19 森林よ永遠に〈森林生態の意義〉
森林よ永遠に〈森林生態の意義〉
自然の抱擁力は偉大です。「水に流す」と
いうことばが示しているように,人間はその
各種の廃棄物の処理を水や土に依存してきま
した。これらの廃棄物が,水や土の力で浄化
され,自然に帰るということを,人間は経験
的に知っていました。
自然をとりもどすこと,森林をとりもどす
こと,そのためには方策と努力が必要です。
その方策を立てるためにも,努力の目標をき
めるためにも,われわれは,森林というもの
をよく知っておく必要があります。
と,「森の生態」の序で著者只木良也氏が
述べています。
本稿は共立出版発行の「森の生態」を参考
にさせていただきました。 SYSOP
森林よ永遠に〈森林と人間〉
〈この大きな資産〉
森林,それは人間にとって大きな資産です。そして,偉大な芸術品です。
われわれ人間は,大なり小なり森林の恩恵をこうむっています。もし,突然に森林が
無くなったとしたら,現在の人間生活は一日たりとも成りゆかないでしょう。
△林産物の供給
木材の供給があります。木材はそのままで人間の嗜好にじつにぴったりの材料です。
工作しやすいという長所もあります。
燃料としての木材の意味も大きいです。カシの木は火力が強く燃料として最上とされ
ていますので,カシという名は,「炊カシぐ」から転化したという説もあるくらいです。
このほか紙,塗料や薬剤に使うテレピン油やロジン,漆器に使うウルシ,染料などに
使うタンニンなどの原材料も森林からの生産物です。
クリ,アケビなどの果実類,シイタケなどの食用きのこ,山菜や木の芽も食卓を賑わ
します。
△存在自体の価値
森林が存在するということ自体の重要性が見直されることになってきました。
失われていく自然に対する人間の慕情の念です。人間は,本能的に緑,そのもっとも
良質な緑をもつ森林に対するあこがれを持っています。自然に帰りたいという願望があ
ります。さらに,自然から,森林から,なにごとかを学びとろうとしたり,美的対象と
して自然を捉えます。
森林は,それらを十分に満足させ得るだけの価値を持っています。自然保護を訴える
声は,こうした精神的な感情にその端を発しています。
△人間生活を守る
森林は,気象条件を緩和し,騒音を防ぎ,火災の蔓延を防止し,大気を浄化する機能
を持っています。
また森林は,水害,山崩れ,落石,雪崩ナダレ,潮害,霧などから人間を守る機能をも
持っています。水資源の確保,魚類の保全,航海の目標などの効用もあります。
△偉大な資産
しかしこのような森林の効用は,木材の生産以外は経済的に換算することはできませ
ん。世界中の森林から年間20億立米(400億ドル)の木材を伐採していますが,各種の
効用は,この木材生産と等価値,ないしはそれ以上あるともいわれています。この偉大
な資産を守り,次代に伝えてゆくことこそ,現在に生きるわれわれの義務なのです。
〈緑と人間〉
△緑に対するあこがれ
赤色に対する人間の感じ方が「情熱的,行動的,危機感」などですが,緑色に対して
人間は「おだやか,安心感」などを感じます。人間が地球上に出現して以来,森林とと
もに生活してきましたので,人間が緑との結びつきを求めることは,本能的なものとい
ってよいでしょう。森林レクリエーションや,草花・盆栽・庭園づくりなども人間本来
の希求を満たし,緑に対するあこがれなのです。
△森林への復帰
森林はただ単に緑を提供するだけでなく,緑のフィルターを通した柔らかい光線,適
度な湿り気,香気,落ち葉を踏む音,騒音のない世界,清浄な空気など身体全体で快感
を味わうことができます。
都会生活や機械化された環境を脱出し,森林に入り,自然へ帰ることは,健康を取り
戻し,人間性を回復し,家族の絆を密にするなど,大きな保健的社会的利益をもたらし
ます。
△森林と教育
生命の尊厳,人間性の喪失の回復などに鑑み,自然が失われた都会の児童が森林に入
って,植物を手折り,虫を捕らえ,また自分の手で触れ,自分の目で観察し,自分なり
の知識を得ることには意義があります。森林は,その豊富な生物相と,それらによって
演じられる自然界のドラマによって,生物学的分野での無限の興味ある教材を与えてく
れる好適な野外教室です。
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