているものもありま
す。
 この植物では葉の茎部がスカートのフレアのようになり,雨水を貯えるに都合のよい
コップのような役目を果たしています。この植物の貯水装置は非常に効果的なため,他
の植物や動物までがこの水に依存するようになってしまいました。例えば,熱帯アメリ
カ産の水生昆虫の幾種かは,専らこの大きなアナナス科植物のコップの中で見付け出さ
れます。このコップはまた,カにとっても絶好の繁殖場所です。パナマ運河の建設中,
マラリアと戦うための一つの主要な手段として,建設現場近くの全てのアナナス科植物
が除去された程でした。これらの植物のうちでも,最も特殊な適応形態をみせるのは,
恐らくディシディア・ラフレシアーナでしょう。この着生植物は長いもつれ合った茎を
持ち,数本の根で他の木の枝に不安定な状態で付着します。この植物は,普通の葉とと
もに,大きな葉が水差しのような役割を果たせるように発達し,それで水と養分を採っ
ています。それぞれの水差しは,それが茎に付着する処に開口部があり,この水差しの
中に枝分かれした根を送り込んでいます。この水差しは靴下の形をし,あるものは下に
垂れ,雨水を溜めています。他のものは上を向いていて,乾いたままで,アリがその中
に巣を営んでいます。アリの巣の廃物は,この植物にとって格好の理想的な栄養源とな
ります。この植物は,自分で作った食糧庫から養分も水も得ているのです。
 その他の着生植物の多くは,空中の安全な止まり木から腐植土を集めています。この
ような植物の一つにオオタニワタリがあります。オオタニワタリは,篭の形とその役目
をする非常に大きな葉が集まった飾りを作っています。その篭の中には,上の枝の小さ
な葉が落ちて集められます。其処に落ちた葉は,やがて腐植土の塊となります。その塊
は非常に大きく,ミミズが棲んですることがあります。ジャワでは60pもある大きなミ
ミズを,オオタニワタリの中によく見かけることがあります。
 こうした腐植土を集める篭には,更に複雑な変わり種があります。ビカクシダ,一名
プラティセリウムによって作られるものがそれです。このシダは木の幹や上向きの大き
な枝に着生します。このシダは二つの型の葉を形成します。一つは幅が広く上向いてお
り,その基部は幹や枝にぴったり蜜着し,幅広の縁が張り出しています。もう一つの葉
は幅が狭く,葉緑素があって緑色で,着生している枝から立ち上がっています。幅の広
い方の葉は直ぐ枯れて,腐植土を集める篭としての役目を果たすために残ります。幅の
狭い緑の葉は炭酸同化を行います。繁殖のための胞子を作ります。
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