19a 森林よ永遠に〈森林生態の意義〉
 
〈森林をどう利用するか〉
 △森林景観の変化
 湖底や泥炭の中に埋没している樹木の花粉について,地質年代的に解析していきます
と,氷河期の寒冷気候時代には,森林に大きな変化が起こっています。例えば青森県八
甲田山は,現在はアオモリトドマツが優占していますが,約1万年前にはトウヒ,その
後ダケカンバ,ナラ,ブナへと変化したと推定されています。このような気象条件のほ
か,この3000年の間に人間活動のために,世界の森林面積はその最盛期の半分になった
ともいわれています。
 △森林と農耕
 森林が永続的に成立しているところの土壌は,豊かな地力を持っています。豊かな森
林を保有している地域では,現在でも小面積の森林を皆伐してその跡地を焼き払って耕
し,2,3年農作物を栽培し,地力が低下しますと次のところに移動するということを
繰り返す焼畑農業が行われております。
 また苗木を植栽した後の間に食糧植物を栽培する間作も行われました。
 △すすむ森林破壊
 農地や,工場用地,宅地用地の拡張のため,森林を邪魔者扱いにする見方が根強く残
っています。過去において,森林から木材を供給するだけでなく,その跡地に火を放っ
て破壊してきました。
 △森林利用用途の変化
 森林は,狩猟の場,用材や薪炭材の生産,そしてセルロースなど木質材料の供給など
の価値から,森林が存在するということによって発揮する各種効用,人間生活を守るも
のという価値へと変化してきています。
 △森林生態学
 人間の経済活動の拡大にともない,林業上の重点が,天然林を人工林に変えていくと
いうような,より経済的な,人間のみが指向する樹木や施業方法を採用するという場合
でも,自然の法則に反した方法は永続性を持たず,生物と環境の関係を無視した方法は
定着しません。ここに,生態学を基礎としなければならない理由があります。
 森林の利用用途が木材生産から,公益的用途に重点がおかれるようになっても,森林
を研究し,よく知るためには,純学問的な立場からも,また応用科学としての産業的な
立場からも,生態学が基礎となりますし,生態学に課せられた使命はますます重くなっ
てきます。
                                                                              
森林よ永遠に〈森林とその分布〉
                                                                              
〈気候と植物帯〉
 わが国のように,南北に長く延びた国土の自然は,地域ごとに様子が違います。森林
の外観もそれを構成している個々の生物も,南の森林と北の森林とでは全く違うのがあ
りますが,こうした違いは主として気候条件の差がもたらしているのです。
 植物分布が決定する気候の大きな因子は,降水量と温度です。気候の乾湿状態から植
物帯を分けてみますと,砂漠 ― ステップ ― サバンナ ― 森林 という一つの系列が
できあがります。わが国を含めた含めた東アジアのように,森林が成立するのに十分な
雨量のあるところでは,温度の違いによって,多(降)雨林 ― 照葉樹林 ― 夏緑樹林
 ― 常緑針葉樹林 という温度的な植物系列が認められます。
                                                                              
〈主な森林帯〉
 △多(降)雨林
 湿潤気候下の熱帯,亜熱帯で発達する森林です。年間を通じて降水量が多く,温度的
にも最高の条件にありますので,植物はすばらしく生育します。
 常緑の大形の広葉をつけ,板根や支持根をもつもの,幹に直接花をつけるものなど特
異な形態をもつものも多いです。またツル性植物も極めて多いです。
 亜熱帯は,台湾,沖縄,奄美群島あたりまでがこの範囲に入ります。
 △雨緑林
 熱帯,亜熱帯で,雨期,乾期の差がはっきりする準湿潤気候のところでは,乾期に落
葉する落葉広葉樹林を生じます。雨期に緑となるため,雨緑林と呼ばれますが,乾期で
も乾燥することのない河川の周辺には,常緑の河辺林と呼ばれる森林が発達します。
 中国南部,インドシナ半島中部,インド東部,フィリッピンのルソン等などに分布し,
チークが有名です。
 △照葉樹林
 湿潤気候下で暖温帯になりますと照葉ショウヨウ樹林が現れます。この地帯では,多雨林
に引き続いてやはり常緑広葉樹林が成立しますが,それを構成する樹木は,冬の寒さに
抵抗するため,その葉はツバキの葉のように小形になり,革質で厚く,光沢があるので
照葉樹と呼ばれています。
 照葉樹林が分布する暖温帯の湿潤な気候は,世界中で東亜のみに出現し,日本の西南
部,台湾,中国中南部,熱帯地域の山地などに分布します。カシ類やシイ類などのよう
な常緑のブナ科,クス科,サザンカ科の樹木を主要な構成者としています。
 △暖帯落葉樹林
 準湿潤気候では,暖温帯に入っても時期的に落葉する落葉樹林が続きますが,ここで
の落葉は乾燥と低温によって冬期に起こります。わが国では湿潤気候であるので,暖温
帯は照葉樹林となりますが,東亜の準湿潤気候暖温帯地域では落葉樹林帯が広く分布し
ます。アメリカ大陸も落葉樹林でナラ類,クリ類が優占します。
 △硬葉樹林
 地中海沿岸の常緑広葉樹林は硬葉樹林と呼ばれています。この地域は冬に雨が降り,
夏には雨が少ないため,オリーブやコルクガシなどのように葉が小さいのが特徴です。
 △夏緑樹林
 湿潤気候,準湿潤気候とも,さらに低温帯に入りますと,湿潤度はあまり重要な因子
でなくなり,ともに夏緑樹林が成立します。湿潤が高いところではブナ,低くなるに従
ってシナノキ,カエデ,ニレ,ナラ類などが優占します。わが国では東北地方,北海道
西部,大陸では中国東北部,中部ヨーロッパ,アメリカとカナダ国境地帯に分布します。
 △温帯針葉樹林
 気候帯とははっきり対応しませんが,夏緑落葉広葉樹林に混じって,針葉樹林の発達
する地帯があります。わが国から台湾,中南中国の山地にかけて,ブナ林やナラ林の間
に存在します。ツガ,モミ,スギ,ヒノキ,トガサワラ,アスナロなどの有用針葉樹で,
林業的にも重要な役割を果たしています。
 このタイプはアメリカ大陸のロッキー山脈以西の海岸地帯に分布し,セコイヤ類が生
育します。
 △常緑針葉樹林
 温度が低くなるにつれて樹種は単純化してきます。亜寒帯には常緑針葉樹林が成立し
ます。特にユーラシア大陸,アメリカ大陸の北方に東シベリアを除いて北極をとりまく
形で常緑針葉樹林が帯状に発達し,北方針葉樹林と呼ばれています。トウヒ類,モミ類
が優占し,マツ類,カラマツ類,カンバ類などが混じります。
 △落葉針葉樹林
 大陸内部の東シベリア一帯には,落葉針葉樹であるダフリカカラマツの単純林が広く
分布します。乾燥にもかかわらず,地中の永久凍土層によって水分が保持されて森林が
成立するのです。
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