11a 地球温暖化現象と森林
3 温暖化の影響
森林生態系は地球温暖化によってさまざまな影響を受けると予想される。温暖化の詳
細なシナリオは明らかなでないので,その予想も不確かな部分が多いが,いくつかの点
が指摘されている。森林帯の分布を規定する基本的要因は気温と水分条件である。した
がって,温暖化に伴い森林帯の北及び高標高への移動が予想される。しかし,森林帯の
移動は長年月を要し,気温が2℃上昇したとしてもすぐ移動するわけではない。短期的
な影響としては種の開花期などの植物季節や生長量が変化し,これに伴い種の隔離分布
の撹乱による雑種の増加や種間競合による種の分布域の変化などが考えられている(下
表)。
気温の上昇が森林帯,群落に与える影響 (斉藤 1989)
〈気象気温上昇は2℃前後
《気象変動》 〈平均降水量の増加と降水帯の北方移動
| 〈海面水位20〜110の上昇
|
短期的移動 |
↓
植物季節の変化 雑種増加の可能性
成長量の変化 −−−−→
生育適地の変化 植物分布域の変化
|
中期的影響 |
↓
森林群落構成種の移動
一年生草本 南北境界部分からの移動開始
多年生草本 −−→ 隔離分布地,稀産種は消滅の可能性有り
低木類 群落の種組成は入り乱れ推移帯は拡大
高木類の順に移動
森林帯・群落の移動
|
長期的影響 |
↓
森林帯・群落移動
気温上昇が2℃前後で終了し,長期に温暖な
気候が継続する場合に予測される植生分布
種の分布域の変化は分布の限界域からはじまり,分布域の狭い樹種では生存できなく
なる可能性もある。また,純一次生産力も大きくは気温と水分条件に依存し,高生産力
地域(10t/ha以上)は多湿な熱帯・温帯に分布している。CO2濃度の上昇そのものは
生産力を高めるとみられるが,高温化とともに乾燥化を伴う地域では生産力は低下する
と考えられる。温暖化は多雪地帯の移動や雪質の変化をもたらすので,こうしち変化に
適応できない樹種では生育が阻害される。また,病虫害の生息域の変化に伴う被害の発
生も考えられる。たとえば,マツノマダラカミキリの生息分布は積算温度に依存するの
で,温暖化によってマツ枯れ被害の北への拡大が予想されている。
4 温暖化対策
温暖化対策については二つの面から考慮する必要がある。一つは温暖化の抑制策で,
換言すればCO2濃度の上昇抑制である。現状は森林がCO2のソース側にあるので,シ
ンク側にできるだけ早く近づける必要がある。このためには植林等による森林の造成・
再生と衰退・劣化した森林の活性化を図ることによってCO2の吸収・固定を促進するこ
とである。しかし,CO2ソースとなっているのは主に熱帯地域で開発途上国であり(下
表),森林消失の背景には人口増加などの社会・経済的問題があるので,これらの問題
を考慮した先進国の技術協力が不可欠である。
もう一つは温暖化した場合に適応しうる対策である。その対策は温暖化の影響予測に
基づいて立てられるが,温暖化のシナリオが不確かな現状では,一般的な適応策として
は森林群落の適応ポテンシャルを高めておくことである。たとえば,森林の育成管理に
おいて環境変化に対して遺伝的に広い適応幅をもった多様な樹種からなる森林の育成が
基本となろう。また気象害や病虫害発生予測のモニタリングシステムと防止策を確立し
ておくことなどが必要となる。
熱帯林の消失に伴う炭素の放出量(1980年) (単位:10^12 g/y)
温帯・亜寒帯地域 熱帯地域
USA・カナダ 25 熱帯アメリカ 665
ヨーロッパ -28 熱帯アフリカ 373
USSR 35 熱帯アジア 621
日本・韓国 - 3
中国 69
北アフリカ・中東 7
オーストラリア・ 28
ニュージーランド
合計 133 合計 1,659
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